晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

スコット・トゥロー 『死刑判決』

2009-10-13 | 海外作家 タ
80年代のアメリカで、法廷サスペンス小説ブームのさきがけ
となった、スコット・トゥローの「推定無罪」をどうしても読みたく
なり、本屋へと足を運んだのですが、その目当ての本が無か
ったので、同作家の別の作品を買って読むことに。
案外、こういうなかに思いもよらぬ名作、傑作と出会うもので
して、たんあるラッキーといってしまえばそれまでですが、自分
のセンスが光った、などと自画自賛したくもなります。

この作品は、原題が「Reversible Errors」、破棄事由となる
誤り、という訳となり、説明によると「再審理している上訴裁
判所が、一審判決を無効にせざるをえないほど重大な法的
誤謬。第一審裁判所はその判決を破棄するか、審理をやり
直すか、さもなければ判決を修正するよう指示される」とあり
ます。

ある町外れのレストランで、店主と客の女性、男性の3人が
射殺され、町のチンピラのロミー・ギャンドルフが逮捕され、
死刑判決が下されます。
それから10年後、ロミーの死刑執行まで1ヶ月となったとき
に、人身保護手続きのため連邦裁判所から弁護を押し付け
られた弁護士アーサーのもとに、10年前の3人惨殺事件の
真犯人はわたしだ、という男が現れるのです。

ロミーの判決は州裁判所で下されており、彼の無罪と真犯人
の立証の舞台は、連邦控訴裁判所へと移されます。しかし、
現在の主席検事補のミュリエルは、10年前の裁判での検察
を務めており、郡検事の跡を継ぎたいミュリエルにとって、差し
戻しは過去の汚点となるために防ぎたいところ。
そして、当時の判事ジリアンはこのロミー裁判ののちに収賄で
逮捕されて、しかし実は彼女はこのときドラッグ中毒であり、こ
れが露見すれば、当時の裁判そのものが成立しなくなります。
アーサーはジリアンに助言を求めますが、アーサーは彼女に
惹かれてしまい、やがて二人は恋仲に。
一方ミュリエルはというと、10年前にロミーを逮捕した警察官
ラリーと当時不倫関係であり、今回の連邦裁判でふたたび会
うようになります。
ロミーは完全に自白していて、その際に警察からの強要はなく、
しかし真犯人と名乗る男は、癌に冒されて余命いくばくもなく、
今さら嘘をつくとも思えません。

はたしてこの事件の真相はどうなのか。アーサーとジリアン、
ミュリエルとラリーの関係が10年前そして現在と交錯し、この
4人の視点と主観から、事件と裁判が描かれていて、エゴなの
か屈折した愛情なのか仕事に忠実なのか、善悪とか是非では
まとまりようもない人間ドラマがそこにあるのです。

話の後半に、死刑について考えさせられる一節があり、被害者
の家族や友人にとっては、少なくともだれも二度とこのろくでなし
に自分と同じような悲しい目に合わされずにすむという安心感は、
残された者の心の均衡を保つ、というもの。
たしかに、死刑になったからといって被害者が戻ってくることには
なりませんが、遺族の「心の均衡を保つ」ことが、人権問題や死刑
廃止などでないがしろにされてはいけないのです。
コメント
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