非国民通信

ノーモア・コイズミ

雇用者天国ニッポン

2010-03-01 22:57:45 | ニュース

私を虜にしたベトナムという名の「熱」(日経ビジネス Associe)

 私たちの会社はまだ、いわゆる“いい大学”を出た若者が新卒で入ってくるような会社ではないかも知れません。表現が良くないかも知れませんが、履歴書が華やかではない人が応募してくることの多い会社です。「この期間、あなたは何をしていたの?」という期間が1~2年は必ずある、そんな経歴の若者たち。そういう日本の若者たちを見ていると、給料の額に対してガツガツしていないんですね。それよりも自分がいかにこの会社で存在感を出して、お客さんの信頼を勝ち得てお金を稼ぐかを考えている。だから組織に対するロイヤルティーも高い。僕はベトナムの若者の方が日本人よりも、ハングリー精神があるのではないかと考えていた時期がありました。しかし就職難のこの時期に、安い給料で私たちと働いてくれている日本の若者を見ていたら、実は彼らの方が危機感を持っているのではないかと思うようになりました。

 ベトナムの若者は、勉強したいという意欲は強いと思います。僕はほとんど都市部しか見ていないので、地方がどうなっているかは分かりませんが、都市部の進学率は高くなってきていると思います。ただ、本当に優秀な人はベトナムの大学には行かない。日本や米国などに留学しますよね。そんな経歴の若者に多いのですが、日本の有名大学を卒業して帰ってくると、就職の面接試験でこちらが驚くようなことを言う。「給料はたくさんほしい」「自分みたいに優秀な者はいない」…。日本の有名大学を出たといっても、実情は留学生ということで「ゲタ」を履かせてもらって卒業したケースもあるわけですが。そんな高飛車なことを言っていた若者たちは結局、就職できずに自分でビジネスをやるしかなくなるケースが多い。だけど大概は、うまく行かないんです。

 彼らの言う「ハングリー」とは、子ども時代に社会全体が貧しかっただけのことで、実際には甘やかされています。満足に食事ができなかったのも、当時はそれが普通だった。そういった経験を「ハングリーだった」と彼らは言いますが、それは違う。だから仕事でプレッシャーのかかる状況に追い込まれると、大概は耐えきれなくて辞めていく。意外にガッツのない若者が多い。はじめのころ、僕もそこを誤解していました。むしろ日本の若者の方が危機感を持っています。この十何年かを振り返って考えてみてください。社会全体で年収がどんどん下がっていき、ここにきてこの就職難でしょう。これで危機感を持たなかったらおかしいでしょう。でも今のベトナムはインフレだから、どんどん給料が上がっている状況です。何もしなくても上がっていくんですよ。社会全体がそうですから。

 「裕福に育った人にはハングリー精神がない」というようなことを言う人がいますよね。でも、僕はそうではないと思います。ベトナムで働いている日本人スタッフを見ていると、特に。あるとき、「この子は日本語が話せないのに来日して、1年で日本語が話せるようになったんですよ」と、ベトナム人の若者を紹介されたことがあります。それならばということで、米国公認会計士の勉強をするためのお金を出してあげました。でも、甘やかされて育ったんでしょうね。結局、出したお金は遊ぶために使われ、勉強はしない。確かに日本語は上手いんですよ。結局、分かったのは、その青年が「日本人で、ベトナム語が上手いだけの人と一緒だ」ということ。はじめからそういう風に捉えていれば、高く評価することもなかったでしょう。でも実際に、年配の日本人が若いベトナム人を高く評価しすぎたことが原因でトラブルになることは多いんですよ。だまされたり、期待を大きく裏切られたり。

 そう考えると、僕のベトナム人パートナーがよく言うのですが、「部下として持つのは日本人の方が、気が楽でいいかもしれないですよ」という言葉がすんなりと頭に入ってくる。実際、私たちの会社に入ってくる日本の若者を見ていると、自分の置かれている状況に対して危機感を持っている。そして、お金よりも仕事があることに喜びを感じている。この会社が伸びていき、そのなかで自分が存在感を高めていけば必然的に給料も上がるだろうし、待遇も良くなっていくだろうと考えている。若い子たちは根性がありますよ。

 ちょっと引用が長くなりましたが、ベトナムで会社をやっている人の話です。現地の若者ではなく、日本の若者を雇った方が何かと楽みたいですね。何でもベトナムの若者は「給料はたくさんほしい」「自分みたいに優秀な者はいない」と「就職の面接試験でこちら(=日本人経営者)が驚くようなことを言う」そうです。たぶん、日本以外の若者はどこも似たようなものなのかも知れません。一方で日本の若者は「給料の額に対してガツガツしていない」とのこと。言及されているハングリー精神や危機感云々を鑑みても、やっぱり日本人を雇うのが一番、雇用主にとっては楽であると言えそうです。

 製造業なんかは基本的に人件費の低い地域でやった方が有利なわけで、かつて日本の製造業がアメリカの製造業を追いやったように、今度は韓国や中国の製造業が日本の製造業を追い詰めていく、その辺は必然的な流れと言えます。そこで欧米だったら製造業依存を脱して高付加価値産業への転換を目指し、日本であれば規制緩和などを通じて労働者の人件費を押さえ込むことで人件費の低い国に対抗しようと試みているところですが、まぁ後者の対応は延命策に過ぎず、誰をも不幸にする愚策でしかありません。そうであるにも関わらず「経済に詳しいフリをしている人」は、人件費(=賃金)を下げないと雇用が流出してもっと苦しくなるぞとハッタリをかますわけです。でも実際に現地で働く人に言わせれば、日本人を雇った方が楽だと。

参考、「派遣禁止なら海外移転」は6%に止まる

 現地採用ならベトナム人と同程度まで賃金を押さえ込めると言うところもあるのかも知れませんが、ともあれ日本人には「ハングリー精神」「ロイヤリティ」「危機感」と言った現地人には望めないものが期待できるわけです(本来ハングリー精神とは「給料はたくさんほしい」と言い出すようなメンタリティを指すと思うのですが)。相応の対価を約束しないと満足に働いてくれない現地人よりも、薄給でも当然のように企業に奉仕してくれる日本製の社畜の方がコストパフォーマンスは高いのでしょう。ましてや日本から海外に拠点を移す膨大なコストを鑑みれば、人件費が少しくらい割高でも日本人を雇った方が安上がり――そう考える雇用主も今後は増えていくでしょう。

参考、日本人の方が安上がりになる日が来るかも

 中国でも、労働者が色々と要求してきて大変だと伝えられているわけです。やはり文句を言わない日本人を雇った方が楽なのかも知れません。しかも中国の人件費は今の時点でこそ安いですが、将来的には徐々に上昇し、日本との差は縮まっていく一方でしょう。そうなったらどうするか、より人件費の安い国を求めていくとしても、その中国より人件費の安い国の一つであるベトナムでも、やっぱり現地人は日本人より扱いにくいわけです。そしてベトナムの人件費だって上昇していく、日本との差は縮まっていきます。結局、お金ではなく仕事の方に喜びを見出す、made in Japanの社畜の方が安上がりになりかねません。日本は(発展途上国に比べて)安価な労働力の調達先ではなくとも、従順な労働力の調達先として、雇用側から見れば十分に魅力があるのですから。

 

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