リーマンショック以降、日本全体は不景気の闇の中から抜け出せず、一方、中国はV字回復を成し遂げている。もちろん作られた数字だという懐疑はあっても、日本より早く、確実に浮上していることは間違いないだろう。そのような経済環境の中で、専ら日本向けに特化した中国内の部品サプライヤーは、日本の顧客バイヤーからの厳しい要求と、中国内の売り手市場の雇用環境の中で悲鳴をあげている。
需要より供給の上回る不景気な国から、供給より需要の上回る好景気な国への輸出が、本来の状態だろう。大雑把に言うと、そのようなバランスの上にグローバル調達というものが成り立つ訳である。ここで言う需要や供給の対象は、ものに限らず労働力など広く考えてのことである。ところが、現在の中国調達は好景気の中国から不景気の日本への物流であるから、当然に不自然さが歪みとなってきしみ音が出てくる訳だ。
実際、今の中国では労働力の確保に各サプライヤーは苦労している。一言で言えば、労働力の売り手市場で、いわゆる民工たちが我がままになっているのだ。最近、上海のサプライヤーの総経理から聞いた話では、春節を前にして結婚式だ、なんだかんだと言って1ヵ月も前から帰省するものまでいる。以前だったら、そんな輩は二度と雇用されなくなってしまったが、今は内陸部に仕事が増えていることもあり、我がままが通ってしまうという。
「中国は」と言うより「日本以外の国」は大筋で景気回復に向かっているような気がしますが、ともあれ日本と違ってちゃんと景気回復に向かっている中国では、必然的に労働者の立場が強くなっているようです。日本の政財界や「経済に詳しいフリをしている人」は往々にして経済成長に否定的だったりしますが、やはり景気が良くなって労働者側の立場が強くなるのが嫌なのでしょうかね。いかに世界で日本の地位が低下しようとも、国内における雇用側と労働者側の力関係を維持することの方が彼らにとっては重要なのでしょう。
まぁ日本でも「バブル」と呼ばれた時代はそれなりに売り手市場で、雇用側が労働者側に気を遣う場面もあったと聞きます。日本であっても景気が良ければ多少は風向きも変わるのかも知れません。ただ日本において、「バブル」の時代とはあくまで反省の対象であって、決して「上手く回っていた時代」とは見なされていないのも事実です。企業側が求職者に頭を下げるような時代を誤りと見なし、その再来を避けようとするのもまた日本的な考え方と言えます。
なにはともあれ、中国の労働者が「我が儘」になっているそうです。当然の反応ですね。それが市場原理というものですから。労働力需要が求職者数を上回っているなら、待遇を良くして労働力を惹きつけるしかありません。そうして会社の収益だけが伸びるのではなく、働く人の賃金も増えていく、それで消費も伸びて社会全体が豊かになっていくわけです。まだまだ途上であっても中国は順調に発展の道を歩んでいます。
一方、労働力需要が求職者数を大きく下回るなど中国とは正反対の方向に向かっている我らが日本はどうでしょうか。中国でも繁忙期の1ヶ月前から帰省しようものなら「以前だったら、そんな輩は二度と雇用されなくなってしまった」そうです。あくまで「以前だったら」。翻って日本はどうでしょうか、繁忙期の1ヶ月前から休みを取ることが今の日本で許されるとはなかなか考えにくいのが現状です。代わりなどいくらでもいる、もっと会社に従順な人に置き換えられてしまう可能性が極めて高いです。う~ん、もしかすると日本人の方が扱いやすいのでは?
どこの国でも景気の波がありますから、時には中国の景気が失速する次期も出てくるはずです。その時は中国でも雇用側の立場が強くなるでしょうし、なんだかんだ言っても当面は中国の方が人件費も安いでしょう。ただ、多少の波はあっても人件費は上がっていくわけで、緩やかに低下を続ける日本の人件費との差は確実に縮まっていきます。売り手市場で「我が儘」な中国人労働者を雇うより、永遠の買い手市場で調教済の日本人労働者を雇う方が遙かに経営側が楽を出来る、そんな日は決して遠いことではないのかも知れません。緩和の度が過ぎた労働規制を見直すと雇用が海外に流出すると脅しを掛ける「経済に詳しいフリをしている人」は枚挙にいとまがありませんけれど、実は労使の力関係が強力に固定されている日本国内に止まった方が低リスクで安く付く、そういう時代はすぐそこまで来ているような気がします。
あと、中国でもこんなことが続いて、日本同様上に従順な人間になるべしというような教育が施されないか心配です。日本と同じような発想を持つ中国だけに…。
そのうち海外の企業が従順な労働力を求めて日本の生産拠点を移してきたり、ですね。一方で公害とかでは日本の轍を踏むところのある中国ですが、労働環境はどうなるでしょうか。