Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

事業仕分けと MacBookAir

2010-05-05 23:20:09 | Weblog
本書の前半は,昨年の鳩山政権発足以降行なわれた,事業仕分けのドキュメントである。著者の若林亜紀氏は元々厚労省系の研究所に約10年勤め,その「実態」を内部告発して,その後ジャーナリストに転じた。そうした経緯もあり,この事業仕分けに関わることになった。事業仕分けは一種の政治的なショーであるが,そこに関わった仕分け人たちの苦労や情熱がいかに大変なものであったかが紹介されている。

こうした努力がなされたにもかかわらず,削減された予算は結局2兆円ほどで,民主党が公約で掲げた目標額を大幅に下回ることになった。その原因は,閣僚や政務官が省庁の擁護にまわったことにも現れた官僚のしたたかさ,民主党の支持団体である官公労の力,そして首相のリーダーシップ不足などにあると著者は指摘する。本書のタイトル「裏切りの民主党」は,著者の失望と怒りを表している。

裏切りの民主党,
若林 亜紀,
文藝春秋


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本書では独法や特殊法人におけるムダが次々と告発されていく。先頃,配偶者を月収50万円の秘書として雇っている研究員がいると報道された理化学研究所の話も出てくる。元職員によれば,月20万円かけてハイヤー通勤している管理職がいるという。そして「パソコンは年2回買い替え、常に最新のものを揃えています。機能を使いこなしているわけではなく、Mac のブックエアなど、デザイン優先です」とある。

ん?Mac Book Air を買うのは,製品の機能よりデザインを重視することで,税金をムダに使うことになる?理化学研究所の幹部研究員が,国内外の学会出張に持ち運びが便利で,表現力の高いプレゼンを実行するため Air を購入したということではないのかな?年2回パソコンを買うのは自分用ではなく,研究室の環境を整備するためでは?実際に何があったかは知らないが,そういう可能性だってあるのでは・・・。

別に独法/特殊法人の研究機関をかばいたいわけではない。そこに隠されたムダがあることは事実。組織ごと廃止する必要がある機関も少なくないはずだ。一方,あれは贅沢,これはムダと細かい支出をチェックすることに意味があるのかとも思う。科研費の執行の規制が厳しくなったせいで,逆にムダな事務労働が増えているのではないか。ムダの追放運動が,かえって官僚制度の拡大につながらないかと心配になる。

事業仕分けには啓蒙としての価値はあるが,最終的に国家予算を削減するには,著者が指摘するように,省庁別にシーリングをかけるほうが効果的だろう。個々の組織に支出を削減させる誘因と権限を与えるということである。もう1つ欠かせないのが,成果の正当な評価。どのパソコンを買うかをあれこれいうよりは,そのパソコンで何が生まれたかを問うべきでは。もちろん,それが一番難しいことだが・・・。

ちなみに,ぼくの Air は私費で買ったものだ。公費で買うには贅沢だと思ってそうしたのではない。発売された時期に予算がなく,待つ気にもなれなかったので自分で買った。しかし,もし何らかの公費で買っていたら,それ相応の説明責任が生じていたことになる。ただ,デザインのよさも購入した要因の一つであることは間違いないから,それはムダじゃないかと責められたとき,どう答えるべきか・・・。

献本御礼

2010-05-01 14:06:39 | Weblog
立て続けに献本いただいた。この場で御礼申し上げるのは変かもしれないが,世に広く伝播させる一助になればとおもい,紹介させていただく:

日本人の心理・行動モデルと日本企業のクォリティ

山下 洋史,
白桃書房,


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明治大学商学部が中心に行った,文科省オープンリサーチセンター整備事業「クォリティ志向型人材育成とスマート・ビジネス・コラボレーション」の成果が収められた論文集。主にHRM系の論文が中心だが「日本における欧米志向・ブランド志向の消費者行動」や「国際浅草学」はマーケティングにおおいに関係する研究である。

大逆転のブランディング どん底から成長した13社に学ぶ

田中 洋,
講談社,


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最近の日本でブランド作りに成功した13の事例が紹介されており,授業の教材にもなる。著者の田中洋氏は,消費者行動理論の体系化とブランド戦略の事例研究の双方ですでに多くの本を出されている。自分と比べるのはあまりにおこがましいが,その生産性の違いにいまさらながら愕然とする。

マーケティング (New Liberal Arts Selection)

池尾 恭一,青木 幸弘,南 知惠子,井上 哲浩,
有斐閣


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有斐閣の New Liberal Arts Selection シリーズは,これまで社会科学の各分野で本格派の教科書を世に送り出してきたが,いよいよその「マーケティング版」が出た。日経の同様のシリーズからすでに発売されている,小川孔輔『マーケティング入門』と価格も厚さもほぼ同じである。

今後,この2冊が日本のマーケティングの教科書の覇を競うのかもしれない。ちなみに,わが2年生のゼミでは現在,小川『マーケティング入門』を輪読中だ。来年度は池尾・青木・南・井上(I_AM_I) 本を使って,味わいを比較することも考えられる。ただ,どちらも持ち運びがちょっと大変だ・・・。