上智大学で開かれた,産業・組織心理学会研究部会「ニューロ・マーケティング」を聴きに行く。冒頭,経済学者の青木研氏が「神経経済学ってなに?」という報告。Science に掲載されたフレーミングや最後通牒ゲームに関する脳科学的研究などが紹介された。次いで,武者利光氏の「脳電位解析による心の状態の数値化表示とその結果について」。脳波から脳機能を探る数々の実践的な事例が報告される。最後は田中洋氏が「『欲望解剖』をめぐって ~消費現象の探求~」。茂木健一郎氏との共著の紹介と今後の研究課題など。
武者利光氏は,脳というブラックボックスに深く入りすることには懐疑的だ。脳波で把握できる脳機能のレベルで,実用上は十分だということだろう。10個の電極から得られる3種の脳波の間の相関(135変数)を喜・怒・哀・楽に対応する4次元に集約する。それらは情動の独立な元素であり,その組み合わせでより高次の感情が説明される。氏の設立したベンチャー企業は15年以上も前から,この手法を製品開発から医療・福祉まで,さまざまな領域に適用してきた。つまり,ニューロ・マーケティングの先駆けであったわけだ。
本格的な脳神経科学研究のツールをいきなりマーケティングなり消費者行動研究に持ち込むことは,話題性を獲得するうえでは有効だが,研究または実務上実質的な成果につながる保証はない。大山鳴動してネズミ一匹,ということが十分予想される。脳波は限定された情報しか提供しないが,fMRI などに比べると格段にコストが安いし,より自然な状況での測定ができる。また,マーケターが知りたいことが消費者の「隠された」情動の種別であって,脳機能そのものではないのだとしたら,そこで得られる情報で事足りる。
武者氏の講演でいくつか,聴衆がざわめいた瞬間があった。1つは,感情について心理学から学ぼうとしたが,何もなかったという趣旨の発言があったとき。この会合には心理学者が多く集まっていたはずだ。もう1つは,質問紙調査の結果はウソが多い,と指摘されたとき。これには意識下で起きていることに本人が気づいていない,気づいているが適切にことばにできない,意図的にウソをつくという3ケースあるという。ここで反応したのは,意外と多く集まっていた,マーケティングの実務家たちかもしれない。
武者利光氏は,脳というブラックボックスに深く入りすることには懐疑的だ。脳波で把握できる脳機能のレベルで,実用上は十分だということだろう。10個の電極から得られる3種の脳波の間の相関(135変数)を喜・怒・哀・楽に対応する4次元に集約する。それらは情動の独立な元素であり,その組み合わせでより高次の感情が説明される。氏の設立したベンチャー企業は15年以上も前から,この手法を製品開発から医療・福祉まで,さまざまな領域に適用してきた。つまり,ニューロ・マーケティングの先駆けであったわけだ。
本格的な脳神経科学研究のツールをいきなりマーケティングなり消費者行動研究に持ち込むことは,話題性を獲得するうえでは有効だが,研究または実務上実質的な成果につながる保証はない。大山鳴動してネズミ一匹,ということが十分予想される。脳波は限定された情報しか提供しないが,fMRI などに比べると格段にコストが安いし,より自然な状況での測定ができる。また,マーケターが知りたいことが消費者の「隠された」情動の種別であって,脳機能そのものではないのだとしたら,そこで得られる情報で事足りる。
武者氏の講演でいくつか,聴衆がざわめいた瞬間があった。1つは,感情について心理学から学ぼうとしたが,何もなかったという趣旨の発言があったとき。この会合には心理学者が多く集まっていたはずだ。もう1つは,質問紙調査の結果はウソが多い,と指摘されたとき。これには意識下で起きていることに本人が気づいていない,気づいているが適切にことばにできない,意図的にウソをつくという3ケースあるという。ここで反応したのは,意外と多く集まっていた,マーケティングの実務家たちかもしれない。