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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

辞書式選好,恐るべし

2009-07-27 21:09:32 | Weblog
Marketing Research (Summer 2009) に掲載された Decisions, Decisions という論文が面白い。それによれば,非常に単純な辞書式選好モデルが,補償型選好モデルの代表格である多項ロジットモデルを予測精度で上回るという。その方法は,選択肢ごとの属性評価値(5点尺度)と属性の重視度(順位)をもとに,辞書式順序づけを再現するような線形選好関数を「機械的に」作る。つまり,統計的に推測されたモデルではなく,自己申告だけを頼りに組み立てられたルールベースのモデルである。それがノーベル経済学賞受賞者が開発した多項ロジットモデルを上回るとは,何ということか。

もちろん,マーケティング・サイエンスの研究者であれば,この辞書式選好モデルが個人差をストレートに反映している(なぜなら,個々人が申告した属性に対する順位をそのまま利用するから)にもかかわらず,多項ロジットのほうではそれを考慮していない点がアンフェアだと指摘するだろう。潜在クラスであれ階層ベイズであれ,何らかの方法で個人差を反映した多項ロジットモデルであれば,予測力で負けることはないかもしれない。ただ,それをするには,実務家には難解なアルゴリズムが要求されるし,計算時間も長くなる。そのコストをどう考えべきか…。

辞書式選好モデルであれば,競合の導入に対する非-比例的な(つまり非IIA的な)シェアの変化を予測できると著者はいう。これまた,入れ子型ロジットを使ったらどうかとか,より高度な非 IIA 型モデルを使えば対応できるという反論が予想される。繰り返しになるが,肝心なことは簡単に,わかりやすくそれをできるかどうかだ。著者 Keith Chrzan 氏は学者ではなく実務家である。だからこそ,このようなアプローチを提唱しているのだろう。Marketing Research という雑誌にはときどき,こうした論文が掲載される。そこに Journal of とつくと,全く別の世界になる。

辞書式に限らず,非補償型選好モデルはその重要性は広く理解されながら,「決定版」がないため実際に利用されずにきた。そんななか,実務家から「コロンブスの卵」的な方法が提案された。もちろん,この方法が盤石だとは思わない。すべてを消費者の自己申告によって構成する方法なので,消費者が自己の選好を正しく認識していなければ,うまくいくはずがない。だから,ただ単純でわかりやすければよい,というわけではない。しかし,ぼくにとってこれがそれなりの刺激になったのは確かだ。そろそろ,こうした問題を考えるサイクルが来ているのかもしれない。

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