Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

なぜいま連合赤軍か

2009-07-05 11:28:49 | Weblog
最近第三巻が出た『レッド』は,連合赤軍事件を描いたコミックだ。そういうと暴力に満ちた凄惨な光景が想像されるが,学生運動家たちの行動を描写するタッチは,どこか淡々としていて,まったく別の世界の出来事のようには思えない。ただ,そこで交わされている,いま耳にすることがない生硬なことばづかいだけが,違和感を与える。正義感にあふれ,かつ知的であるように見せながら,思考を縛り,行動を方向づける「ことば」が,それを発する人々を悲惨な結末に導いたと感じる。

レッド 3 (イブニングKCDX)
山本 直樹
講談社

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レッド 2 (イブニングKCDX)
山本 直樹
講談社

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レッド 1 (イブニングKCDX)
山本 直樹
講談社

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主要な人物が登場するたびに「逮捕まで」「逃亡するまで」「殺されるまで」あと何日かが記される。そのことが,この物語はすでに終わりが決まっている,カウントダウンであることを印象づける。第三巻の段階ではまだリンチ殺人や浅間山荘には至っていないが,読者はそうした結末を知っているので,それが「予定通り」起きるまでの経緯を,第三者として見守るだけである。それは避けられない必然であるとか,不幸な偶然の累積であるとかいった解釈を挟む余地さえない。

連合赤軍事件は,ほぼ同時期に進行し,80年代に一つの頂点を迎える「大衆消費文化」とは対極にあるように思える。しかし,それらを結びつける細い糸の存在を指摘するのが大塚英志氏だ。連合赤軍事件の主犯とされ,死刑を宣告された女性指導者(彼女は『レッド』の「主役」でもある)日記に,一見場違いなかわいらしいイラストを見つけたところから,70年代に現れた少女マンガやサブカルチャーとの「関係」を論じている。ぼくと同世代には,こうした鋭い論客もいる。

「彼女たち」の連合赤軍―サブカルチャーと戦後民主主義 (角川文庫)
大塚 英志
角川書店

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連合赤軍事件とともに,学生運動は急速に衰退した。いま『蟹工船』がブームになっているといっても,かつてのような左翼運動が盛り上がる気配は感じられない。さらに中国の文革やポルポトの大虐殺の影響もあって,急進的な革命運動が「地獄への道は善意で敷き詰められている」という命題にしたがうことが,誰の目にも明らかになってしまった。だから,連合赤軍事件は完全に終わってしまった物語なのだ。もはやそこから新たに学ぶことなど何もない,といっていいはずだ。

では,これまで美しい「エロティック」なマンガを描き続けてきた山本直樹氏が,なぜいま『レッド』を描き,それをぼくが読んで感じ入っているのか。いや,そもそもぼくは何を感じているのだろうか。ただ単に,自分が社会の出来事に対してもっと鋭敏であった時代を懐かしんでいるのだろうか。山本氏もまたぼくとほぼ同世代である。連合赤軍事件を自分より上の世代が起こした,自分とは無縁の出来事として眺めながらも,記憶に突き刺さる何かを感じているのか。何だろう?