Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「進化」についてもっと深く考えよ

2009-07-22 23:46:30 | Weblog
昨夜は,ご近所の中央大学駿河台記念館で開かれた研究会に参加し,「産業革新の源泉:シリコンバレーのイノベーション・エコシステム」という報告を聴いた。報告者の氏家豊氏は,シリコンバレーで10年近くコンサルタントをなさっている。その経験を踏まえたお話しで,いろいろ勉強になった。それらをキーワードとして挙げれば,(1)大企業との関係,(2)官の役割(特に州政府),(3)アジアとの関係,となる。

それらが織りなすネットワークが,イノベーション・エコシステムということなのだろう。氏家氏は一方で,エコシステムの定義を「自律性のある産業クラスター」と述べられた。このあたりをもう少し深く知りたくて,氏家氏が最近共著で出された本を注文した(神保町界隈で発見できず・・・)。担当する授業でイノベーションや起業に触れざるを得ないので,自分の本来の関心領域からは離れていても,勉強が必要だ。

産業革新の源泉
原山 優子,氏家 豊,出川 通
白桃書房

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今夜は,隣り駅の MMRC に出かけて「企業・産業の進化」研究会に出る。まず塩沢先生から「進化という概念について」という報告がある。進化の基本概念は「複製」「変異」「選択」だが,企業の進化を考える限り「複製」より「保持」という概念のほうが重要だという議論がある。ただし,この「保持」という概念は「変異」に比べ具体例を挙げにくい。単一でも強力な証拠があれば,研究が発展するだろうと塩沢先生はいう。

それに対して藤本先生から,『生産システムの進化論』を書いたとき,トヨタの国内オペレーションに焦点を当てたので「保持」(retention)という概念をさほど意識しないで使ったが,国際展開を扱っていたなら「複製」(replication)と呼んでいたかもしれない,という「告白」があった。この研究自体が「進化的」であったと。なお,トヨタ語でいうと,保持とは「フォローアップ」,複製は「横展開」になるという。

生産システムの進化論―トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス
藤本 隆宏
有斐閣

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次いで,稲水さんが「ノンテリトリアル・オフィスの実証研究」について報告。これは従業員の机を固定しないオフィスのことで,わが国での導入事例を2件報告したあと,そのメカニズムをエージェント・シミュレーションで検討している。組織論の研究に「空間構造」が持ち込まれると,建築デザインから人類学まで,さまざまな学問領域と重なり合う。そこから生まれる知のエコシステムに大いに期待したい。

進化経済学者と実証経営学者の議論を聞きながら,エコシステムとか進化とかいった概念をより深く考え,生物学から学びつつもそれを超えた社会科学的な発想を加え,自らの研究テーマを「理論化」することの必要性を感じた。マーケティングや消費者行動の研究が「そこ」に入っていけないのは,もともと体系的な理論が欠落しているためではないかと,自らの浅学を省みず思ったりする。Think! のときが来た。