Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

エスノグラフィ練習帳

2009-07-14 15:10:48 | Weblog
昨日の良品計画・松井会長の話からも明らかだが,プロダクトデザインの世界では,エスノグラフィカルな観察調査手法がいまや中心に躍り出ている(実は昔からそうだったのかもしれないが・・・)。ユーザがふだんの生活でその製品をどう使っているか,あるいは同じニーズを他の何かを工夫してどう満たしているかは,本人がほとんど無自覚に行っているので,観察によって理解するのが最も優れていると。しかしながら,それを実際に行うことはそう簡単ではない。

どうやってそのノウハウを学べばいいのか。その助けになりそうな本が出版されている。そこには何気ない日常の一コマを写した写真が並んでおり,そこに隠された人間の欲望,ルーティン化された行動や問題解決の工夫を読み取るためのヒントが書かれている。それはあくまでヒントであって,正解が示されているわけではない。作家でもある訳者は,そこからいくつものミステリーのトリックを思いついたという。それに負けず,いくつ何らかのアイデアを思いつけるか。

考えなしの行動?
ジェーン・フルトン・スーリ,IDEO
太田出版

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この本の著者は,プロダクトデザインの会社として世界で最も尊敬される IDEO のリサーチャーだ。IDEO について最も包括的に紹介しているのが,次の本である。IDEO はユーザへの質問紙調査はもちろん,モニターのテストさえ信頼していないという。彼らが唯一頼りにするのはユーザを「見ること」だ。ぼくが企業の製品開発者だとしたら,その意見に全面的に従う。しかし,マーケティングサイエンスの末端研究者として,そうとばかりはいってられない。

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
トム・ケリー,Tom Kelley,ジョナサン・リットマン,Jonathan Littman
早川書房

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エスノグラフィの「挑戦」をどう受け止め,どう応えるか。それは大いなる可能性を秘めている。漠然たるアイデアは思い浮かぶが,まだまだ詰められていない。だが,それを考えることで「輝かしい未来」が開かれることだけは確信している。
 

表と裏の競争力が揃う

2009-07-14 08:35:56 | Weblog
昨日は,MBF で良品計画・松井会長の講演を聞く。良品計画(無印良品)といえば,すぐその秀逸なデザイン戦略の話になるが,それは「表の競争力」の話だ。今回の講演はむしろ「裏の競争力」,つまり良品計画のコンセプトを背後で支える業務プロセスの改革や人事政策に焦点を当てており,意外に感じるとともに,おおいに勉強になった。それを踏まえた上であえてぼくが何に関心があるかというと,やはり表の競争力であるところの,製品開発戦略である。松井会長はさらなる競争力の向上を目指して,内部の製品開発の仕組みを革新しようとされているようだ。その動向が注目される。

日本企業のなかで,デザインで競争優位性を築いてきた例として,確かに良品計画が筆頭に来る。裏の競争力では同様に血のにじむような努力を重ねてきた日本企業にとっては,逆に表の競争力のために,いかに優れた製品を開発するかのノウハウが重要になる。松井会長が指摘されたキーワードは,消費者の半歩先を行くこと,そのためにオブザベーションが欠かせないこと,と同時に優れたデザイナーとグローバルなネットワークを構築すること,などなど。いうまでもなく,デザインのポリシーがない企業が,一時的に有名なデザイナーを起用しているケースなどと,同じレベルで議論できない。