Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「多機能化」の落とし穴

2009-09-22 23:21:18 | Weblog
最近のスティーブ・ジョブズの発言がちょっと気になった。ジョブズいわく「1つの機能しかないという点にも幾つかのメリットがあるかもしれない。だがわたしは、汎用デバイスが勝利すると思っている。人々はおそらく、専用デバイスに進んでお金を払いたがらないだろうから」。この発言は以下の記事から引用したものだ:

iPodの進化に見る「単機能デバイスの終わり」の可能性

iPod nano の最新版には,ビデオ撮影機能がついた。 iPod の発展形といってもよい iPhone は電話機であるだけでなく,PDA であり,ゲーム機であり,その他諸々でもある。それだけとると,iPod は多機能化によって成功したという話になる。ところがその iPod は最近,日本市場でウォークマンに追撃されている。

新製品でさらに混迷、iPodとウォークマンのトップシェア争奪戦

この記事は,ウォークマンが健闘しているのは,歌詞カードを表示させる機能など,日本人のニーズにきめ細かく対応した新機能を追加したことによると示唆している。多機能化の中身で iPod はウォークマンに追撃されている?となると,いろいろな機能を追加するのが得意な日本企業にとって希望が生まれてくるが・・・。

そういう解釈でいいのだろうか? いうまでもなく,多機能化の行き過ぎが製品の魅力を低下させることがある。Thompson, Hamilton and Rust 2005Rust, Thompson and Hamilton 2005 が論じてきた feature fatigue といわれる現象である。多機能化の適正水準をどう見出すかは,難しいが避けて通れない問題だ。

iPod は多機能化の一方で「ムダを排除」し,操作における統一性とシンプルさを追求してきた。それは,単純に機能が多いか少ないかの問題ではない。その判断基準は優れたデザイナーや経営者の頭のなかにあるが,それをできれば形式知化したい,さらには数量化したい,というのがぼくの「野心」の一つである。