Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

サービス(  )←空欄を埋めよ

2009-02-13 23:43:35 | Weblog
昨日は JIMS 部会に,サービス工学で活躍されている竹中さんをお招きし,エージェントベース・モデルを使ったサービス工学の実践について伺った。いずれも質問紙調査や行動履歴データを用いて,消費者行動をモデリングしようとしている。ただし,そのアプローチは,経済学やその流れを汲むマーケティング・サイエンスとはかなり趣きを異にする。竹中さんは実験心理学の出身だが,そうした分野の人間行動の捉え方は,意外にも工学と相性がよいのかもしれない。

竹中さんたちが「サービス」という語を含む文献をサーチしたところ,以前は公共サービスや医療サービスに関連するものが多かった(いまでも多い)が,その後通信やコンピュータ関連が増え,近年では健康・スポーツ,あるいは人間行動や価値,そして持続性(環境問題を含む)の関連が増え始めているという。サービスとは人間が希求する本質的価値と深く関係している。だから,価値の進化について考えるという,哲学的・思想史的なアプローチが欠かせないようだ。

もともとサービス研究は経済学や経営学,マーケティングの一部で行われてきたが,工学の本格的な参入が起きたのは,周知のように IBM がサービス・サイエンスを提唱したことが契機になっている。その後,東大ではサービス工学,京大ではサービス・コンピューティングと名付けられたプロジェクトが立ち上がっている。一皮むくと,従来からあった工学研究と何も変わらないものが少なくないが,そもそも情報通信とはサービスなのだから,別に不思議ではないのかもしれない。

サービスの対象範囲は,定義次第でいくらでも広くなる。クルマを買えば製品の消費だが,リースすればサービスの消費になる。所有権という法的問題を無視すれば,いずれもクルマが提供するサービスを消費している点で同じことになる。このことをサービス・ドミナント・ロジックと呼んだりするわけだが,皮肉なことに,そうなればなるほど,モノにはないサービスの特性が見えにくくなる。サービス工学ではとりあえずそのへんに気にせず,実践を優先させているようだ。

サービス工学やサービス・コンピューティングがざっくり扱っている要素に対して,サービス・マーケティングの流れを汲む研究者はこだわりを見せる。そこには,簡単には埋められない,大きな溝がある。そこを埋める新たな研究を目指すには,まずサービス「   」という新たなネーミングを考えることが重要だ。なぜなら,名は体を表すから。つまり,名前が研究を方向づけ,規律を与えるのだ。では「   」のなかに何を埋めるべきだろうか?