Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

データ解析の「戦略」をどう教えるのか

2009-02-04 23:08:35 | Weblog
今日は筑波の非常勤。MBA コースの学生に金融マーケティングの課題を与え,データに基づく顧客分析の結果を報告してもらった。ターゲット・セグメントの設定,彼らの意識や行動の理解が鍵となる。各チームの発表は,こちらで与えたクロス表をただグラフにした程度の分析が最低レベルとすると,独自のクロス集計が中レベル,因子分析や決定木,ロジスティック回帰等を使うのが最高レベルである。もちろん「高度な」解析手法を使えば,鋭い洞察が得られるというわけではない。

学生たちの発表を聴きながら,マーケティング意思決定のためのデータ解析のあり方について,いろいろ考えさせられた。クロス表であれ決定木であれ,本質は「比較」にある。そのとき,何と何を比較するかの選択が非常に重要になる。たとえば,ターゲットに設定したセグメントの特徴を理解するのに,誰と比較すべきだろうか。残りすべての対象者と比較することは,統計的手続きとしては間違っていないが,ある対象を理解するための戦略としては,必ずしもうまい方法ではない。

たとえば,性別と年齢と所得によって規定されたセグメントがあったとする。残りすべての人々を一つにまとめ,そのセグメントと比較して何らかの差異が見つかった場合,それを彼らの特徴とみなす。それはよいとしても,さらにその特徴を性別,年齢,所得に分解できないか試みるべきである。そして各要因は独立に効いているのか,交互作用があるのかも調べたい。それによって,それがそのセグメントの「本質」的特徴なのか,やや周辺的な特徴なのかがわかってくる。

また,セグメント×特性の二重クロス表から得られる知見を積み重ねて,そのセグメントを代表する個人を,それらすべての特徴を合わせ持つ者のように語ることがけっこうある。そう考えて正しい場合もあるが,設定されたセグメント内に異質な集団が複数ある場合は,誤った判断につながる。そのことは多重クロス表を作ってみればわかることだが,そこまで掘り下げないで,安易に結論づけてしまう。データのサイズが小さすぎる場合は仕方ないが,そういう場合ばかりとは限らない。

今日の授業で総じて思ったのは,データ解析の手法に加えて,その戦略をどう教えればいいかということだ。戦略にはつねに正解があるわけではない。しかし,実務でデータを分析する場合,データのどの部分を取り出し,何と何を比較するのかという「切り分け」の問題に必ず直面し,悩むことになる。これは,統計学やデータ解析の授業では教えてくれない。実習を通じて直に語り合うのも悪くはないが,もう少しまとまった形で,知識として提供できないかと思ったりする。