Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

テヘランからの恋文

2006-09-15 | 文学・思想
イラン共和国大統領アマディネシャド氏が連邦共和国首相メルケル女史に熱いラヴレターを書いた。それが公表されている。同じようにブッシュ大統領に書いた宗教的内容のものとは違い、ドイツとイランの敗者による共闘を目指している。

イランの若手の指導層は、非常に優秀で危険と言う印象を植え付けられているが、実際イスラム革命からの時の流れで純粋培養された知識人たちに違いない。この手紙を読むだけでも、その洗練された強い文化が感じられる。

イラン国民を代表して今年七月に認められた文章は、ドイツと女性首相への賛辞に始まる。面白いのは、二重否定法を使った修辞法である。若しドイツが学術・哲学・文学・芸術・政治において偉大なる発展をしておらず、また国際関係の中で重要で肯定的な役目を果たし、平和の推進者でなかったとしたら、こうして手紙を認めることは無かったであろうと書き出す。こうした言い回しはイランの文化なのだろうか?

人格の尊厳の保持と人権の屈辱と障害の阻止という事では、全ての信仰者に共通した責務が存在していないであろう。なぜならば、われわれ全ては全能の神の創造物であり、その一人一人に尊厳があると言うのに、権限を持った社会が他の社会の権利を強奪して、進歩と完成への歩む権利を締め出し、コントロールして屈辱する権利などある筈がないからだ。

我々の民族にそれぞれに相違する圧力が加わっていなければまた平和維持への基本として正義と人類の公平を共通の義務とする我々でなければ、こうして手紙を認めなかったとして、書き出しを終える。

さて、ここで一つの文化的疑問が投げかけられる。何年間もこのことを考え続けてきたと言う。どうして、歴史的に学問、芸術、文学、哲学、政治の様々な分野で物心両方で人類の発展に文化の形成に寄与してきた一部の民族が、その歴史的な業績を自負することもその民族枠の中で建設的に重要な使命を果たすことも許されないのだろうか。

その後、第二次世界大戦の戦勝国、特に英米を我々に対抗させて、ドイツの戦後の苦難を挙げて、両国の同様な立場を強調する。物議をかもしたホロコーストの陰謀説は争わないとしてもとしながらもそれに触れて、現在のイスラエルの侵攻やシオニズム批判を繰り広げる。当然のことながらシオニズム支持者の実態とイラクにおけるその地下資源目的の行動を、冷戦後の戦勝国の傲慢と拡張政策の攻撃的な拡大として十把一絡げにして切り捨てる。

イスラムを代表して、ドイツの国連での常任理事化への支持をちらつかせたりと政治上手も見せるが、全体として文化論として読むと面白い。受け取った者がこれを何処まで読み取るかは大変疑問であるが、ホワイトハウスへ宛てたものよりは随分と理解される点が多かったのではないだろうか。

この大統領のドイツ社会の現状への認識の確かさと、思想的な読み取りは十分に示されていて、昨日取り上げたヴァチカンの表明としてのベネディクト十六世のメッセージにも呼応している。イラン革命に代表されるような、そしてここで述べられているような姿勢は、尊重されなければならないからである。

そもそも、宗教が現代社会の表舞台に出て来るのはおかしいのだが、こうした若手の知識層が共和国憲法の遵守の推進役として政治の実権を握るようになることで、大統領の上に聳え立つ宗教界の重鎮との役割分担が明確になってくるのだろうか。

イスラム法下での人権問題は、欧州からすると最大の争点となる。死刑や公開死刑の廃止、少年法での鞭打ちや、宗教的屈辱への極刑など、決して受け入れることが出来ないものが存在して、その共和制の枠組みを超えている領域が存在する。

少なくとも現在のホワイトハウスの声明の子供騙しの様な、大衆高学歴社会向けのプロパガンダとは異なり、米国のそれを貧弱な文化とすればペルシャのそれは強い文化に違いない。

技術屋出身で原理主義的武力活動をしていた大統領が、テヘラン時代にマクドナルドを閉鎖したり、ベッカムのポスターを禁止したと言うのはお笑いであるが、そうしたポピュリスト的政治姿勢を強い文化の上に重ねて強いメッセージとして行くのは見事である。

だからペルシャが再びパーレビ時世のように、歴史が続く限り、文化的退化とも言える米文化追従は今後ともありえない。すると、現在ホワイトハウスの標的ともされているテヘランは、今後どのような政治的判断をしていくのかが注目される。



参照:皇帝のモハメッド批判 [ 文化一般 ] / 2006-09-16

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 合理主義に慄く第三世界 | トップ | 皇帝のモハメッド批判 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿