真直ぐに焼け焦げた軌道。山口誓子の俳句の風景ではない。これが今回のモーゼルの旅で出会った味覚である。日本からルーヴァーの谷間へと態々訪れた緑家さんに落ち合うために、車のナヴィゲーションにグリューンハウスを設定して、その懐深くまで潜行した記録である。
先ずは醸造所見学コースを現オーナーのフォン・シューベルト博士の案内でみてまわる。特に興味深かったのは18世紀の修道所跡のそのナポレオン以降の世俗化した住居であり現在の庭の配置と共にそうした影響が垣間見られる屋敷であろう。醸造蔵も12世紀造と言われる古い苔むした部分もあり、耕地面積からすると十分過ぎる広さがあった。黒い苔の密生の見事さには恐れ入った。
天然酵母による発酵を心掛け、熟成させる木樽も自己の地所から切り出した材料で作り燻して、葡萄を喰う猪を狩って塩干しにするなど、スローフードそのものの農業を展開しているところから、懐古主義の道楽と見ていた。しかし、実際にオーナーに会ってみるとなかなか商売熱心なビジネスマンの印象を受け、見事に先入観を覆された。天然醸造に欠かせないバイオ農業に対しても微妙な態度を示したことと共に、これは素朴な農民や地主醸造所オーナーとは、教養も社会層も明らかに異なると思わせた。ドイツの醸造所経営者には珍しい企業経営者である。
本格的に試飲するのははじめてであったが、予想に違わず土壌がそのワインに出ていると同時に、天然酵母の醸造によって大分柔らかな印象を受け、それでも酵母臭も押さえられつつ、きりっとした辛口に仕上がっているのには感心した。
2008年産を中心に19種類のワインを試飲した中で掻い摘んで特記すると、新樽のピノブランは樽の味が出なくなるまでは木樽の味が出ていて全く駄目である。所謂フーダーと呼ばれる千リットルとバリックの二種類を試すというが、樽が古くるなるまではフランスの下手な白ワインのように樽味のワインを飲まされることになる。
この醸造所が保持している修道会の三ランクであるブルーダー、ヘーレン、アブツの三地所は、この醸造所が加盟していないVDP基準 ― 実際には政治力で禄でもない地所がグランクリュに指定されているのだが ― に当てはめると、アインツェルラーゲ、ピュリミエクリュ、グランクリュに相当すると見た。最後から二つが桃の香りを醸し出す赤スレート、グレープフルーツの香りの青スレートとその土壌が異なっているのだが、アプツベルクはモーゼル流域で三大主要地所に含まれるかもしれない。恐らくドイツ全部で十傑に入る力強さが確認出来た。
例えば、その評判を聞いていた2008年産アルテレーベンの豊満でありながら、崩れない辛口は、天然醸造のグランクリュとしてはトップクラスのものではないかと思われる。二年ほど待ってみたい。
それを証明するのが、2007年産のカビネットで、あとを引くスレートの苦味は冷え切った線路の鉄を飲むようなストレートさがハードボイルドですらある。これだけ引き締まったリースリングであるから、貝類や野鳥やレヴァーなどを合わせたいが白身の魚でも料理方法によってはとても合うに違いない。
現時点がモーゼル流域共通の2007年産未完熟な「青い果実」天然酵母醸造のカビネットとして恐らく第一の山であり、美味い時に飲み干すべきだろう。11%のアルコールとキュートなボディー感は、加糖しない限界であり、ミニスカートが似合うような、将来性よりもこれで良しとすべきリースリングである。カビネットとしては決して安くはないが、繊細さでも同価格帯のバッサーマンヨルダン醸造所のグライン・ヒューベルなどと比較できるものであり、寧ろそのグレープフルーツの苦味を取りされば、その鋼のような感じはレープホルツのカビネットを想像させる。なかなかこれだけ生一本のワインには出会えない。
因みにフォン・シューベルト家の歴史を見ると鉄道の敷設やザールランドでの鉱山など鉄と密接に関わって貴族名を名乗ることになる。実際ルーヴァーに敷いた鉄道で葡萄が運ばれたようだ。なるほどその五代目が企業家で、この味のリースリングを世界に売っているのも合点が行く。
追記:カビネット二日目には鳥のレヴァーパテと合わせた。苦味が消え最高の食事となった。しかしワインは一日で完全に丸くなっていた。瓶詰め三年以内に飲み干すべきリースリングである。酒躯がスレンダーで貧弱なだけに早飲みワインである。それでもこの味は唯一無二なので価格11.20ユーロは正当である。三日目にジュースの腐ったような味がしようが、酸の新鮮味が先十年あろうが、まともな熟成はしないだろう。葡萄の糖比重が低ければ偉大なワインとは決してならない。
参照:
イヴェントとなった猪肉 2009-09-23 | 料理
たかが粘板岩されどスレート 2009-09-25 | ワイン
立ちはだかる一途な味覚 2009-09-27 | 試飲百景
フォン・シューベルト新酒試飲会2009
フォン・シューベルト新酒試飲会2008 (モーゼルだより)
ドイツ旅行記2008年8月 (DTDな日々)
von Schubert (Aus dem sonnigen Bonnertal)
Gutsverwaltung von Schubert
カランドリエにて
溜飲の下がる出来栄え
飲み頃は2022年頃? (新・緑家のリースリング日記)
先ずは醸造所見学コースを現オーナーのフォン・シューベルト博士の案内でみてまわる。特に興味深かったのは18世紀の修道所跡のそのナポレオン以降の世俗化した住居であり現在の庭の配置と共にそうした影響が垣間見られる屋敷であろう。醸造蔵も12世紀造と言われる古い苔むした部分もあり、耕地面積からすると十分過ぎる広さがあった。黒い苔の密生の見事さには恐れ入った。
天然酵母による発酵を心掛け、熟成させる木樽も自己の地所から切り出した材料で作り燻して、葡萄を喰う猪を狩って塩干しにするなど、スローフードそのものの農業を展開しているところから、懐古主義の道楽と見ていた。しかし、実際にオーナーに会ってみるとなかなか商売熱心なビジネスマンの印象を受け、見事に先入観を覆された。天然醸造に欠かせないバイオ農業に対しても微妙な態度を示したことと共に、これは素朴な農民や地主醸造所オーナーとは、教養も社会層も明らかに異なると思わせた。ドイツの醸造所経営者には珍しい企業経営者である。
本格的に試飲するのははじめてであったが、予想に違わず土壌がそのワインに出ていると同時に、天然酵母の醸造によって大分柔らかな印象を受け、それでも酵母臭も押さえられつつ、きりっとした辛口に仕上がっているのには感心した。
2008年産を中心に19種類のワインを試飲した中で掻い摘んで特記すると、新樽のピノブランは樽の味が出なくなるまでは木樽の味が出ていて全く駄目である。所謂フーダーと呼ばれる千リットルとバリックの二種類を試すというが、樽が古くるなるまではフランスの下手な白ワインのように樽味のワインを飲まされることになる。
この醸造所が保持している修道会の三ランクであるブルーダー、ヘーレン、アブツの三地所は、この醸造所が加盟していないVDP基準 ― 実際には政治力で禄でもない地所がグランクリュに指定されているのだが ― に当てはめると、アインツェルラーゲ、ピュリミエクリュ、グランクリュに相当すると見た。最後から二つが桃の香りを醸し出す赤スレート、グレープフルーツの香りの青スレートとその土壌が異なっているのだが、アプツベルクはモーゼル流域で三大主要地所に含まれるかもしれない。恐らくドイツ全部で十傑に入る力強さが確認出来た。
例えば、その評判を聞いていた2008年産アルテレーベンの豊満でありながら、崩れない辛口は、天然醸造のグランクリュとしてはトップクラスのものではないかと思われる。二年ほど待ってみたい。
それを証明するのが、2007年産のカビネットで、あとを引くスレートの苦味は冷え切った線路の鉄を飲むようなストレートさがハードボイルドですらある。これだけ引き締まったリースリングであるから、貝類や野鳥やレヴァーなどを合わせたいが白身の魚でも料理方法によってはとても合うに違いない。
現時点がモーゼル流域共通の2007年産未完熟な「青い果実」天然酵母醸造のカビネットとして恐らく第一の山であり、美味い時に飲み干すべきだろう。11%のアルコールとキュートなボディー感は、加糖しない限界であり、ミニスカートが似合うような、将来性よりもこれで良しとすべきリースリングである。カビネットとしては決して安くはないが、繊細さでも同価格帯のバッサーマンヨルダン醸造所のグライン・ヒューベルなどと比較できるものであり、寧ろそのグレープフルーツの苦味を取りされば、その鋼のような感じはレープホルツのカビネットを想像させる。なかなかこれだけ生一本のワインには出会えない。
因みにフォン・シューベルト家の歴史を見ると鉄道の敷設やザールランドでの鉱山など鉄と密接に関わって貴族名を名乗ることになる。実際ルーヴァーに敷いた鉄道で葡萄が運ばれたようだ。なるほどその五代目が企業家で、この味のリースリングを世界に売っているのも合点が行く。
追記:カビネット二日目には鳥のレヴァーパテと合わせた。苦味が消え最高の食事となった。しかしワインは一日で完全に丸くなっていた。瓶詰め三年以内に飲み干すべきリースリングである。酒躯がスレンダーで貧弱なだけに早飲みワインである。それでもこの味は唯一無二なので価格11.20ユーロは正当である。三日目にジュースの腐ったような味がしようが、酸の新鮮味が先十年あろうが、まともな熟成はしないだろう。葡萄の糖比重が低ければ偉大なワインとは決してならない。
参照:
イヴェントとなった猪肉 2009-09-23 | 料理
たかが粘板岩されどスレート 2009-09-25 | ワイン
立ちはだかる一途な味覚 2009-09-27 | 試飲百景
フォン・シューベルト新酒試飲会2009
フォン・シューベルト新酒試飲会2008 (モーゼルだより)
ドイツ旅行記2008年8月 (DTDな日々)
von Schubert (Aus dem sonnigen Bonnertal)
Gutsverwaltung von Schubert
カランドリエにて
溜飲の下がる出来栄え
飲み頃は2022年頃? (新・緑家のリースリング日記)