ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

小説吉田学校

2017-03-25 21:46:31 | 徒然の記

 去る3月4日に、いつもの図書館で、廃棄図書をもらって来ました。一人18冊まで許されるので、いつも限度いっぱい貰ってきます。図書館の会議室だと思いますが、常に満員の盛況で、終了時間の間際になりますと、25冊貰えたりします。汚れていたり、人気のない本だったりですが、乱読の私は、小さなことにこだわりません。(読後は、小学校の有価物のゴミとして処分しますし・・。)

 無差別入手の書籍には 、思いがけない知識との出会いがあり、心が躍ったりします。廃棄図書とは言え、手にしている間は「私の師」であり、「良き友」です。きっと自分は、こういう日々を積み重ね、残りの一生を終えるのだと思いますが、無料で喜びを与えてくれる千葉県にはいつも感謝しています。こんな粋な計らいを全国で認める日本にも、感謝の念を抱きます。

 住民サービスのため、中国や韓国や北朝鮮が、廃棄図書の無料配布などやっているはずもありませんから、日本の悪口をいう左翼が許せないという、私の気持ちは、こうした日常の小さな感謝の念からも生れています。

 前置きが長くなりましたが、戸川猪佐武氏著「小説吉田学校」(昭和55年刊 角川書店)の、一巻と二巻を読み終えました。全部で八巻あるのですが、残念ながら、三巻しか手に入りませんでした。廃棄図書には、時として、このような不具合が生じますが、無料ですから贅沢は言えません。 

 さて著者の戸川氏は、大正12年に神奈川県に生まれ、昭和58年に満59才で亡くなっています。 早稲田大学へ入学し、陸軍に召集されますが、直後に終戦を迎え、早大へ復学し卒業するという経歴の持ち主です。昭和22年に読売新聞へ入社して、政治部記者として活躍した後、政治評論家になったとのことです。

  55年の出版当時は、大ベストセラーになったと記憶していますが、氏の晩年の著作だとは知りませんでした。58年に映画化された『小説吉田学校』の試写会と、竹下登氏のパーティなどに参加した直後、翌日未明に急死したという話です。

 政治記者としての関係から、吉田茂氏とも親しく、特に同郷の河野一郎氏とは深い付き合いだったと言われています。重光葵氏や佐藤榮作氏のような官僚政治家より、党人派の政治家に好意を寄せていましたので、戸川氏の通夜には、当時の首相である中曽根康弘氏が駆けつけ、葬儀には田中角栄氏なども参加していたと言います。

 やり手の氏は政界の事情に通じていますから、本には読者を飽きさせない裏話が満載です。占領軍の高官たちに鼻であしらわれたり、命令されたり、屈辱に耐える吉田首相や他の政治家たちの姿には、心が痛みました。

 しかし同じ保守と呼ばれていても、林房雄氏とは大きな相違がありました。林氏の著作には、日本への強い愛と誠が感じられ、ひとこと一言を大切に読みましたが、戸川氏の本にあるのは、特ダネを追うジャーナリストの熱心さだけで、心に響くものが皆無でした。

 首相の座を得るために、政治家たちがどれほどの苦労と努力をするのか、時間をかけ、叡智を絞り、金脈と人脈とを築きあげていく。大した辛苦と敬意を表しますが、国を思う志の高さがない政治家ばかりが描かれています。言いにくいことですが、同じ文筆業であっても、戸川氏と林氏の人格というのか、品格というのか、天と地ほどの差があるのではないのかと、感じさせられました。

 登場する政治家の人格が低いというのでなく、叙述している戸川氏の空疎さのせいでないかと思ったりしました。権力を手にするため、権謀術数だけで政治家が生きていると、本では面白く語られますが、はたしてそれだけで政界での人望は保たれるのか、疑問でなりません。

 官僚嫌いの氏は、重光葵氏や佐藤栄作氏を陰湿な人物として描きますが、これも、そのまま素直に受け取れませんでした。かって司馬遼太郎氏が、乃木大将を愚将としてこき下ろしたように、一つの先入観で人物評をしていると、そんな印象が拭えませんでした。反日左翼への偏見と先入観が捨てられない自分なので、戸川氏の先入観を批判できませんが、林氏の著作の重さに比較すれば、その軽さは、新しい発見でした。

 ですから、今回は本の中身を語らず、引用もせず、このまま終わりたいと思います。ネットの情報によりますと、氏の突然の訃報は腹上死だという説もありました。それならば、何をか言わんやです。林房雄氏と並べること自体が、相応しくありません。後一冊ありますが、これにつきましても、読後感想は省略いたします。

 

 追記。三巻の中にある、総裁選に関する氏の言葉です。

「現実の総裁選の勝負は、政策ではない。」「資金と多数派工作だ。」派閥を抱えた領袖たちの意見として、氏が書いています。事実の大きな一面ですが、政治をそれだけのものとして語る氏の、心根の小ささを私は是としないのです。

 

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10 コメント

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先が心配 (ハブグレジュンタのマミー)
2017-03-26 00:11:34
貴重な情報ありがとうございます。私も偏見と先入観、おまけに独断的な考えを持っています。特に日本を滅ぼそうとしているとしか考えられない、反日やら民進党共産党には私の偏見も最大限です。“現実の総裁選の勝負は、政策ではない。資金と多数派工作だ。”。このように言い切るということは、戸川氏もそれを認めているということでしょうね。最近国会中継を見ているとますます屑議員が(もちろん民進党が主です)増えている感じがします。どうしてこんなの選んでいるの?と疑問が生じてしょうがありません。
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同じ疑問です (onecat01)
2017-03-26 09:29:53
ハブグレジュンタのマミーさん。

 貴方も私も、オノレの偏見と独断と先入観を自覚しております。
しかしどうでしょう。左翼の反日に投票する人々は、オノレの独断や偏見を自覚せず、他人が全て間違っていると思い込んでいます。こういう人間は、自分で判断せず、マスコミの記事や反日のパンフレットしか見ませんから、イカれたイケメンや見かけの美女に投票します。
 「どうしてこんなの選んでいるの?」疑問とともに笑ってしまいたくなります。しかし私は、先を心配しておりません。会社勤めの時代、私は朝日新聞の定期購読者でしたし、民進党の政権交代にも一役買いました。そういう私ですら、自分で目を覚ましたのですから、多くの人に対し、希望を抱いております。
 これもまた、甘い甘い、私の偏見と先入観でしょうが。
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勉強不足ですみません (しゃちくん)
2017-03-26 14:07:09
私の名前の由来となった宰相の事、もっとしっかり勉強しなくてはと反省中です。
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理解不足ですみません。 (onecat01)
2017-03-26 16:19:51
しゃちさん。

 どなたのことを言われておりますのか、しかと分かりませんけれど、私こそ、しっかり勉強しなくてはと、日々反省しつつブログに向かっております。
どうか、お気を損ねられず、変わらぬお付き合いをお願いいたします。
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現在は特権意識の記者ばかり (憂国の士)
2017-03-26 17:06:56
私もこの戸川猪佐武氏の記事に目を通した記憶があります、
余り思い出せませんが、品行方正記者の対極、政治家気質 ?
政治部記者、政治評論家、今の政治屋記者に通じる人ではなかったか?

どちらにしても現在の政治に群がる記者に品行方正を求めるのは無理 ?

割り引いて見て、斜めに見て、腹は立たない! 身近な地方紙の記者を見て
その思い強くなる、こんなところから日本の溶解が見えて来る、残念ですが?
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納得いたしました (onecat01)
2017-03-26 18:27:39
憂国の士殿。

 そうではないかと思っていましたが、やはりそうですか。特ダネを手に入れるには、人格高潔では難しく、ゴロツキ根性がいるのでしょうね。

 いつの間にか、いっぱしの政治家気取りとなり、鼻持ちならない特権意識となるのでしょうね。そういえば、なくなった父は、近所に住んでいた記者を、「新聞ゴロ」とよんで嫌っておりました。説明するまでもなく、「新聞屋のごろつき」の略称です。

 立派な記者も沢山いて、立派な著作も残していますから、「新聞ゴロ」は少数だと、信じたいものですが・・・。現実は逆のようですね。
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名士気取り (憂国の士)
2017-03-26 20:36:11
私が青春時代を過ごした街に地方紙が三つありました。
1.地元経済界・政界におもねる新聞社
2.革新政党支持の反原発、反権力新聞社
3.恫喝で市民を圧迫した新聞社(ゴロつきの類)

商売上三社とも付き合いがありましたが、
1.市民には気位が高く地位名誉には媚びた。
2.市民派を謳って普通スタンス、しかし権力には向かった。
3.「新聞に書くぞ!」との恫喝を恐れ地位のある者はひれ伏した。

まあ、新聞社及び新聞記者はこうして上から目線でいかないと
何かと都合があるのでしょうね ?

特にアカヒに見るように驕り高ぶっていると云うのが一般の評価では ?
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周りがそうするのです。 (onecat01)
2017-03-26 22:21:25
憂国の士殿。

 地方紙の実態を教えて頂き、参考になりました。私が会社勤めをしていました頃、二十代の若者が、堂々たる態度で、社長室に入りました。

 女性秘書が案内し、社長室の前では、社長秘書が丁寧に頭を下げました。どんなお客様なのかと不思議に思う私に、女性秘書が小声で教えてくれました。
「朝日新聞の記者さんです。」「社長にインタビューだそうです。」腫れ物に触るような言い方でした。

 翌日も翌々日も新聞の記事はありませんでしたが、朝日の記者は、若くても、こんなに名士扱いなのかと呆れたことがありました。今は倒産寸前ですが、当時はまだ、日本の一流新聞社でした。

 余計なことを書かれては困るので、馬鹿丁寧な対応をする会社や団体が多かったため、朝日の記者も、自分が偉いと勘違いしたのでしょう。

 「奢れる者は久からず、ただ春の世の夢のごとし。」・・、平家物語の言葉を思い出しますね。
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初めまして (すず)
2017-03-27 01:49:11
昨日は私のブログをご訪問頂いた上、コメントして頂きありがとうございました。(稀勢の里優勝の記事)

私は朝日新聞の「教科書問題」や「中曽根総理(当時)の靖国参拝」などがマスコミで盛り上がった時期、中学生でした。
教師もサヨク、自宅も(当時は)朝日新聞を購読。
中学生の自分は報道をそのまま信じていました。
何だかおかしいと初めて思ったのは、大学生になり、インドネシアやフィリピンの海外からの研修生から戦時中の話を聴いたからでしょうか…
それまでは「申し訳ない」という気持ちで怖かったのですが、「自分の両親や祖父母は日本人が好き」「あと何年、日本は謝り続けるのか?」等、と彼らが言うので、現代史に関する著書を読むきっかけとなりました。

読者登録させて下さいませ。
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日本の再発見 (onecat01)
2017-03-27 07:46:13
すずさん。

 稀勢の里の優勝には、感激しました。必死に頑張る姿が、人を感動させるのですね。役目を果たした人間の美しさ、とも言えるのでしょうか。

 貴方が私のように、朝日新聞を信じた青春時代を共有しているとは、知りませんでした。マスコミは「国民の右傾化」などと批判しますが、そんなものではありませんね。「歪められた日本」を、自分の目で「再発見」しようという、大切な心の活動だと、私は考えております。

 読者登録は、光栄です。
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