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古い本 その136 古典的論文 長頚竜類2

2023年03月05日 | 今日このごろ

 Copeは、2年後に長頚竜類に属するもう一つの属Polycotylusを記載した。論文は次のもの。
⚪︎ Cope, Edward Drinker, 1870. Synopsis of the Extinct Batrachia, Reptilia and Aves of North America. Part I. Transactions of the American Philosophical Society, New Series vol. 14: 1-252.(北アメリカの絶滅した両生類・爬虫類及び鳥類についての概略)

 表題の「Batrachia」は、カエル類(両生類のうちの無尾類)のことだが、内容を見るとCopeは両生類全体を指しているようだ。この論文は、「北アメリカの絶滅した」もの全体を指していて、新生代のものが含まれているから252ページの長い論文である。いや、ページの重複があって、本当はもっと長い。まず122ページの後に122-Aから122—Jまでの追加ページがある。さらに166ページの後ろにも166-A、166-Bページが挟み込まれているから、実は264ページなのだ。ついでに記しておくが、表紙のタイトルには鳥類が入っていない。文中には数カ所に Appendixという項があって、前に書いた分類群に書き足してある。要するに完成原稿ではない。
 文末の表によると全部で146種の化石脊椎動物を扱っているとしてある。時代的には、古生代が20種、新生代が25種で残りの101種が中生代。ここで調べているのはPlesiosauridであるが、白亜紀の8種類となっている。なお、分類群では白亜紀のカメ類が最も多くの種数(27種)について記してある。このカウントは文中に書いてある数で、私は数えていない。原稿の不備があるくらいだから信用していいのか分からない。
 長頚竜類は、Polycotylus, Ischyrosaurus, Plesiosaurus, Cimoliasaurus, Elasmosaurus, Piratosaurusの6属に言及している。Ischyrosaurusは、ややこしくて、まずLeidyが1860年に哺乳類と考えてIschyrotherium と名付け、それに気づいたCopeが多分この論文でIschyrosaurusと改名したらしい。現代の感覚でいえばこの改名は無効で、分類群にちなむ学名について、後に分類上の見解の変更があっても改名できない。この時の命名規約(あったのかな?)ではどうなのか知らない。いずれにしてもこの長頚竜類としての属名は現在使う人がいない。たぶん疑問名となっているのだろう。ところが、1874年にHulkeが竜脚類の上腕骨にIschyrosaurusの属名を用いてしまった。
⚪︎ Hulke, John Whitaker, 1874. Note on a very Large Saurian Limb-bone adapted for Progression upon Land, from the Kimmeridge Clay of Weymouth, Dorset. The Quartely Journal of the Geological Society of London, vol. 30:16-17, Pl. 2.(Weymouth, DorsetのKimmeridge Clayからの海進に伴う爬虫類の非常に大きな四肢骨について)
 John Whitaker Hulke(1830-1895)は、イギリスの外科医で化石コレクター。いくつかの恐竜の学名をつけたが、のちにシノニムとして扱われたものが多い。これはあきらかに先取されていて無効。従ってこの竜脚類に新しい属名がつけられる。Bulletin of Zoological Nomenclature の2019年の号にCase 3803として記されているはず(未入手)。属名はなぜかネットで”Ischyrosaurus”として記されている。なぜ変更しないのだろうか、それともCase3803に何か書かれているのか?
 Cimoliasaurusの現在の取り扱いも確かではない。資料ではTatenectes属に含まれるらしいとしているが、その属はたぶん1900年の命名で、これまた先取関係がおかしい。Piratosaurusは疑問名とされている。
 Polycotylusは、Kansas州の上部白亜系から発見された脊椎列と腰帯の一部から命名されたもの。論文にPolycotylusの図版はない。この論文では、文中図が多くてFig. 1からFig. 55までの56枚(Fig. 39が2枚ある)もあるが、長頚竜関連は4枚しかない。Polycotylusではないが、2枚を紹介する。

505 Cope, 1870. Fig. 7. Elasmosaurus platyurus 肩帯復元図

 本文の図(Fig.)番号と文末の「Explanation」でずれがあって、Fig. 7(51ページ)はFig. 11の解説がそれだろう。ここでも原稿の不備があるようだ。

506 Cope, 1870. Figs. 11, 12. (図を回転しアレンジした)Cimoliasaurus magnus前方の胴椎 とElasmosaurus platyurusの頚椎と前方の胴椎

 ExplanationではFigs. 15と16の解説がそれだろう。
 最近になって、Polycotylusの体内に小さい個体がある例が発見され、魚竜の一部と同じように卵胎生などの母体による保護の後の出産の可能性が論じられた。さらにMosasaurus類にも類似のものがあるとされ、中生代の主要な海生爬虫類(ウミガメ以外)で共通(収斂的な)の適応があったのかもしれない。この件について引用する適切な文献は未入手。

Polycotylus Cope, 1870 模式種:Polycotylus latipinnis Cope, 1870.
産出地 Fort Wallace, Kansas州 アメリカ

 次に記載されたのは、Muraenosaurusで、論文は次のもの。
⚪︎ Seeley, Harry Govier 1874. On Muraenosaurus Leedsii, a Plesiosaurian from the Oxford Clay. Part I. The Quartely Journal of the Geological Society of London, vol. 30:197-208, plate 21.(Muraenosaurus Leedsii:Oxford Clayからのプレシオサウルス類について、その1)
 十数ページのやや長い論文で、部位ごとに詳しく記載してある。Oxford Clay はジュラ紀の地層。一枚の見開きの図版が付いていて、よくできたスケッチで、技術の高さが伺われる。

507  Seeley, 1874. Plate 21.  Muraenosaurus Leedsii holotype 頚椎と尾椎

 この属のまとめは次回別の三つの属と一緒に。