写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

40年物

2009年12月24日 | 生活・ニュース
 「ねぇ~、これ直らないかしら?」、台所のほうから奥様が朝から日頃になく優しい声で語りかけてきた。
 振り向いてみると、なにやら骨董品のような色形した木片を片手に持って差し出す。もう一方の手には消しゴムほどの大きさの、薄っぺらなステンレスの板のようなものを持っている。
 「何だ、それは?」「野菜の皮むき器よ。これ、結婚した時に買ったものだから、もう40年ものよ」という。手にとって見ると木片の両端に皮をむく金物がそれぞれ4本の釘で取り付けてあったものが、木の劣化で外れてしまっていた。片方の金物は、すでになくなっている。
 木の腐った部分を1cmばかり切り取れば、またもとのように使うことができる。切り取ってはみたが短い釘の手持ちがない。1cmくらいの釘を持ち出し、ペンチで短く切って打ち付けた。
 奥さんに渡すと嬉しそうな顔をした。それはそうだろう。40年来の愛用器具だ。40年間料理をしてきた相棒でもある。買えば高々200円か300円のものだろうが、直せばまた使える器具となった。簡単には捨てられない。
 皮むき器のことを最近ではピーラー(peeler)と呼ぶようだ。一般的なものの形状は、Y字型もしくはU字型の先端に差し渡すように刃が取り付けられていて、取り付け台は、金属やプラスチックでおしゃれなデザインとなっている。
 これらと比べると我が家のものは台は木製、形といえば中ほどを持ちやすいように少し細く削ってある程度の素朴なものだ。直しながら見ていると、結婚した当時の食生活に思いが至った。当時は作ってくれた物は何を食べても美味しかったが、それは今も同じだと、クリスマスイブの今日はそう言っておこう。
  (写真は、手直しを終えた「皮むき器」)