写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

夏の終わり

2009年09月09日 | 季節・自然・植物
 いつ明けたとも分からない梅雨が終わり、例年にない大雨や日照不足、農作物の出来や不作を話題にしている内に、季節は、はや秋を迎えた。夜テレビを見ているとき「何だか耳鳴りがするようだわ。ずっと、何か音が聞こえてくるの」と奥さんが心配顔で言う。
 テレビを消して顔を見合わせて真剣に耳を澄ませてみた。確かにジィージィーと連続した音が裏庭の方から私の耳にも聞こえてくる。戸を開けてみると、畑の周辺に生い茂った雑草の中から秋の虫の大合唱だ。思わず笑ってしまった。それとは知らぬ間に、家の周りはすっかり秋色に変っていた。それもそのはずだ。「September has come」となってもう1週間が経っている。
 今朝、白露に濡れた庭に出てみた。朝顔が最後の力を振り絞るかのように、つるの端に1輪咲いている。もうどこにも翌朝咲くようなつぼみは見当たらない。
 思えば、5月の末に種を植え、6月半ばには双葉を間引き、7月半ばには初めての花が咲き、以来1本のつるに100個以上の花が咲いた。毎朝、「咲いた咲いた朝顔が咲いた」であった。
 そして今日、その最後の花がつるの最先端に咲いて終わった。1ヶ月半に及んで毎朝楽しませてくれたが、咲いた花の跡にはすでに乾燥した種がある。そのひとつに手をやると、ポロリと手のひらに丸い種袋が転がり落ちてきた。
 そのふくらみを割ってみると、中から三角形の茶色の種が6個出てきた。5個や7個のものもある。すでに種の保存が出来ている。
 小さなたったひと粒の種から、400個以上の種を残している。手のひらの種を見つめながら、私が残すものに思いが至る。考えてみても、他人に言えるほどのものはない。最後のアサガオと共に今年の夏は終わった。