写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

イチジク

2005年08月28日 | 季節・自然・植物
 近くに住むひとり住まいの従姉と、道ばたで久しぶりに出会った。常々「家のことで何か困ったことがあればやってあげるから」と言っておいた。

 その日、出会ったとたん「Rちゃん、頼みたいことがあるの」という。小さな飼い犬が、掃き出し窓の網戸を2枚も破ったらしい。それを、直せないかと訊く。

 私は今まで網戸の張替えをやったことはないが、簡単に「いいよ、やってあげる」と答えておいた。

 翌朝、ホームセンターに行き、網、押さえゴム、張り替え道具のロール、カッターナイフを計1500円で買った。

 それら1式を持って従姉の家に行き、張替え工事を開始した。従姉は「業者に頼みに行ったら1枚が4700円、2枚で9400円。それならRちゃんに相談してみようと思った」と言う。

 20年以上使った網・押さえゴムはかなり劣化している。破れながら、いとも簡単に外れた。新しい網を載せ、ローラーを使って抑えゴムを溝にはめ込んでいく。

 面白いほど簡単に、気持ちよく仕上がっていく。周辺の余った網をカッターナイフで切り落とした。もう一枚もスムーズに張替えが終わった。

 午前中、1時間足らずの作業であったが、行く夏の陽はまだ暑い。1人前に額に汗が出た。しかし、ぴんと張った新替え網戸に、頬がひとりでに緩む。

「終わったよ」「ありがとう。きれいになったね。幾らあげたら良いかね」ホームセンターの領収書をポケットから出して渡した。

 領収書の額に加えて作業代をとってくれと言う。「いいよ、いいよ。そんなもの」と遠慮した代わりに、ポリ袋を渡された。

 その中には、亡き叔母が育てていたイチジクの実がたくさん入っていた。赤くなって先の割れた実は、今が食べごろのようだ。

 イチジク、懐かしい果物だ。子供の頃は良く食べていた。どこの家にも植えていた。おいしい果物なのに、口にする機会は少なくなった。

 帰って妻に渡すと、半分が瞬く間にジャムに変身した。ひとさじ口に入れると、柔らかく形の残った実が、とろりと舌の上で転がった。

 従姉のおかげで、私には網戸張替えといういう新しい技能が身についた。来年の夏はこれを商売にして歩き、どこかの家でまたイチジクを頂きたいと思っている。
   (写真は、もらったイチジクと、変身した「イチジクジャム」)