まつたけ山復活させ隊運動ニュース

 松茸は奈良時代から珍重されてきたが、絶滅が心配される.松茸山づくりは里山復活の近道であり里山の再生は松茸復活に繋がる.

マツタケは栽培できる(2)

2005年08月26日 | マツタケの生理生態

写真は、マツノザイセンチュウ病で枯死したアカマツ林

マツタケとホストとの共生関係
 マツタケはカビの仲間で、カビは、その生活様式などから腐生性や菌根性や病原性のものに分けることができる.マツタケは腐生性のカビから進化したと考えられ、生物遺体を分解する能力を遺伝的に欠いた菌根菌の仲間である.

菌根菌は生きた植物(宿主あるいは寄主)の1mm未満の細根に感染し、光合成産物である糖類を宿主から摂取する.逆に宿主は菌根を介して土壌中の水やミネラル類を受け取る.

 マツタケは菌根になると、抗生物質を分泌し土壌微生物の攻撃から自らや根を守る.アカマツの細根を菌糸マットで覆い根の乾燥を防いでいる.

 マツタケにとってはアカマツのようなホストが、アカマツにとってはマツタケのような菌根菌が、それぞれの生物が生き残るために獲得した戦略的パートナーなのである.

 菌根菌は,同種あるいは異種植物同士の物質の移動の仲立ちもする.アカマツ林を構成する樹種間に菌根菌の菌糸マットが仲立ちしたネットワークが林内に形成され「情報の伝達」があることが最近わかってきた.

 マツタケの宿主は日本においては、アカマツ、クロマツ、ハイマツ、エゾマツ、ツガ,コメツガなどであるが、台湾ではタイワンアカマツやタイワンツガ、朝鮮半島ではアカマツやチョウセンゴヨウ、アメリカではダグラスファーやツガの仲間、コントルタマツ、地中海沿岸ではレバノンスギである.そのほか、広葉樹をホストにするマツタケが日本にもある.

 日本で、マツタケの生産量の多い宿主はアカマツであり、日本のマツタケはアカマツの存在抜きには考えにくい.

アカマツ林の現況
全国のアカマツ林も、昭和30年代までは元気だった
岩手県岩泉町のアカマツ林の例
東北地域にアカマツ林が広がるのは、江戸時代後半から明治に入ってからだそうである(5).大正初めの盛岡の絵地図を見ると、山の上はアカマツで、麓はスギのようである.

 岩泉町は昔、たたら式製鉄(鉄1tをつくるために、木炭14t=薪50tが必要(1))、炭焼きあるいは牧畜が盛んだった.炭を焼くために莫大な樹木を切ったであろうし、牧草のための火入れで草地が増え、その後、草地がアカマツ林に遷移したと思われる.少なくとも昭和30年代初めの頃まで、岩泉町のアカマツ林面積は今よりも大きく、生長量も森林機能もより大でがあったと想像される.

 現在、岩泉町の面積は、約1000km2で、その93%を森林が占める.アカマツ林は、天然アカマツ林(5,000ha)と人工アカマツ林(13,000ha)で構成され、岩泉町の森林の19%(除く国有林:5000ha)にあたる.

 多くのアカマツ林は適当な手入れがなされてないため、アカマツ林として維持されにくい環境にある.このままでは、ここでも、アカマツは無くなることを意味する.

 林内の立木密度が徐々に増え、林内は薄暗く、湿潤になり過ぎ、腐植層の堆積も多い.これでは、クライマックス林も低生長になることを忘れてはいけない(山に緑があればよいと言うものではない).

森林と微生物は密接な関係
アカマツ林は遷移林(2次林)であり、人の手が入らず放置されると、その土地のクライマックス林にとって代わられる運命にある.西日本では照葉樹林に、東北地域ではブナ林やミズナラ林に必ず遷移して行くことを意味する.

放置されたアカマツ林内は、広葉樹の立木密度が増加してうす暗く、地表に落葉や腐植が堆積し、アカマツ林土壌は富栄養になる.ミミズが見られることもある.このようなアカマツ林土壌には、乾燥土壌とは異なる微生物が多くなり、微生物との競争に弱いマツタケは生活しなくなる.

 もちろん、他の菌根性のキノコの発生も少なくなるし、発生する種が交代することも考えられる.また、腐植層が堆積し過ぎると、アカマツの細根が腐植層に伸長し、褐色森林土壌中に細根が少なくなる.こうなると、夏期の乾燥時に、腐植層は極端に乾燥するので、アカマツは水分ストレスに耐え切れず枯死することがある.

マツタケは褐色森林土壌内部(深さ30cmくらいまで)に生活するキノコであり、腐植層のなかでは生活できない.菌根性のキノコは樹木の生長に大きな役割を持っているがそれを期待できなくなる.菌根性のキノコを感染させないと,樹木の苗の生長が明確に悪くなる.

 放置林ではいわゆる森林機能も落ち、病気にも弱くなってくる.健全なアカマツ林構成樹種の葉面には、二酸化炭素よりも地球温暖化に影響の大きい一酸化炭素やメタンを資化=吸収する細菌Methylobacterium が大量に生活している(3).

 富栄養化したアカマツ林土壌には、糸状菌、細菌、放線菌やそれらをエサとするセンチュウなどの微生物数がマツタケの発生するアカマツ林土壌のそれと比べると非常に多くなっている(6).このことは微生物との競争に弱いマツタケにとって致命的なことである.当然のことながら、そんな林には、マツタケの発生は見られないし、発生林にあっても生産量が減少する.(続く)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スナップ写真6 | トップ | マツタケは栽培できる(3) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

マツタケの生理生態」カテゴリの最新記事