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『経営に終わりはない』(読書メモ)

藤沢武夫著『経営に終わりはない』文春文庫

本田宗一郎とともにホンダを築き上げた藤沢武夫の自伝である。技術の宗一郎と、経営の藤沢が両輪となり「世界のホンダ」へと進化していくプロセスが生き生きと描かれている。

ホンダという会社を築くにあたり藤沢さんは次のように語っている。

「本田宗一郎は特別な人間です。だから、彼のような人物を育て上げようとしても無理です。それならば、何人かの人間が集まれば本田宗一郎以上になる、という仕組みをつくりあげなければならないということです。そうしなければ、この企業はひと様に迷惑をかけることになるでしょう。」(p104)

彼の経営哲学は奇をてらったものではない。当たり前のことをしっかり実行している点に特徴がある。

第1に、社会的な責任を重視する。藤沢さんは、困難に直面したときに、顧客、地域の人々、代理店との信頼を大事にする形で意思決定をしている。

例えば、爆発的に売れたN360に苦情が殺到したとき、その年の決算が赤字になることは覚悟で、全ての車をホンダの責任で修理している。

第2に、自分で考え、創ることを大切にしている。藤沢さんの信条は「たいまつは自分で持て」「人のふんどしで相撲をとるな」である。製品開発や販売店網を構築する際に独自の仕組みをつくった。

第3に、シンプルであること。藤沢さんいわく「私の経営信条は、すべてシンプルにするということです。シンプルにすれば、経営者も忙しくしないですむ。」(p150)

最後に、長期的な視点を持つこと。昭和38年、ホンダは四輪に進出したが、不景気の中、車が売れない状況が続いた。藤沢さんは当時を次のように振り返っている。

「せっかくつくり始めた四輪なのに、生産を中止しようかどうかというような状況だったから、みんな元気がない。私はあまり工場には顔を出さないものだから、かえって、たまに行くと、工場の空気がわかるんですね。」(p199)

藤沢さんは、この時期、将来のために設備投資をしている。「どうせ四輪をやるからには、設備がもっと必要だろう。好きなものを買ってくれ、金はなんとでもするから」と宗一郎に伝えたという。

藤沢さんが工場に行くときには、日は当たらないが将来のためにいろいろと試作をしている部門に行く。

「『どうだい、やってる?』というようなことで、一時間でも二時間でも、私は話しこんでくる。いま仕事のある華やかな職場には行きません。私がそんなとこに行ったってしょうがないんですよ。」(p93)

本田宗一郎と出会って25年目の昭和48年正月、藤沢さんは引退を告げる。そのとき、宗一郎は次のように語ったという。

二人いっしょだよ、おれもだよ」

会社のトップに立ち、最後までコンビでいられるケースは少ないように思う。多くの場合、ケンカ別れをしてしまうのではないか。

本書を読むと、藤沢さんの目を通して「本田宗一郎の凄さ」も見えてくる。
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