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『つぶれた帽子』(読書メモ)

佐藤忠良『つぶれた帽子 佐藤忠良自伝』中公文庫

日本を代表する彫刻家である佐藤忠良氏の自伝である。

69歳のとき、憧れのパリで個展の話がもちあがったときのことを、佐藤氏は次のように書いている。

「「パリの市立美術館で個展を開かないかという話があるのですが」アトリエで電話をとった私は、初めだれのことかわからずに聞き返したが、私の個展と知って、ウソのようだが、ガタガタと足が震え始めた」(p.163)

そんな大それたことはできないと即座に断ってしまう佐藤氏(もったいない)。しかし、それから3ヶ月して、さらに話が来て、結局パリで個展を開くことになる。なかなかの反応でパリの個展を終えた佐藤氏のもとに、批評の記事が送られてきた。

「帰国後、新聞や雑誌の紹介文やら批評などを送ってもらったが、二十いくつかの記事のうち七つに「母の顔」の写真が載っているのには驚いた。学生くさい初期の作品なので、はずかしいからと尻込みするのを、私のアトリエに来たモニク・ローラン館長の強い薦めで出品したのだけれど、人生の終盤に来て、人に言われて初心を教えられた思いだった」(p.105-107)

この「母の顔」という彫刻が本書に収められているのだが、すごいインパクトである。

パリの人々は、国境を越えて「母」を感じたのだろう。技術や技巧を超えて、伝えるべきモノの迫力が大事になることがわかった。




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