goo

『不可能を可能に』(読書メモ)

田中徹二『不可能を可能に:点字の世界を駆けぬける』岩波新書

大学生のときに光を失った田中さんが、点字図書館を中心に、世界をまたにかけて活躍する様子が描かれている。

本書を読んで最も感動したのは、「点訳運動」のこと。さらっと書かれているだけなのだがインパクトがあった。

戦前に、本間一夫さんという方が点字図書館を立ち上げたものの、点字図書が十分ではない状況だったという。

「いよいよ1940年11月10日、日本盲人図書館を発足させたのです。しかし、それは当時買うことができた点字図書700冊を並べただけのものでした。このままでしたら、斉藤さんの言う「図書館とは言えない」もので終わっていたのかもしれません。それがいわゆる図書館として、全国の視覚障害者から絶大な信頼を得ていったのは、社会教育家である後藤静香さんの点訳運動に支えられたからです。

本間さんの存在を知った後藤さんは、みずから点訳を学びました。それだけではなく各地を訪れ、点訳講習会を開きました。そして点字を習得した主婦たちが、こぞって点訳書を日点に送ってきたのです。内外の名著がどんどん点訳され、読書に飢えていた視覚障害者たちは歓喜に酔いしれることになりました」(p.79)

社会教育家である後藤さんの行動力もさることながら、戦前という大変な時期に、全国の主婦の方々が点字を学び、点訳をされたという事実に驚いた。

ハンディキャップがある人々のために、自分の時間を使って貢献しようとする「思い」が、今の点字図書館の基礎を築いたといえる。

いつの時代でも、社会を変えようとするリーダーシップと、それに応える志の高い人々の存在が、世の中を動かしていくのだろう。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 聞いてくださ... 宣べ伝える人... »