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『京都花街の経営学』(読書メモ)

西尾久美子『京都花街の経営学』東洋経済新報社

現在、京都の舞妓さんのほとんどが京都以外の全国からやってくるらしい。そして、彼女らは、1年間の修行を経て、舞妓さんとしてデビューし、しばらくするととりあえず一人前の舞妓さんになる。

なぜ、そんなに超短期育成が可能なのだろうか?

この本は、そんな疑問に答えてくれる本である。

「舞妓さんになりたい」という希望を持って全国から集まった娘さんは、まず、一人前の舞妓さん・芸妓さんを育てる芸能プロダクションである「置屋」で住み込みの修行をする。経営者である「お母さん」とともに生活しながら、みっちり訓練されるのである。

そして、昼は「女紅場(にょこうば)」と呼ばれる芸舞妓さんの学校に通い、日本舞踊・長唄・三味線・茶道・俳諧などの技能を学ぶ。

1年間の修行を経て、お座敷である「お茶屋」に舞妓さんとしてデビューした後は、1日3つのお座敷を回る。その数、1年間に約1000回である。

つまり、学校というOFF-JT、お座敷でのOJT、住み込み先でのトレーニングが組み合わさった密度の濃い経験を積むことによって舞妓さんが育成されるのである。

さらに、周りにはロールモデルとなる先輩舞妓・芸妓さんがたくさんいるので「聞く・教えてもらう→やってみる→見る→チェックする」というサイクルが高速回転する。

加えて、毎年開かれる「踊りの会」で、自らの芸を発表する機会があったり、正月明けに1年間の売上ランキングが発表されるので、舞妓・芸妓さんのモチベーションも維持される。

熟達研究のエリクソンは、エキスパートになるためには「よく考えられた練習(deliberate practice)」を積まなくてはならない、と主張している。京都花街は、「これでもか!」というくらい、「よく考えられた練習の機会」を提供することで、芸舞妓さんのレベルを短期間にアップしているのである。

舞妓さんの世界に関心がある人だけでなく、人事担当者やサービス業の管理職の方には是非読んで欲しい本である。
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