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『落日燃ゆ』(読書メモ)

城山三郎『落日燃ゆ』新潮文庫

A級戦犯として処刑された、広田弘毅元首相を主人公とした小説である。

もうすこしドラマティックなストーリー展開を期待していたが、淡々と事実を記述していく内容であった。しかし、それゆえに、第二次世界大戦における日本政府の状況がよくわかった。

なぜ、日本は戦争に突入してしまったのか?

統帥権独立の名の下に、軍部は独走し、外交や行政は振り廻され、あるいははねとばされた。また同じ軍部内でも、陸軍と海軍は対立し、さらに、陸軍内でも、参謀本部と陸軍省が対立していた」(p.356)

つまり、政府が軍事コントロール権限を持たなかったことや、実質的な統帥権を陸軍と海軍が別々に持っていたことが、軍部の独走と分裂を招いた、ということだ。この小説を読むと、それを実感することができる。

こうした悲惨な状況の中で、広田弘毅は戦争を止めようと必死に努力したにもかかわらず、結局、戦犯として処刑されてしまう。

国の将来のために、自ら死を受け入れる姿勢に、真のサムライの姿を見た。

さらにすごいのが、妻・静子さん。

戦犯として夫が捕まった後、服毒自殺をしてしまうのだが、それは、夫の覚悟がゆらがないためであった。静子夫人が亡くなる前夜、家族を前に彼女は次のように話していたという。

「このとき静子は、話の合間に、「これまで楽しくくらしてきたのだから、もういいわねえ」などとつぶやき、また、広田を楽にして上げる方法がひとつあると、謎めいたこともいった」(p.368)

静子さんも、サムライの妻であったのだ。

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