2024年7月27日(土)
2024とくほう・特報
「マイナ保険証」でトラブルやまず
本紙報道に読者から被害体験続々
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政府が医療機関や薬局に「支援金」までばらまき、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用強要に躍起となるなか発生した大手薬局チェーンのトラブル事例。本紙報道(5日付とくほう・特報)を受け読者から、トラブル体験や質問が続々と寄せられました。(内藤真己子)
人工透析中 「入れ」と強要
「人工透析中に看護師に起こされ、『(マイナ保険証に)入る気はないのか』と強要されました」。こんな体験を知らせてくれたのは川崎市の松江宍道さん(82)=川柳作者名=です。
腎臓病のため14年前から自宅近くのクリニックで週3回、4時間の透析治療を続けています。「透析が始まって眠っているところを看護師さんにトントンと肩をたたかれ起こされました。血圧測定かと思って目を開けたら、いきなり『マイナンバーに入る気はないんですか?』と強い調子で言われたんですよ」と松江さん。
「マイナンバーカードは任意。マイナ保険証を持たない人には資格確認書が送られてくるよ」と一蹴すると、看護師はマイナ保険証の利用を勧める厚生労働省のチラシをベッドに置き、無言で立ち去ったと言います。
「透析機械につながれて治療している最中ですよ。身動きが取れない。寝ている患者まで起こしマイナ保険証を勧めるなんて、人権侵害ですよ。受付にチラシは置いてあるけど、いままで声をかけられたことはありません。いきなりなぜなのか。他の患者には聞いてないけど、私だけに声をかけたとも思えない」と松江さん。
生涯続く透析治療、クリニックと縁を切るわけにいきません。「もめたくはない」。しかし松江さんは25日、意を決し事務職員に説明を求めました。
「職員は、『国からの勧奨があるので、看護師や事務職員が分担して患者に声かけをした』『マイナ保険証の勧めはやりたくないが、嫌になるほど国から言ってくる』と話しました。患者の立場は弱い。それにつけこむようなマイナ保険証のゴリ押しは許せません。医療機関にここまでさせる岸田自民党政府には怒りしかない」と憤ります。
「薬局で普通の保険証を出したところ、『マイナンバーカードはないんですか? 自宅にはあるんですか?』と大変きつい口調で言われ、にらまれました。家に帰ってからも胸がドキドキしました」。こんなメールをくれたのは東京都新宿区の女性(61)です。
同区内にある大手薬局チェーンでのこと。「逃げるようにして帰ってきました。こちらに落ち度があるわけでもないのに、なぜそこまで言われなきゃいけないのかと悔しかった」と語る女性。「今度きついことを言われたときは見せようと、持ち歩いているんです」と丁寧にたたんだ本紙記事を広げて見せてくれました。
救急搬送で使えず 自費に
マイナ保険証を使って“実害”にあった人もいました。
東京都豊島区のAさん(74)は、妻が意識消失で都内の病院に救急搬送されたとき、マイナ保険証で資格確認ができず預かり金(自費)を払わされたと投書を寄せました。
「マイナンバーカードは国民健康保険証より小さく携帯に便利だから私も妻もマイナ保険証を持ち歩くようにしていた」と語ります。
幸い妻は意識が回復し検査で問題がなく帰宅することに。ところが支払いのため救急病院のカードリーダーにマイナ保険証を2、3回かざしても反応しません。病院職員が「機械がうまく動かないときがある。(紙の)保険証はありませんかね」と言ってきました。
結局、全額自費負担で4万120円を払わされました。後で保険証を持って精算に行かねばなりませんでした。病院までの交通費は自己負担です。「救急搬送されたときマイナ保険証は機械の不具合とはいえ保険証として機能しなかった。マイナンバーカード推進の河野太郎デジタル相が自民党総裁選にまた出ると報道され、腹が立ちました」とAさん。
政府は、マイナ保険証で救急搬送中に検診や薬の情報が分かるようになると利便性を宣伝していますが、保険証として使えなければ話になりません。医療機関が資格確認できない場合、負担割合などを記入する「資格申立書」を患者に求めれば、本来の自己負担で保険診療を行うことができるとしていますが、患者が全額負担を求められる例が後を絶ちません。
健康保険証「廃止」でどうなる?
保団連事務局次長 本並省吾さんに聞く
「健康保険証が廃止された後はどうなるの?」などの質問も寄せられています。この問題に詳しい全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長に聞きました。
―いま手元にある健康保険証は、12月2日以降使えなくなるのですか?
そんなことはありません。健康保険証の新規発行は今年12月1日までで終わり、12月2日から停止されます。しかし、それまでに発行された保険証は、12月2日以降も最大1年間使えます。お手元の保険証は決して廃棄しないでください。
中小企業などが入る協会けんぽ、大企業の組合健保、公務員の共済組合などの被用者保険は、おおむね来年(2025年)12月1日までお手元にある保険証が使えます。
一方、市町村国保、後期高齢者医療保険は1年か2年ごとに保険証が更新され、いま8月更新の保険者から新しい保険証が郵送されてきている場合があります。その場合、保険証の有効期間は1年間で来年の7月31日までです。
―保険証の有効期間が切れた後はどうなるのですか?
マイナンバーカードを取得していない人、マイナンバーカードを取得しても健康保険証の利用登録を行っていない人には、発行済み保険証の有効期間が切れる前に、保険証に変わる「資格確認書」が保険者から交付され、保険診療を受けることができます。「当面の間」は申請しなくても交付されます。おおむね現行の保険証と同様の記載内容や形状となる見込みです。
被用者保険は、25年12月2日以降有効な「資格確認書」が、その前に交付されます。
国保と後期高齢者医療保険は、たとえば保険証の有効期限が来年7月末の場合、来年8月1日から有効な資格確認書が、その前に交付されます。
保険証の新規発行が停止される12月2日以降に加入する保険が変わったり、氏名を変更したり、保険証を紛失した場合なども、「資格確認書」が交付されます。
―「マイナ保険証の利用登録をやめたいが」と声もありますが、どうですか。
10月末から各保険者に申請すれば、利用登録の解除が可能です。
―今後の課題は?
日本の公的医療保険制度は、券面に資格情報が記載された健康保険証が交付されることで、医療機関でスムーズな資格確認ができ、すべての国民に必要な医療を保障してきました。公的医療保険制度のもと保険証を発行・交付する責任は国、保険者にあります。他方、「資格確認書」は法律上、被保険者の申請により交付するとされており、申請なしの交付は「当面の間」の措置にすぎません。交付義務のある保険証を残すことが国民皆保険制度の大前提です。
マイナ保険証の利用率は保険証「廃止」まで5カ月で1割に及びません。「総点検」後も資格確認ができないトラブルは続いています。政府は保険証廃止を撤回し、現行の保険証を存続させるべきです。