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MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

どこで死にたいか

2015-04-13 00:00:00 | 通訳者のつぶやき

80年代、90年代に出稼ぎで来た人たちは
在留が20年超になっています。
若かった労働者も、いろいろとガタがくる中高年に。
かくいう私も一緒に年を取りました。

最近は医療通訳の後に老後の話をすることが増えました。
話は死に場所に及ぶこともあります。

いつかは国に帰りたいのか
子どもや友人のいる日本で死にたいのかでは
老後の準備や覚悟がずいぶん違ってきます。

先日、全身にがんの転移をしている高齢の女性と話していました。
彼女は日本国籍をもっているけれど、日本語は話せません。
日本に家族はいるけれど友達はいません。

日本ならこれまで通り治療を受けることができます。
母国ではお金がないと治療は保障されていません。
治療のことを考えると日本に残るほうがいいのではないかと思います。
もちろん、みんなで日本に残るように説得しました。
でも「日本では死にたくない」という言葉に
ノックアウト、諦めてしまいました。

「日本で死にたくない」
たとえ、お金がなくて治療が受けられなくても
自分の国に帰りたい。
もしかしたら母国には彼女をケアする人は誰もいないかもしれない。
それでも帰りたいと言われたらどうすることもできません。
子どもではなく、長く生きた人生の先輩。
その人が帰るというなら止めることはできない。

ただ、やっぱり日本に戻ってきたときに
「なんで戻ってきたんだ」という言葉は言わないようにと思います。

ある人は長い日本での無理な仕事がたたって
ヘルニアになってしまい、歩くのも困難になっています。
これ以上仕事をつづけたら本当に歩けなくなってしまうかもしれません。
何のために本国に送金し、家族をささえてきたのかわからなくなります。
歩けるうちに、自分で仕事をやめて本国で第2の人生を探すほうがいいのか、
それとももう少し頑張ってできるところまでお金を貯めるか。
歩けなくなってから帰国するのはある意味、決めやすいです。
また余力のあるうちに仕事を辞めたり、帰国する決意をするのが本当に難しい。

かくいう自分だって、
老後のことはきちんと考えなくてはならないとおもいます。

ある国に赴任していた人は
病気になった時、這ってでも日本に帰りたいと思ったと言っていました。
その国でも高度な医療を受けられる機会があるにもかかわらずです。

日本で治療したいという人の願いはもちろん叶えたい。
それと同時に、帰りたい人の気持ちも理解できる通訳者でありたいと思います。


語学オタクはいらない

2015-03-30 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
オタク・・・。

随分便利な言葉ができたものです。
私が若い頃には、何かを集中して好きになることは
けっこう恥ずかしいことだったので、
趣味は「読書」とか「音楽鑑賞」とか当たり障りのないことを書いていました。

最近は、女性でも野球好きや鉄道好きは珍しくなくなり
「カープ女子」とか「鉄子」とか便利な名称ができました。




医療通訳を認証するとき、
どんな医療通訳者が実際の現場で役にたつかを
考えていく必要があります。

試験をすると
とにかく単語をよく知っている人が高い点数をあげます。
もしくは、試験になれている人、特に書く事が得意な人は
テストが得意なので高評価を得がちです。

もちろん、たくさんの単語を知っている通訳者は望ましいです。
でも、医療通訳者は単語を知っているかより
知らない単語が出てきた時にどう対処できるかの能力が重要です。
医療通訳は内科、外科、小児科、産科から精神科や感染症、予防接種まで
いろんな分野の通訳をします。
その全てに精通することを望むのは不可能だと思います。
もちろん、臓器の名前や基本的な症状などでひっかかっているのは論外ですが、
専門的な単語が出てきた時に、患者も知らない単語を
そのまま訳しても伝わらないことが多々あります。

医療を含むコミュニティ通訳は
受け手がきちんと理解して、判断して、選択できるように通訳をすることが目的です。
だから、普通の人がわからない単語をそのまま訳しても伝わらない。
それよりも、わかりにくいのであれば図表を使うとか、
メモをきちんととって聞きなおすとかといった
正しく訳したいと思う謙虚な姿勢こそが重要なのだと思います。
理解できないことを、自己決定したり選択したりするのは無理です。

美しい通訳でなくてもいいのです。
使命感をもって誠実な通訳をする心構えが大切だと思うのです。

ここでは語学オタクはいりません。

単語を100知っているのもよいことだけど、
知らない単語にどう誠実に当たることができるのかの方が
医療通訳者に欲しい才能だと思います。


留学生が医療通訳を請け負う場合に

2015-03-23 17:13:07 | 通訳者のつぶやき
先週末21日に京都で開催されたJAFSA(国際教育交流協議会)主催の
多文化間メンタルヘルス研究会に参加してきました。

こちら は昨年の報告です。

JAFSA(国際教育交流協議会)は、1968年に設立され、
2003年に法人格を取得した特定非営利活動法人(NPO)で、
主に大学の国際教育交流に関する情報交換・調査・研究・研修・出版・提言等の諸活動を行っており、
約300に及ぶ大学・教育機関・企業等を会員とするこの分野唯一のネットワーク組織です。
(JAFSAのHPより転載)

今回は、留学生のこころの問題についての研修で、
四谷ゆいクリニックの阿部裕先生の基調講演と
各大学の担当者の事例検討が行われました。

日本も2008年「留学生30万人計画」を発表し、
2020年までに留学生を30万人に増やそうとしています。
大学では、様々な留学生のサポートを行っていますが、
移住者とはまた違った心の問題やサポートが必要なようです。

お話しを伺ってて、
留学生が精神疾患で受診するとき誰が通訳するのだろうと思いました。
通常、本人が日本語堪能、もしくは英語ができるのが前提と感じましたが、
こころを患っているとき、第2言語がうまくでてくるとは限りません。
そんな時、同国人の学生や知人がサポートに入っているとのことです。

でも、留学生といっても、まだ若い学生です。
修羅場にもなる精神科の受診の通訳はきついだろうなと想像に難くありません。
医療通訳者でも精神科場面での通訳は上級者でなければできないと言われています。
ましてや、医療通訳の訓練を受けているわけでもない
二つの言葉が話せるだけの学生に精神科の医療通訳をお願いするは
お願いする側がかなり慎重になってサポートしなければいけないと思います。

私はできれば、重篤な医療場面の通訳は
学内で人材調達を考えるのではなく
外部の医療通訳者を頼めるように予算措置して欲しいと思います。
結局、多くの善意の人が動くよりも医療通訳者がつくほうが
スムーズに医療に結びつきます。

そして、忘れないで欲しいのは、
重篤な場面の医療通訳をする学生や知人の人たちの
こころの傷の問題です。
慣れていない人が医療通訳をすると
ショックを受けたり、うまく自分自身で通訳したことを消化できないことがあります。
どうしても学生や知人に医療通訳をお願いする場合は、
そのお願いする人が通訳者を孤立させない配慮が必要です。
こうした場面で医療通訳を受けてくれる学生は
優しい人が多いのです。
その分、抱えてしまうことも多い。
周りの人がきちんとそのことを理解するようにお願いしたいと思います。

巡業が終わりまして・・・

2015-03-16 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
2月から3月にかけて
いろんな場所に出没していました。

年度末なので、行政関連の行事が多い。
確かにこの時期になると、年内に予算を消化しなければいけないので
たくさんのイベントや研修等が開催されます。

医療通訳や外国人支援関連に
何らかの形で予算がつくのは喜ばしいこと。
おかげでいろんな場所に出かけて、新しい出会いが生まれます。

2月には市町村国際研修所で「医療通訳基礎研修」が開催されました。
一日目の夜には交流会も開催されたのですが、
参加者は「基礎」レベルではなくて
皆さん地域の課題を抱えて、奮闘している方々ばかりで
こちらのほうが参加者の方々から勉強させてもらいました。

医療通訳は全国レベルでの運動も必要ですが、
地域によって外国人住民の集住度、言語別需要や傷病別の需要、地域の病院体制などが違います。
地域でも制度設計することが重要だなと感じました。

3月にはあいち医療通訳システムのフォローアップ研修に行きました。
研修のためにあらためてシステムの概要について調べましたが、
行政と医療機関、大学が連携して、「派遣」「電話通訳」「翻訳」を3本柱にした
とてもよく考えられているシステムだと思います。
(HPに詳しいことが書かれていますので、ご存知ない方は是非調べてみてください)
特に痛感したのは、厳しい試験を合格して登録された通訳者さんたちの
プライドの高さと職業意識の強さです。
医療通訳のプロとしての意識をもって稼働しているので、
要請件数はあがってきています。
特に英語に関しては、「医師が話せる」と「通訳をいれる」では
レベルが違うことを医療機関が理解してくれるようになっているのか、
年々件数があがっているのは、よい通訳者さんが見本を示してくれているのだと思います。

先週末は新潟へ。
新潟県でも独自の医療通訳に向けて協議会での話し合いが始まっています。
座長のS先生は通訳者でもなく医療者でもないけれど、
外国籍住民のサポートをずっとされてきている方です。
集住ではなく、広い県域をどうまとめるかが課題ですが、
こうした問題を地域の様々な専門の方々が集まって議論されているのは
とても興味深いですね。
また新潟県にはすでにメディカルツーリズムで専門医療を受けに
多くの外国人が来日しています。
未来の話ではなく、待ったなしの話なのです。



MEDINT看護部会主催の研修会

2015-03-02 19:20:22 | 通訳者のつぶやき
医療通訳研究会(MEDINT)の活動には
医療通訳者のための研修、医療通訳の社会啓発のほかに
医療通訳ユーザーのための研修があります。

医療通訳ユーザーは主に
病院の医師や看護師というイメージがあるかとおもいますが、
地域看護や地域保健、身近な薬局や介護施設なども
外国人患者と家族は利用しています。

そうしたユーザーの人たちに
外国人医療や医療通訳の上手な使い方を知ってもらうことは
これから私たちが活動しやすい環境を整備するためには
必要不可欠なことだと思っています。
こうした人たちに医療通訳の応援団になってもらうことは
大きな力になります。

特に看護師、保健師、助産師の人たちは
患者との距離が近く、私たち医療通訳者との共通点も少なくありません。

MEDINTでは5年前から看護部会を作り、
様々な活動をおこなってきました。

今年度出前講座に助成をいただき、
3月に2つの講座を開催します。
受講者は保健師もしくは協力隊経験者と限定されていますが、
その分ピンポイントの中身の濃い研修会になると思います。

2014年度地域保健支援者対象講座
2015年3月14日(土)10:00~15:00
「外国籍住民が健やかに暮らすために」  

2014年度JOCV看護職帰国隊員対象講座
2015年3月15日(日)11:00~16:30
「笑顔で外国人患者を受け入れよう!
~ 看護職者のための外国人医療支援講座~」  

詳細はMEDINTの HP をご覧ください。


国際ワークショップ終わりました

2015-02-25 21:00:39 | 通訳者のつぶやき
今日は、東京で外務省、IOM、葛飾区主催の国際ワークショップに参加してきました。

11年続いているこのワークショップの今年のテーマは「医療」
医療通訳だけでなく、EPAや保険の問題、メディカルツーリズムまで
特にシンポジウムは、とてもバランスのいい、聞きどころの多い議論でした。

私は医療通訳の体験談を話しましたが、
実はぎりぎりまで原稿が決まらず、
その上、私の前に体験談を話されたEPA介護福祉士のピンキーさんの話が
素晴らしすぎて感動し、
自分の番になると壇上に上がったとたんに、頭が真っ白になってしまいました。
せっかくいろんな話を聞いてほしいと鼻息荒く東京に乗り込んだ(笑)のに、
自分の度胸のなさを感じます。
感染症現場の通訳と精神疾患の通訳のつらさと危険さを話しましたが、
怖がらせるわけではなく、医療者の理解と協力がなければ
通訳環境の整備はできないということ訴えたつもりです。

ぼろぼろの発表でしたが、後日ネット上で公開されるので、
また時間のある方はみてやってください。

シンポジウム前日には葛飾区内の
グループホームと母子支援NPOを見学させていただきました。
なかなか外部の人間が興味本位で行ける場所ではないので、
葛飾区の先進事例は各地でも活用できると思いました。
特に、子育て中のお母さんとこどもが自由に利用できる居場所が
保健所の建物の中にあるのは素晴らしいと思います。
神戸にもあればいいのに・・・と痛感しました。

葛飾の例で感心したのは、
外国人施策ではなく、日本人も外国人も使えるサービスになっていることです。
社会統合という意味では、誰でも使えるサービスに多言語表記があるということ。
常々特別扱いは必要ないけれど、配慮が必要と考えているので、
こうした自然な対応は素晴らしいなと思いました。

医療通訳は、日本語での会話や読み書きに問題のない人には
必要のないサービスかもしれません。
でも、医療は誰にでも必要なサービス。
そこに医療通訳を置くだけで、外国人もろう者も使えるようになります。

医療通訳が一日も早く普通のことになるようにと
思いを強くしました。

明日は滋賀のJIAMで「医療通訳研修」です。
土曜日はNGO神戸外国人救援ネットさんのDV被害者支援通訳の研修、
日曜日はあいち医療通訳システムの通訳者研修です。
いろんな通訳者さんやコーディネーターさんにお会いできるのが楽しみです。

Yさん、かりん飴ありがとう。


病院通いについて

2015-02-16 13:54:53 | 通訳者のつぶやき
家族が入院し、神戸にいる間はほぼ毎日病院通いをしていました。

家族の場合、医療通訳の時とは距離感が違います。
一緒にいるだけでなく、いろんな決定事項もあるし、
報告や励ましや買い出しや家族としての気遣いもあります。

医療通訳は一歩下がった第三者であり、
病院を出ると(電話通訳の場合は電話を切ると)
日常に戻るけれど、
家族の場合はなぜかうまく戻れない。

疲労感が抜けなくて
仕事をしながら、心底疲れました。

いろんな本を読んだり
体験記を読んだりしながら、
電車の中で涙が出たりもしました。

そして、患者と家族の立場から
あらためて病院の有難さ、医療職の皆さんの温かさが
心にしみました。
看護師さんが天使にみえたし、
病院の清潔さや心尽くしを感じました。

こんなに心づくしの医療を持っている日本はすごいなと思います。

外国人患者さんと家族は
その医療をきちんと受け取ってくれているでしょうか。

医療通訳について考えなければいけないことがたくさんあるけれど、
こんな試練も、たぶん無駄なものじゃないと思っています。


平成26年度 外国人の受入れと社会統合のための国際ワークショップ

2015-02-09 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
2月25日に東京で行われる外務省主催のシンポジウムで
体験談の発表をします。
今回のシンポジウムは医療通訳士協議会(JAMI)会長の中村先生を座長として
2010年にMEDINTのシンポジウムで基調講演いただいたバンコクのソムアッツ先生や
IMIAのイサベル・アローチャさんなど
国内外から様々な人たちが集まり医療通訳について議論します。
東京方面で平日ですが、お時間のあるかたはぜひお越しください。

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平成26年度 外国人の受入れと社会統合のための国際ワークショップ
「医療分野における外国人と外国人材 -コトバと文化の壁を越えて-」

外務省と国際移住機関(IOM)、葛飾区の主催でシンポジウムが開催されます。

日時 2015年2月25日(水)13:30-17:00(開場12:30)

会場 かつしかシンフォニーヒルズ・アイリスホール 東京都葛飾区立石6-33-1

日本社会の高齢化とグローバル化に伴って,いかなる人にも不可欠な医療は,
日本で生活している外国人や新たな来日外国人との社会統合を図る上で,
取り組むべき重要な分野の一つとなっています。

2020 年には東京オリンピック・パラリンピックを開催予定であり,
また,同年までに2,000 万人の外国人旅行者の訪日を目指す観光立国を掲げています。
その一方で言語の面での不安から医療機関での治療をためらう外国人が少なくないとして,
医療通訳の育成・多言語対応をはじめとする,
外国人患者の受入れを促進するような医療体制の整備を図る必要性も指摘されているところです。

今後の中長期的な社会のあり方を考えるにあたり,外国人材の活用は我が国にとって喫緊の課題となっています。
観光等の短期滞在者のみならず,日本で活躍する外国人材にとっても安心な医療体制を整備すると同時に,
日本に中長期に在留する外国人材が多言語・多文化スキルを生かしつつ,
医療の場で活躍しうる環境を整えることが求められていると言えましょう。

以上を踏まえ,本ワークショップでは,
「医療分野における外国人と外国人材 -コトバと文化の壁を越えて-」をサブ・テーマとして,
主に以下の3点について議論します。

● グローバルな時代の医療のあり方と「外国人の医療」
● 医療現場で言語・文化の壁を越える橋渡し役を担う「医療通訳」
● 医療分野における外国人材の社会への貢献と将来の「外国医療人材活用の方向性」

詳細については こちら

ぼちぼちいこか~遠隔通訳実習やります

2015-02-02 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ブログの更新がどんどん遅くなりすみません。

50代は周りの家族の介護や看護がどどっとやってくる
年代なのだなあと感じます。
布団に入ると3分で朝まで爆睡、あ~温泉ランド行きたい・・。

医療通訳の皆さんも、たぶん同じような年代の方が多いので、
ずっと医療通訳に情熱をかけ続けることができない時期があると思います。
でも、わたしはそれでいいと思います。
できる範囲で細く長く経験を積んでいくことが医療通訳には必要。
時には、家族の介護や看護が貴重な学びになることもあります。
育児の経験や自分自身の病気の経験すら医療通訳には貴重な学びです。
自分の生活をきちんと生きることが支援の際の配慮などにつながっていくと信じています。

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MEDINTの2月研修は遠隔通訳の実習を行います。
実際に機材を使って、目の前にいない患者や医師を対象に
どのように通訳をするかを学びます。
一昨年、宮崎に行った時に感じたのですが
医療通訳の議論は、地域性が大きく関わります。
多くの外国人が集まって住んでいる地域なら
病院常駐が一番理想的ですが、
言語がバラバラだったり、外国人患者の数が少なかったり、
通訳者がいない地域をどうするかも考えなければなりません。
その際に、遠隔通訳はひとつの解決方法になります。

実際、私も9割以上が電話通訳です。
本当は患者の横にいたい。
そのほうが実際の診察室の空気感がわかります。
そこで見ているものを一緒に見て、
患者や家族の感情の動きもよくわかります。
でも、地域によってはそうした常駐や派遣は難しいこともあります。
だから医療通訳には様々な選択肢が必要だと思います。
夜間や救急、感染症やいろんな国の人達がバラバラに住んでいる地域、新生児訪問など、
遠隔通訳の可能性はあると感じます。
もちろん100%ではない。
でも0%よりも70%があればどれだけ助かるか。
この実習で、その可能性は考えられればいいですね。


医療通訳士をどうするか

2015-01-19 13:41:00 | 通訳者のつぶやき
「医療通訳士」は医療通訳士協議会の登録商標であることは
以前にもこのブログで伝えたことがあります。

ここ数年で急激に「医療通訳」にスポットがあたり
何かすごい専門職が誕生したみたいなイメージですが、
実態としてはあまり変わっていません。

一部の医療機関を除けば、
未だに医療通訳は未整備であり、
病院か患者か通訳者か誰かの我慢の下に成り立っています。
みんなニコニコの現場はなかなかありません。

魔法のような、夢のような解決方法があれば
たぶん今までに頭のいい人が作ってくれていると思います。

では、医療通訳をどんな資格にすればいいのか
もしくはどんな認証方法にすればいいのか
急いで考えていかなければいけない局面に来ていると感じます。

0)まず医療通訳という職業を作る人を作る
1)現在稼働している人を排除しない
2)少数言語こそ大切(少数言語の人を排除しない)
3)認定(入口)よりも更新・研修が大切
4)倫理規定を守り広める

そんなことを考えています。

私が持っている資格は「社会福祉士」と「ファイナンシャルプランナー(FP技能士)」
どちらも医師や看護師に比べれば新しい資格です。
社会的に意義のある専門職となるためには
一定数のその専門職を体現し、広めていく人々が必要です。
この資格って必要だよねとか、
こういう資格の人がいてくれて助かるよねという声が大きくなって
資格の形ができてくる。
そこに報酬がついてくるといえます。

今、地域によってバラバラに活動している医療通訳が
何らかの形で意見を述べていくための枠組みでもあるのかなと感じます。



医療通訳に「なる」と「する」の違いについて

2015-01-05 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
新しい年になりました。
皆さんいかが過ごされましたか?

私は老親訪問や墓参り、買い物などであっという間に時間が過ぎました。
また、時間があればずっと読みたいと思っていた漫画「進撃の巨人」を
全巻読みました。

面白かった~。

**********************

医療通訳の制度化に向けての活動をしていると、
いろんな人から声をかかります。

その人が信用できるかどうかは、
その人の見ている「医療通訳」に患者さんが映っているかどうかだと思っています。
「医療通訳をなんとかしたい」の動機に、
「外国人患者さんの力になりたい」という思いがなければ、
「自分の仕事」としての興味だけになります。

でも医療通訳は、確立した職業になっているわけでもありません。

「医療通訳になりたいんです」という人がいます。
ですが「どうやったらなれますか」という質問には全く答えられません。

私は医療通訳は「なる」ものではないと思っています。
言葉ができる人で、外国人を支援したいと思っている人ならば
どこかで接点があったり、頼まれたりして
おのずと医療通訳にはかかわらざるを得ない状況になるはずです。
もしくはその思いが強くなって、研修等に参加していくと思います。
まったくそうした状況にないのであれば
まずは外国人支援のボランティアをしたり、通訳支援をしてみてはいかがでしょうか。
少なくとも身近な外国人の方々の状況を知ることが大切です。

医療通訳になる方法はわかりませんが、
医療通訳をする方法なら身近にたくさんあるはずです。





病気は病気だけではない

2014-12-15 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
通訳仲間のAさんが愚痴っていました。
「病院の通訳をしていて、地域福祉との交渉が必要になり、
その通訳をしていたら、もう病院と関係ないから通訳をやってはダメと言われた」

Bさんも愚痴っていました。
「学校で日本語支援をしていたら、
どうも精神的につらいみたいだから、病院についていこうとしたらダメといわれた」

医療通訳をやっていて痛感するのは、
「病気は病気だけではない」ということです。

ある学生に
「医療通訳は病気を治せますか」と言われました。

医療通訳は病気を治せません。
でも、治療の周辺環境を整えたり、ストレスを軽減したり、
患者や家族が治療に積極的になるように状況を整えるには
医療通訳が必要です。

特に、DV被害者や虐待の被害者、交通事故や犯罪被害者、
難病や終末期、介護の必要な病気、障害をもつ患者、
そしてその家族には病気は病院だけで終わるものではありません。

通訳者としてはなだらかに線として続く通訳支援に線引きはありません。
ただ、まず基本となる治療現場での通訳すらきちんと確保できていないのであれば
まずはそこから動き始めなければなりません。

どんな田舎にいても、
その町に一人しかいなくても、
少数言語であっても、
医療現場での最低限の通訳支援が行えるように。

制度化を絵に描いた餅にしないように。
すでに制度化への動きは始まっています。



ベストよりベターを目指して

2014-12-08 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
急に寒くなったので、体調を崩している人が多いようですね。

私も11月はずっと風邪をひいていました。
綾瀬はるかさんに「あなたの風邪はどこから?」といわれると
私は「鼻と喉から」と即答できます。
夏場にガソリンスタンドでもらっていた景品ティッシュの箱が
どんどん消費されていきました。

12月になって寒さに慣れたのか
やっと落ち着きました。
仕事をしながら風邪を治そうとしたので、
11月中に「今しなくてもいいことは後でする」という(いつもの)悪癖がでて
12月にそのツケが回ってきています。
あ~ごめんなさい。
ご迷惑をおかけした方々すみません。

11月は医療通訳の依頼が多かった気がします。
私は仕事(スペイン語相談員)の中での電話通訳依頼が多いのですが、
病院に行く途中、もしくは受付をすませてから、
「今から診察室に入るから、また電話するから通訳して」という依頼がはいり、
何分か後に電話がはいります。
総合病院のこともありますし、小さな近所のクリニックや歯医者さん、
保健所の1歳半検診会場や薬局などからの電話もあります。
最近は「日本語に通じない人には医療通訳が必要」という認識が
じわじわ広がってきていて、
電話での通訳を嫌がる先生は少なくなってきました。
逆に通訳しやすいように話してくれたり、
診察室で外国人患者にも優しく対応してくれている様子が電話口からも伝わります。
「あんた誰」「ちょちょっと通訳して」と言われていた20年前とは違うなあと思います。
通訳場面はあいかわらず多いけれど、大きな違いは医療者の理解と協力です。

事前の電話の後に、出てきそうな単語を調べたり、
知らない病気などに関してはインターネットで調べたりして、
診察室からの電話に備えます。

診察室からかかってこないときは逆に心配です。
難しい言葉が出てこなくて、通訳に電話するほどではなかったとか
検査だけでコミュニケーションの必要がなかったというならばいいのですが、

「電話通訳?だめだめ、時間がかかるから。子供でもいいから通訳連れてきて。」
「僕は英語できるから英語で話そう」(スペイン語圏の人には英語が苦手な人も少なくない)
「どこの誰かもわからない人に守秘義務のある話はできないよ」(本人が依頼しているのだけど)

・・・と言われていないかと心配になります。
病院が通訳者を雇用できれば一番いいですし、
なんらかの派遣制度があれば心強いですが、
それは大都市や集住地区でなければ難しいこと。
私の住む兵庫県は広く大きく外国人は散在しています。
電話での通訳はもちろん誰にとってもベストチョイスではありません。
でもまったくコミュニケーションがとれないよりは
ベターなチョイスであるし、慣れた通訳者が対応すればよりベストに近いものになります。
食わず嫌いせず、医療者の方々にもベターな選択肢を一緒に探してもらえればうれしいですね。

医療通訳協議会も最初からベストを目指さず、
ベターを積み重ねていきたいと考えています。




東京で講演を行います

2014-11-24 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
今週末、東京のさぽうと21さん主催の
第1回 理解を深める講座「多文化共生・・・医療通訳に何ができる?」で講演を行います。

東京を含め、関東でお話するのは初めてです。

すごく緊張していますが、
さぽうと21さんの活動場所であるアットホームな会場なので、
参加者の方々の顔もしっかり見えて双方向でお話ができる
環境なので、東京の空気感をしっかり学んできたいと思います。

なんと今回の講演では、さぽうと21の方から後半は好きな人と対談してもいいと言っていただきました。
関東在住であこがれの人、尊敬している人は何人かいますが、
できれば異業種格闘技で、いつもはあまり接点のない方で、
それでいて参加者の方々にも近い方でと考えて何名かあげさせてもらい、
大正大学の鵜川先生にお願いすることになりました。

鵜川先生は精神看護がご専門で、クリニックでのお仕事を持ちながら
女性、難民、在日外国人といったマイノリティの視点から研究をされています。
私自身、多文化間精神医学会でのご発表を聞くたびに毎回目からウロコの体験をします。
支援者がなんとなく感じていることをしっかり言語化してくれる貴重な研究者の方だと注目しています。

こうした形の対談にも気持ちよくご承諾いただきました。
当日は「在日外国人のこころと言葉」を医療通訳の立場から議論していきたいと思います。

緊張反面、新しい切り口での議論ができることにワクワクしています。
フロアも巻き込んでいきたいと思っていますので、
お時間のある方は入場無料ですので、是非ご参加くださいね。




教えてあげる

2014-11-17 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ある団体の方とお話していた時のこと、
「通訳者には私が教えてあげるから。あなたにも教えてあげる」と言われました。
この方は、医療通訳の団体の方。
でも通訳者でもなければ医療者でもない。
何を教えてくれるのだろうとその時は思いました。

ある病院の先生に医療通訳には何が大切かと聞いたら
「時間を守る。あいさつをする。報告をする。」と言われました。
その時は、ああそうなんですねと聞き流しましたが、
よく考えれば、それは社会人としての必要最低限。
きちんと通訳として稼働している人は
遅刻をしたり、きちんと仕事の報告ができない、
ましてや挨拶ができないとなると、そもそも次の仕事はきません。
特にフリーで働いている人はそれくらい競争に曝されています。

団体の方や病院の先生は
いったい、どれだけレベルの低い通訳者をイメージしているのだろうか、
それとも、そこにいる医療通訳者がレベルが低いのだろうかと
あきれてしまいました。

外国人相談の仕事をしていても、
「外国人」とつくと、レベルはある程度でいいと軽く考えられる風潮があります。
日本社会のオプションくらいの位置づけなのかもしれません。

プロとして稼働している人間にはそれが屈辱的であり、
医療通訳者のレベルは低くないということを言いたいし、
そんな見方をされる限り、バカバカしくてプロ通訳者は参入しません。

医療通訳のレベルが上がらないのは、
高いレベルを求めないからだと思います。
低いレベルでなあなあでやれる仕事なら誰でもやれるから
わざわざチャレンジなんかしない。

話はかわりますが、
今年の看護師の国家試験に医療通訳の問題がでました。

2014年度(第103回)版 看護師国家試験 過去問題

79 外国人の女性が38.5℃の発熱のある生後3か月の男児を連れて小児科診療所を受診した。
男児は上気道炎であった。女性は日本語が十分に話せず,持参した母子健康手帳から,
男児はこの女性と日本人男性との間に生まれた子どもであることが分かった。
夫は同居していない様子である。外来看護師は女性に,4か月児健康診査のことを知っているかを尋ねたが,
女性は看護師の質問を理解できない様子であった。
男児が4か月児健康診査を受診するために必要な社会資源で優先度が高いのはどれか。

1. 近所の病院
2. 通訳のボランティア
3. 児童相談所の児童福祉司
4. 地区担当の母子健康推進員

答えは2だそうです。
ボランティアを社会資源と位置づけるには医療通訳の責任は重すぎます。
せめて正解を「医療通訳者」とするように
私たちも動いていかなければいけないと思っています。