MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

その背景にあるものを知る

2019-09-13 01:58:09 | 通訳者のつぶやき
全国医療通訳者協会(NAMI)ができてからは
私自身、医療通訳者の立場で発言することは少なくなってきました。
正直なところ、私の通訳技術はアドホックで
もっと通訳者として技術を持った人たちが医療通訳に参入し
声をあげてくれるまでのつなぎだと思い活動を続けてきたこともあります。
「医療通訳」がいろんな人に知られる「言葉」になり、
日本社会の中で進化していくことに、喜びを感じています。

ですので最近は、看護職や福祉職、行政職の方々との仕事が増えています。

ですが、制度が始まったばかりの地方都市では、
まだコミュニティ通訳研修をさせてもらったりもしています。
また、以前から行っている大阪大学の医療通訳養成コースには出講しています。

はじめの頃は、現場を持つ人や外国人支援を行っている人たちが多く
在留資格や制度の違いなどの話が比較的理解してもらいやすかったのですが、
最近は、言語から医療通訳に参入する方が増えていて
専門用語や通訳技術への興味から入る人たちが増えたなあと思います。
それは悪いことではありません。
むしろ、高い通訳技術を持つ人たちが、医療分野に興味を示してくれることこそ
私たちがずっと期待していたところです。

ただ、医療通訳は「通訳技術」だけではなく
「対人援助」の仕事でもあります。

対象者である外国人の背景にあるもの、
社会情勢や制度の違い、医療機関への壁といったことに
気づくことができるのは、患者と同じ言葉を話す通訳者です。
医療通訳者には、通訳技術とともに
まず患者自身を知って欲しいと思っています。

日本に住んでいる外国人の人たちは英語が母語の人たちですか。
外国人患者が治療費のことをとても気にするのは何故ですか。
在留資格ってなんですか。
難民の人はなぜ日本にいるんですか。
在留資格のない外国人はなぜ日本にいるのですか。
訪日外国人の人たちの医療には言葉以外にどんな困難がありますか。

医療通訳者が「患者と家族」を理解できていないと
治療現場で起こる様々なコミュニケーションの問題を理解できないことがあります。

医療通訳者にも是非「日本における外国人の社会背景」や「来日の経緯」
「母国の社会補償制度」などにも興味を持ってもらい、
その中で患者と家族の個別性を理解してもらえればと思っています。。



デジャブ

2019-09-03 21:48:55 | 通訳者のつぶやき
私は90年代からスペイン語の生活相談員をしています。

相談員を始めたのは
入管法改正で南米から日系人がたくさん出稼ぎにきた頃です。

日系人でも3世ともなれば
祖父の顔をしらない、日本語を話したことがないという人もたくさんいて
言葉が通じない、たくさんの借金を抱えて来日する、劣悪な労働現場でした。

そして最初の頃にうけた相談のほとんどが、
「在留資格」と「労働関係」でした。

医療では「労災」と「結核」で
指や腕が落ちたケースは覚えていないほどたくさんありました。
「たこ部屋」と呼ばれる劣悪な生活環境の中で
結核を発症するケースも後をたちませんでした。
それくらい過酷な現場でした。
今に比べて支援者も少なかった。

だから、日本人はあまり気づいていなかったと思いますが
当時から、外国人労働者の境遇は厳しいものでした。

あれから四半世紀が立ちました。
途中、ゆるい景気回復やリーマンショックがあり
経済が動くたびに、外国人労働者は景気の調整弁となってきました。
それでも、日本に住んで働こうと残ってくれている人たちがいました。

でもなぜだろう、ここ数年、私が仕事をはじめた当時のことが鮮明に蘇ってきます。
いや、それ以上に当時よりも劣悪な形で外国人労働者が切り捨てられています。

一時は少しおさまっていた労災隠しや賃金未払いが
再び目立つようになってきました。
陰湿ないじめや劣悪な労働環境も
当時と違うのは日本人労働者にも余裕がなくなっているということです。

私は相談員なので
これからのことより、今いる人たちを日本社会の中で守りたいと思って仕事をしていますが、
制度の整わない中で、もっと外国人労働者を増やして
きちんと社会的包摂の中で一緒に生きていけるのか、正直なところ自信がありません。

そんな中で、今考えているのは
外国人支援を、言葉ができる人や国際交流団体だけに任せるのではなく
みんなで考えていこうということです。
医療であれば、通訳者だけでなく
医療者や福祉職、行政、地域の人たち、みんなに現状を知って欲しい。
周りにいる誰もが外国人住民の支援者になってもらえるように。
また、私たちも外国人住民から吸収できるように。