MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

業務独占と名称独占

2019-04-23 01:50:44 | 通訳者のつぶやき
大きく分けて資格には2種類あります。

業務独占と名称独占です。

業務独占は
医師や看護師のように
その資格を持っていなければ仕事ができない。
資格のない人が仕事をすると
「医師法」などの法律違反になります。

逆に名称独占は
その名前は勝手に使ってはいけないけれど
その資格がなくても仕事ができる。
(法律違反にならない)
資格は能力をはかるものとして使われることが多いです。
社会福祉士も名称独占ですが
募集の際には資格を持つ人に限定したり
社会福祉士がやらなければ診療報酬にならない業務などもあります。

医療通訳の資格は、その名前は勝手に使ってはいけないけれど
その資格がなくても仕事ができるような、名称独占の資格になるだろうと思います。
その名称を持っていなければ仕事ができないというものにすると
資格対象となっていない言語の通訳者や
読み書きが苦手で試験をパスできない通訳者は仕事ができなくなってしまいます。
また、家族や友人といった通訳者しか見つからない地域では
そうした人が通訳することが違法になると診療ができません。

資格は名称により基本的な能力を担保し
学会などで新しい知識と技術をプラスし、技能を更新し続けるといった
2つの側面がなければ、時代遅れになっていきます。
従来のような、一度とればOKという資格ではなく、更新制であることも重要です。

また、医療通訳者には適材適所があり
基本的な通訳技術はもちろんですが
気配りできる人や院内でコーディネートできる人、医療知識のある人、
コミュニティで信頼されている人、社会保障に詳しい人など
場所によって必要とされる人材も違ってきます。
医療現場にほしい人が必ずしも資格をもっているとは限りません。
資格はあくまでもスタートライン。
医療通訳という仕事は奥深く、分野によっての違いがあってもいいと思います。

医療通訳よりも職業として認められている
刑事法廷の司法通訳人には、まだ公的な資格制度はありません。
各地方裁判所に登録されているということが稼働の基礎になっています。

どんな医療通訳者になりたいかで
医療通訳者が資格を選ぶ時代になると思います。
やみくもに資格を並べるのではなく
しっかり見極めて、本当に自分の武器となる資格がでてきたら是非チャレンジしてください。

助成金の季節

2019-04-09 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
今年も桜の季節とともに
昨年いただいた助成金の報告書作成の季節が来ました。

MEDINTでは昨年
AMDAひょうご
(公財)コープともしびボランティア振興財団
兵庫県いのちといきがいプロジェクト
の3団体の助成金をいただきました。
ひょうごボランタリー基金助成事業は申請中)

MEDINTを始めた2002年の講座は
関西で医療通訳の活動をされている方々に
無償で来ていただきました。
今考えるととても恥ずかしいことなのですが
会員もなく、立ち上げたばかりの団体に
皆さん気持ちよくご協力くださいました。
ただ、NGOの先輩に
「活動を継続したいなら、講師謝金はきちんと支払わないといけない。
そのお金を取ってくるのが、主宰者の仕事」と教えられました。
それから、シンポジウムや研修の講師をお願いする方には
有名・無名にかかわらず、同じ金額の謝金を用意するようにしています。
高額ではありませんが、私たちが頑張って出せる範囲内の金額です。
医師には安い金額なので断られることもあります。
その時はご縁がなかったと諦めます。
講座主宰者が努力してお金を工面することで、
主宰者の講座への本気度を示すことができると実感します。
なので助成金はMEDINTの命綱です。

善意で行っている医療通訳者には
ひとつでも多くのよい研修を受けてほしい。
でも、まだ職業として確立していない医療通訳者から
高額な会費や参加費をとることはできない。したくない。
結局は、助成金を申請して、その間を埋めることを続けています。

高額な医療通訳講座がたくさん出てきています。
儲かる通訳を目指す方には、それも先行投資であり、否定するものではありません。
でも、そうした雇用に結びついている人たちはまだ一握りで
他の仕事をしながら、医療通訳をやっている人がほとんどです。
そうした人たちに、ちゃんと医療通訳の研修を受けて、活動を続けてほしいと願っています。
MEDINTの講座は通訳者同士の横のつながりを作ることと
対人支援の場面での医療通訳のできる人材を育成していきたいというコンセプトで作っています。
無料だと真剣でない人たちも混ざって講座の質が落ちるので
年会費はそのぎりぎりのラインで設定しています。

助成金をいただくことのいいことは
申請書で事業の根拠を説明する機会を得ること、
報告書でその振り返りをすることですが、
実は助成団体から励ましの言葉をもらえるのが、本当に大きいです。
今年度いただいた3団体はお金だけでなく
講師の紹介や他団体との連携など様々な形でもご支援いただきました。

よい医療通訳者が必要だと思うなら
医療通訳者まかせにするのではなく
社会が責任をもって育てるべきだと思います。

私は「儲かるから」参入する医療通訳者を信頼しません。
「儲かるから」医師をやっている人を信頼できないのと同じです。
きれいごとかもしれませんが
まず患者の医療を守る意識があって
その成果としての報酬がでるという流れがあるべきです。
そのために通訳者を支援する組織として
MEDINTは今年度も活動を継続していきます。

新しい年度もよろしくお願いします。

医療通訳者は医療専門職でありたい

2019-04-01 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
MEDINTも新しい年度がはじまりました。
昨日、スタッフとともに今年度の活動方針を話し合いました。

最近の動向も含めて、医療通訳者がいかにあるべきかを
考える時期にきていると思います。

当たり前のことですが
医療通訳者は医療専門職を目指すべきだと思っています。
強みは通訳技術とともに、外国人患者の周辺理解ができることです。

そのために、医師や病院、雇用主の言いなりになるのではなく
自発性をもった医療通訳者を目指さなければならない。
時には、医師や雇用主と議論をするくらいの
対等な立場でなければ存在意義がありません。

タブレットで行えるような右から左の通訳作業は
すぐにAIに持っていかれます。
医療通訳者は外国人医療におけるコミュニケーションの専門職であり
院内調整や他職種との連携ができてこその
スペシャリストであると考えます。

たとえば薬剤師は医師の処方に従って薬を出しますが
決して言いなりになっているわけではありません。
ダブルチェックはもちろんのこと
副作用に関する説明や他の薬との飲み合わせ、
そうした専門知識を生かした専門家として存在しています。

医療通訳者にも
外国人医療の通訳だけでなく
医療における異文化への配慮や
外国人の日本における社会保障の現状、
医療にアクセスしづらい人たちへの配慮など
行うことがたくさんあります。

医療通訳者を育てるなら
単語をたくさん知っている人ではなく
こうした医療現場における配慮ができて
他の専門職の役割を理解し、協働できる人材でありたいとおもいます。

一昨年、MEDINTでは「母子保健通訳の育成」、
昨年「告知場面におけるサポートができる人材の育成」を行いました。
昨年は特に、患者会の代表やがん相談支援センター、クリニクラウンといった
患者をサポートをされている方々にお話を伺うことができました。
緩和ケアやがんといった医学知識だけでなく、
医療の周辺の学びも必要と考えています。