MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

11月巡業その1

2015-11-24 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
秋はシンポジウムやイベントの季節です。

毎年、この時期にはまとまって神戸を離れます。

金曜日の愛知県立大学の授業を終えて、
名古屋から東京へ移動。

まずは「実践医療通訳」の共同編者である連先生、阿部先生と一緒に
四谷のペルー料理屋さんで出版記念打ち上げです。
話の内容は外国人精神科医療の地域格差をどうするか。
阿部先生のクリニックでは、スペイン語、ポルトガル語、英語の対応は可能ですが、
診断がついた人が地元に戻るときに受け入れ可能な精神科があまりにも少ない実情について話しました。
精神科医療は医療通訳にとっても難しい診療科です。
できれば言語のできる医師が直接診療してくださればよいのですが、
英語以外の言語は非常に難しいのが現状です。
また、精神科医療は福祉とのつながりも強いために
他の診療科とは切り離して議論をしたほうがいいのではないかとも思いました。

次の日は、初めて群馬県の大泉町へ。
医療通訳の活動を始めた頃から応援してくれている友人が
案内してくれました。
町の中心にあるスーパーはまるで南米に紛れ込んだように
クリスマスのパン(パネトーネ)とgarotoのチョコレート、
ポンジケージョにブラジルのソーセージまで、懐かしい食品がたくさん。
また、買い物をしている人たちも売っている人たちも皆南米っぽい人たちで、
とても居心地がいいなあと感じました。
また、今回のお目当ては 孤独のグルメに出てきたブラジルシュラスコのお店です。
この町で生き残っているブラジル料理なのでおいしくないわけがない!!
予想どおり、とてもおいしかったです。

日曜日は、群馬の医療・言語を考える会の主催するシンポジウムに参加しました。
主催者のHさんは、とにかく今医療通訳分野で一番熱量が高い人です。
一生懸命、医療通訳のことを考えて動いているので、
彼女の周りに自然といろんな人たちが集まってきます。
私もその一人にしてもらえて、久しぶりに活動を始めた頃を思い出しました。
群馬県は今まで不思議なところだなあと思っていました。
太田、大泉のような集住地区があり、外国人受け入れに関しては先進的な取り組みをしています。
人数が多いということは、コミュニティの中にも支援できる人がいたり、
外国人の存在がビジネスチャンスにもなるということです。
だから、わざわざ行政が手を出す必要もないのかなあと。
ただ、よく聞いてみると実情はいろいろと大変なことも多いようでした。
「何とかなっている」ように見えるのは
何とかしている人たちがいるというだけの問題で、
根本的には他の地域とかわらないということも実感しました。

何とかしている医療通訳者の人たちのご苦労は計り知れないものがあります。
ここにも、医療通訳の動けるシステムが必要なのだと思います。

月曜は明治神宮野球大会へ。
巡業後半はまた来週。



模擬患者(SP)の重要性

2015-11-10 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
看護学部や薬学部といったところで
未来の医療者に話をする機会が増えてきています。

テーマとしては
「外国人患者への接遇」
「外国人患者の社会的背景を知る」
「医療通訳の上手な使い方」
「医療現場におけるやさしい日本語」

学生の間にそうした基礎的な話を聞いているかいないかは
現場に出たときに違いが出てきます。

看護の場合は「国際看護」の中に1コマか2コマ組み込むことが多いです。

目的は
「外国患者人の顔を見て逃げない医療者を作る」
「外国人患者も日本人患者も配慮が必要ではあるが、接遇としては同じ」
「接遇のコツをつかむ」

もともと日本では、あまり日常的に通訳を使うことはありません。
知らないことはできないことでもあります。
また、知らない人と接するには知識が必要です。
手話通訳は毎日テレビで見ることがあり結構身近な存在かもしれませんが、
外国語のコミュニティ通訳を自分で使う機会は
日常生活の中ではあまりないと思います。
だから、私はすべての専門職の方には
現場に出る前に、こうしたトレーニングを1時間でもいいから受けて欲しいと願っています。

その際にお世話になるのが
当事者である模擬患者(SP)役をしてくださる外国人です。

先日も、神戸市看護大学で模擬患者を使った研修を行いました。
外国人患者は日本に来て日が浅く日本語でのコミュニケーションは基礎程度の設定です。
学生たちはチームで、やさしい日本語、ジェスチャー、図形、数字などを駆使して
コミュニケーションをとろうと奮闘します。
その過程が大きな学びになります。

また、英語ではない通訳を使ってコミュニケーションをとる練習もします。
上手に通訳を使えば、自分の言葉が患者に伝わり
患者の言葉が理解できるようになる不思議な体験をします。
タイムラグのある「人工衛星」からの言葉を聴いているみたいだといいます。

そして、日本に滞在する外国人患者と家族の
「言葉」「制度」「文化」の違いや背景を理解し、
特別扱いする必要はないけれど
配慮が必要であることを説明します。

でも、一番学生の心に残り、響くのは
模擬患者さんが語ってくれる医療機関で苦労した体験談です。
心細かった出産体験や言葉がわからず大変だった手術など
医療者としては想像がつきにくいことも語られます。

手話通訳の方とお話したとき
「私たちの先生はろう者」とおっしゃっていたのが印象的でした。
本来、外国人医療の先生は当事者である外国人であるべきだと思っています。
そして、学生は外国人患者から学べる機会をもつべきです。

これからは外国人模擬通訳者(SP)の育成が必要だと考えています。