MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

空気が変わった

2019-06-05 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳だけでなく、支援者として場に参加していると
時々「空気が変わる」瞬間に出会うことがあります。

2月、社会福祉士会の近畿ブロック会議が神戸で開催されました。
そこで分科会4の兵庫県社会福祉士会が担当する「やさしい日本語」をコーディネートしました。

医療通訳の活動をしていますが
患者は治療が終わったから元の生活に戻るわけではありません。
患者と家族を取り巻く障害や生活支援、お金の問題など
福祉との連携は必須となります。

私自身、兵庫県社会福祉士会の一員として活動する中で
日本にいる外国人クライアントが、日本の社会保障をきちんと使えているかが
とても気になっています。
と同時に、社会福祉士が在留外国人の困りごとに
どのくらいかかわっているのかということもとても気になるのです。

そこで、分科会では近畿2府4県の士会の会員を対象に
外国人クライアントをとりまく現状と
やさしい日本語を使ったコミュニケーションのワークを行いました。

今回のワークで興味深かったのは
フィリピン人とペルー人の模擬クライアント(日常会話レベル)に参加してもらい
実際に彼らからアセスメントをとる練習をしたことです。

あるグループは
「何らかの事情で家出して公園で寝泊まりしている60代女性」の聞き取りをしました。
「何語ですか」「スペイン語」「ああ、スペイン人」(言語と国籍は一致しない)からはじまり
「おなかすいてますか?」を聞くのにもジェスチャーゲームのようになります。
模擬患者役はなかなかすすまない聞き取りに、不安そうな表情をしはじめました。

そこで、あるベテランワーカーが
彼女の正面に座って、じっと目を見て「わたしはあなたの友達です」と言いました。
参加者は驚きに包まれます。
ワーカーとクライアントの間にはバウンダリー(境界線)が必要であり
あくまでも専門職として対応するためには「友達」は禁句です。
「友達」というと「じゃあお金貸して」とか「保証人になって」とか
「家に泊めて」となるかもしれません。

でも、ここで空気が変わりました
そこから、クライアント役の人が聞き取りを行っている人たちに打ち解けるようになったのです。
そういえば、私も医療通訳を始めたころ、役割なんて言わないで
友達として接していたことを思い出しました。
その頃に接した患者さんたちのことはとてもよく覚えています。

経験を積めば、専門職として言ってはいけないこと、やってはいけないことを学びます。
倫理や行動規範の中には私たちを守る言葉がたくさん入っています。

でも、時にこうした空気を変わる瞬間を感じると
なにが正解なのかがわからなくなるのです。

がむしゃらに支援をしていたころが懐かしくなります。
でも、がむしゃらな支援は専門職として行うものではありません。
普通の人ならいつかバーンアウトしてしまう。
(中にはまったくバーンアウトしないすごい人もいますが)

何年やっても支援者の態度に正解はないのだと思った出来事でした。

コメント
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