MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

ひとりでも100人でも

2013-09-30 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
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初版が売り切れて書店で品切れになっていた「医療通訳入門」の増刷ができました。
今お取り寄せいただくと“第2版”をお届けできる体制になっています。
医療通訳入門をまだご覧でない方は是非この機会にどうぞ。
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さて、標題の「ひとりでも100人でも」のお話です。

医療通訳の制度化に向けての活動をしていると
特に行政の方から「費用対効果」の話をされます。
集住地区なら具体的に1日に100人の患者が見込まれて
1名の通訳者を配置することの根拠になります。
100人の日本語のできない患者さんがいるとしたら
医療現場の混乱は予想されるでしょうし、
1人もしくは数名の通訳者が病院に配置されることで
患者さんへのサービスも向上します。
比較的、同意を得やすい施策ですし、議会も通りやすいし、予算もつきやすいでしょう。

そんなとき、2006年の移住連札幌大会で出会った
A市の通訳さんのことを思い出しました。
当時、A市には中国人は100人くらいしかいませんでした。
100人しかいないし、留学生や研修生など比較的若い人が多いので、
病院に通訳が必要であるということがなかなか理解してもらえない。
もちろん、常時通訳を配置するだけの件数は見込めません。
でも、出産や重い病気になったとき、精神疾患になったとき本当に大変です。
彼女はそんな同胞のためにいつも一人で走り回っていました。

実はそういう地域が一番困っているのだと痛感します。

ひとりでも困っている患者は患者です。
その人がたったひとりでその地域で暮らしていたとしても
病気になるのは、たくさん住んでいる地域の人と同じです。

もちろん、日本社会の中で暮らしているので、
この患者さんを助けてくれる人たちもいるとは思います。
でも、そのひとが医療通訳をするほどの日本語力や外国語力がなかったら?
その人に言いたくないプライベートな内容の病気だったら?
そもそも助けてくれる人などいない地域だったら?
病気になるということは元気な時よりも弱気になるし心細い。
自分の身体のことだからちゃんと理解しておきたい。

外国人が少ない地域で医療通訳を制度化するためには
件数が少ないということを考慮する必要があります。
電話通訳やTV電話の導入なども検討しなければならないし、
市町村単位でなく、都道府県、もしくは広域連合で考えてもいいかもしれません。
そして、なによりも医療者の方々に外国人医療について
理解をしてもらうことが大切です。
外国人患者の味方を地域にたくさん作ることです。

当たり前のことだけど、
ひとりでも100人でも患者は患者。
ひとりの患者に目を向けなければ100人の患者は見えないと思います。
難しいけれど、散在(点在)地区の皆さん頑張りましょう。
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宮崎県に行ってきました

2013-09-23 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
先週末宮崎県に行ってきました。

宮崎県といえば、田中幸雄日本ハム2軍打撃コーチの出身地であり、
春季キャンプも開催される野球の聖地です

ただ、今回の目的は野球じゃなくて「医療従事者のための多文化講座」です。

自治体国際化協会では自治体や地域国際化協会などに講師を派遣する
地域国際化アドバイザー派遣事業を実施しています。
その一環というかで派遣されたわけです。
けっして野球を見に行ったのでも「もも焼き」や「チキン南蛮」を食べに行ったわけでもありません。

看護大学の国際看護や薬学部のコミュニティファーマシーといった分野で
外国人医療について話をされる機会はありますが
現役の医療者対象の外国人医療の理解に関する講座はまだ少ないのが現状です。

医療通訳が仕事をしやすい環境を作るには
医療従事者の方々の理解が必要であり、そうした活動も同時にしていかなければいけないと痛感します。
一緒に外国人医療に関心を持ってくれる医療者仲間を増やしていくことがこれからの課題なのです。

宮崎県国際交流協会では、
医療従事者向けの英語講座を開催するなど、
以前から熱心に医療従事者に向けての情報発信を行っています。
そして今回は「外国人医療の基礎」の話をするのが目的です。

今まで、東海地方の集住都市や
関西などの比較的外国人住民が昔から身近に住んでいる地域で
話をする機会が多かったのですが、
実際に宮崎県の外国人統計を見ると随分違うなあと驚きました。
中国籍の人が45%をしめており、韓国朝鮮籍、フィリピン籍と続きますが、
インドネシアの人が8%と他の地域と比べて多いと感じます。
逆に中南米のブラジル、ペルーの人は他の地域と比べて少ないようです。
また、在留資格別にみると技能実習が31%と突出しています。

地域によって、
外国人の在留年数や暮らし方、日本社会との関わり方は違います。
言葉の問題だけでなく、医療の質や形も違ってくると思います。

県域も広く、外国人の数も多いとは言えない地域では、
優秀な医療通訳者を配置する、派遣することは簡単ではありません。
まず、医療従事者自身がわかりやすい日本語での会話を心がけることと、
外国語の問診票や翻訳文などのツールを活用することなど、
できることからやってもらえればよいと思いますし、
在留資格や在留の背景、使える社会福祉制度などについての基礎知識や
異文化に関する理解、本人が連れてくる通訳の使い方なども知っておくだけで
随分、対応が違ってくると思います。

宮崎県の方々の熱心さに圧倒された一日でした。
地域には地域のやり方と手法があり
やはり、その地域にあった方法は地域の方が決めて実行するのが一番いい。
各地でこうした取り組みがどんどん広がればいいなと思いました。

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夏休み

2013-09-16 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
堺市国際ボランティア通訳の研修会に参加して、
やっと一息。
週末も入れた休みが取れたので、ひとりで沖縄の八重山諸島に行ってきました。

「関西からの観光客が増えてますね」と言われる通り
関空からはピーチ、神戸空港からはスカイマークなどのLCCが直行便を飛ばしていて、
「貧乏だけど離島好き」にとっては以前に比べて手軽に行ける場所になりました。

ピカピカの新石垣空港に着いたら、そのままバスに乗って離島ターミナルに。
今回目指すは「黒島」です。
人口200人、周囲12キロほどの小さな平坦な島で、
牛がたくさんいて、孔雀がうろうろしてて、ヤギがそのへんで草食べてる。
海はラムネ色で夜は真っ暗で星はたくさん瞬いて天の川もくっきり。
毎日夕日を見て、ヤギに話しかけていました。

朝日みて、ご飯食べて、シュノーケルして、ご飯食べて、
自転車で島を3周して、お茶飲んで、夕日見て、ご飯食べて、星空を見て、酒飲んで寝る。
と、いうようなことをして過ごしていました。

天国のようなところだなあ。帰りたくないなあ。

リハビリのために早めに石垣島に帰ってきたけれど2時間で飽きてしまい、
今度は日帰りで「波照間島」へ。
ひたすら晴天の中、サトウキビ畑のあいだを自転車漕いでまわったために
鼻の頭の皮がめくれ、足はやけどのように腫れあがり、無残な姿となりました。
最初は長袖長ズボン、ばっちり日焼け止めだったのですが、
途中でどうでもよくなりました~。

次は、与那国島に行こうと心に誓い、
その前にちゃんと仕事しよう。

今週末は仕事で宮崎県に行きます。
日曜日はMEDINTの言語分科会ですよ。







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虫歯の通訳

2013-09-09 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳は診療科別にはなっていないため、
基本的には内科も外科も小児科も精神科も皮膚科もやります。
HIVも末期がんもアルコール依存もやります。
時々守備範囲の広さにため息がでます。
毎回勉強なので、きりがないなあと思います。

子供の予防接種や健康診断の結果説明などは
比較的件数が多いので慣れますが、
他の病気はその都度が勉強ですね。

先日、歯医者の通訳をしました。
歯科は「痛い?」とか「口開けて」とか基本的な言葉が多いので
あまり通訳を頼まれることがありませんでしたし、
口を開けた状態で通訳というのもあまりないので、
本当に久しぶりの依頼です。

結局、かぶせるものを保険範囲内のものにするか、
それともセラミックのもの(2段階)にするかという説明でした。
本人は保険適応は嫌だけど、セラミックは高くて払えないということで、
国に帰るまで仮の蓋をしておいて欲しいということで話は終わりました。
特別な説明はないですが、使い慣れない言葉が多いので、
いつもよりも少し緊張しました。

私もちょうど10年ぶりに歯医者通いをしているところなのですが、
歯科診療は年々進んでいるなあと思います。
でも中南米から帰ってきた人に聞くと中南米の歯科診療のレベルは結構高いとのこと。
応急処置だけ日本でやって、あとは母国で治すという選択肢もありですね。

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明日から夏休みで南の島に行きます。
シュノーケルと山羊に会う一人旅。
リフレッシュしてきます!

コメント (2)
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貞淑な醜女になるべきか否か

2013-09-02 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
米原 万里さんの名著
「不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か」の中に表題にもなっている逸話がでてきます。

通訳には「不実な美女」(つまり正確な訳ではないが日本語として響きが良い)と
「貞淑な醜女」(美しくはないが内容が正確に反映されている)があり使い分けていると。

米原さんはロシア語の同時通訳者だけど、
在住外国人支援のコミュニティ通訳はどうなのでしょう。

そういえば、10年ほど前、
助産師で昔から医療通訳の活動をしているKさんと
「通訳技術に優れているが、接遇技術にかける通訳者」と
「気働きができて、対人援助技術は抜群なんだけど通訳技術はそこそこの通訳者」と
どちらがいいだろうと議論したことがあります。

Kさんは即答で前者だと答えました。
接遇は訓練でなんとかなるけど、通訳技術は簡単には身につかない。
なるほどなあと思いました。

外国人支援の現場では、後者の通訳者に人気があります。
通訳技術はほどほどでも、優しくて気働きのできる通訳者。
ユーザーにとって携帯を教えてくれたり
時間をあわせてくれる都合のいい通訳者も人気があったり。
通訳技術より、横にいて手を握ってくれる通訳者がいいという人もいます。
そんな世界にどっぷりつかっていると、
通訳技術はまあまあだけど・・という通訳者が出来上がっていきます。

「両方できるのが一番いい。」

もちろん、そうなのですが、
在日外国人の人たちの在日年数が伸びで
日本語能力が進んでくるにしたがって、
まあまあの通訳者は「通訳」としては駆逐されていく運命にあります。
それに変わって外国人の診療支援をできるコンシェルジュのような人が
必要になってくるのかもしれません。
それは分けて医療通訳と分けて考えなければなりませんね。


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