MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

相談と通訳の違い

2008-06-25 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
お久しぶりです。
最近、いろんなところでお話したり、座長などをさせていただく機会が増えてきました。
医療通訳や外国人支援の現状を知っていただくにはとてもいいことなのですが、
日頃しゃべりなれていないので、かなりのストレスがたまります。
そんな中、唯一(!)の楽しみが、家で見るプロ野球(スカパーに入っているので全試合OK)です。
なんか、おじさんくさいなあと思うのですが、
テレビの前で阪神戦を見ていた父親の気持ちが少しだけわかるような気がします(笑)。
ただ、今週は交流戦からリーグ戦に変わる移行期で、野球がありません。
つまんないなあと思いながらなんとかだましだまし・・・がんばってマス。

ところで、
話をしていて、時々聞いている方に指摘されることがあるのですが、
私の話の中には「相談」と「通訳」が混在しています。
どちらも自分の仕事で、どちらも同じようにこなしているのですが、
仕事の内容はぜんぜん違います。
だからいちいち、このケースは「相談」、
このケースは「通訳」と頭を切り替えながら仕事しています。

具体的にいえば、相談はスペイン語で聞いたことを、スペイン語で返しています。
厳格に日本語に翻訳はしていません。
大筋をつかんで、回答について考えながら話を聞いています。
日常のおしゃべりを考えてもらえばいいのですが、
皆さんが日本語で話すとき、言葉自身を考えるのではなく、何を話すかを考えながら話しているでしょう。
言葉を選ぶときも、自分の好きな表現や言葉を選んで話しています。
それは自分自身の言葉で答えるからです。

一方、通訳はまったく違います。
聴いた言葉をいちいち日本語変換、スペイン語変換しています。
というよりは言葉を変換することに集中していて、自分自身の考えは入る余地がありません。
自分の言葉でなく、人の言葉を話すのですから、
自分の日常使わない単語などもでてきますが、それを頭の引き出しの中から探しながら訳していきます。

相談なら1時間でも2時間でも聞いていられます。
でも通訳は30分が限界です。
体力も相談より通訳のほうが使います。
頭の中は言葉を探してフル回転しています。

たぶん、看護師で医療通訳やっている人は、現場で「看護師」が話しているのか、「通訳者」が話しているのか混乱することがあるのではないでしょうか。
私も相談窓口では無意識ですが、まずどちらの作業なのかを分類することからはじめます。

一番困るのは、途中で「相談」→「通訳」もしくは「通訳」→「相談」と切り替えられてしまうことです。
たとえば、ずっと通訳してきて急に「じゃ、後は説明しておいて」と言われたり、
相談でダイレクトに聴いていた言葉を「今いったことを日本語に訳してみて」といわれると、とても困ります。
「モード」が違うからです。

通訳は「いたこ」モードです。
そこには私という人格はいないと理解してもらえばわかりやすいでしょうか(笑)
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通訳の立ち位置

2008-06-18 15:48:44 | 通訳者のつぶやき
14日(土)、りんくう総合医療センターで第2回りんくう国際医療フォーラムが開催されました。

りんくう総合医療センターは、国際外来を設置し、医療通訳をいちはやく導入している病院です。実践に裏付けられた場所だけに医療通訳者としても学ぶことの多いシンポジウムでした。
私は第2会場の座長を務めたのですが、参加者の熱気が、第1会場だけでなく第2会場でも十分伝わってきました。外国人医療に関しての関心の高さがうかがえます。

基調講演者のひとり、全米医療通訳協議会のシンディさんのお話は、これから日本で通訳者がどのように連帯し、何を築いていくべきかの指針を示してくれました。日本には日本のやり方があるということに理解を示しながら、アメリカでも医療通訳の活動を根付かせていくために、とても大きなエネルギーが必要であったことを知り、勇気づけられました。
また、事務所なし、専従職員なしで主にネットを使ってやっているというところは、MEDINTと一緒だ~とうれしくなりました(笑)

話は変わりますが、こうしたシンポジウムがあると、いつも議論になるのが通訳者の立ち位置です。今回のシンポジウムでは英語とスペイン語の通訳デモンストレーションが行われたのですが、二つの言語の間で通訳者の立ち位置や振る舞い、何よりも通訳者と患者の「距離感」が違っていたことが議論になりました。
たぶん、見た目もきれい(!)でプロっぽく見えたのは圧倒的に英語でした。この通訳者の方は、通訳者としての訓練も受けており、通訳技法も身につけていると思います。教科書的には正解です。
でも、スペイン語通訳者の立場から見ると、現場での正解はスペイン語通訳者の振る舞いかなと思うところもあるのです。
実際にスペイン語話者の方は通訳者の扱いに慣れていないし、病院受診にも慣れていない方が多いのです。だから、通訳者が視界から離れるととても不安に思うし、人間的に冷たいと感じてしまうことが少なくありません。私たちの仕事は、受診時のコミュニケーションを円滑にすることです。そこには正確な通訳はもちろんのことですが、患者さんのストレスを取り除くことやリラックスを促すことも入ってきます。通訳者が隣に座ることで患者がリラックスするならそれも「あり」だと思うのです。
会場からの意見で、スペイン語話者の方が、このスペイン語通訳の振る舞いについて共感を示す発言をされていました。
「正解」にとらわれすぎると、患者を見失うことがあります。
通訳者は常に現場で臨機応変な態度を必要とされるのです。
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子どもと国籍

2008-06-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
6月4日最高裁で外国人の子供の国籍について重要な判決がでました。

現在は、父親と母親が婚姻関係にない状態で生まれた子供は、出生前「胎児認知」することによって、出生時に日本国籍を取得するとしています。
また、出生後認知した子供は、そのまま日本国籍を取得することはできません。「準正」というのですが、その親が婚姻することでのみ遡っての日本国籍の取得が可能です。

でも、あなたは「胎児認知」を知っていますか?
または聞いたことがありますか?
まだ、生まれてもいない胎児を認知するなんて、なかなか想像しづらいですよね。
また、認めさえすれば「認知」なんていつでもいいだろう、できるだろうと、ほとんどの方は思っているようです。
確かに子供の「認知」はいつでもできます。
しかし、この「胎児認知」をするかどうかで、将来の子供の国籍や外国人母親の在留にも大きく関係するということは、あまり知られていません。

日本人父親が他に婚姻関係があるなど母親と結婚できない事情があるのは仕方ありません。
反面、子供の認知に関して不誠実で、手続きをしない父親も少なくないことも事実です。

しかし、この胎児認知をしていなければ、出生時に子供は日本国籍を取れません。
本当は父親と母親の両方の国籍を持つことができるはずなのに、父親側の国籍を取得することができないのです。

また、母親が何らかの事情でオーバーステイの場合も、生まれた子供が日本国籍ならば、手続きをして定住ビザの取得が可能なのです。

明らかに日本人父親の子供であり、同居までしているのに認知をしてもらっていない子供は実は少なくありません。
また、出生後認知では、日本国籍が取れないため、日本での在留資格を更新する必要があったり、日本国籍をとりたければ帰化という手続きを経なければいけなくなります。

以前にも書きましたが、医療通訳者にとって子供の誕生は一番のうれしいできごとです。その子供がたくさんの宝物(生きるうえでの選択肢)を持って生まれてきてほしいし、日本で暮らす上でのストレスはできるだけ取り除いてあげたいと願います。

今回の判決を勝ち取るまで、原告の母子たちや支援団体の方々は本当に一生懸命活動をされました。その粘り強さには頭が下がります。
と、同時に法律に書いてあるから・・・とすぐにあきらめてしまう私も含め多くの人たちに、この子供たちは訴え続ける大切さを教えてくれました。

この判決を受けて、一日も早く戸籍法が改正されること、少なくとも子供の福祉にのっとった運用が示されることをを願いします。



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シンポジウム終了しました

2008-06-04 15:51:46 | 通訳者のつぶやき
5月31日(土)に東京天王洲アイルで開催された
「第1回訪日外国人の医療と医療通訳を考えるシンポジウム」は、
おかげさまで大盛況のうちに幕を閉じました。

本当に人が集まるのか、東京なのに大丈夫かとかなり心配していたのですが、
そうした心配も杞憂に終わり、医療通訳者や医療関係者だけでなく、
各地方自治体の観光事業に携わる方々や旅行業界、損保業界、
通訳スクール、観光案内所など幅広い方々にお集まりいただきました。
また、国土交通省はじめ、厚生労働省、外務省のご後援をいただき、
各団体の方々にも力強いご支援をいただきました。
(ちょと政治家の演説みたいになりましたが、ほんとなのです。)

特にうれしかったのは、昔から在日外国人の医療支援をしている団体の方々が、
「医療通訳制度への突破口がほしいと思っていた」といって参加してくださったことです。
訪日外国人の問題は、在日外国人の問題と少し違いますが、
国籍や傾向、問題点などに関しては訪日外国人の医療問題のほうが焦点が絞りやすいと感じています。
だから、今この問題解決に取り組んでいます。

でも、私たちの軸足は今でも「心と体が弱ったときくらい、
すべての人が母語で医療を受けられる社会を作る」ことです。

訪日外国人の方々は、特に日本の制度や医療文化に不案内で、
友人もいないため心細い思いをされるのではないでしょうか。

その国の真価がとわれるのは、その訪日外国人が困ったり、病気になったり
したときに、どれだけ温かい援助を受けられたかということです。
私たちは訪日外国人の言葉と医療の問題を通じて、そうしたことを問われているような気がします。

燃え尽きたではないですが、
疲れで家では寝込んでいます。
1週間くらいしたらまた復活しようと思います(笑)。


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