MEDINT(医療通訳研究会)便り

医療通訳の制度化を目指す医療通訳研究会(MEDINT)のコラム
~みんなで 医療通訳者を増やし、守り、育てよう!~

儲かる外国人医療

2006-10-25 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
先週末、神戸で「神戸国際医療・保健研究会」が開催されました。神戸大学医学部保健学科の松尾教授の呼びかけで、神戸を中心とした地域で外国人医療に携わる医療従事者や福祉関係者、支援NGOなどが事例を出して、ネットワークを作ろうという試みです.私達通訳者の立場から、医療現場で外国人患者をどのようにみているか、受け入れにどのような困難があるのかを知るとてもいい機会になりました。
その中でも、東京のN病院の助産専門看護師さんからの報告は目からうろこでした。N病院は民間病院なので、当たり前のことですが収益性を重視しています。そこで、富裕層外国人への特別なサービスを展開する戦略をとっているそうです。特別なサービスのために用意された、たとえば多言語表示や多言語問診票などは、他の一般の患者にも活用できるし、いい効果があるといいます。
国際協力の現場では、トリックル・ダウン・セオリー(trickle-down theory 滴り落ち理論:富有層を優遇すると滴り落ちて貧困層も潤うと主張する経済理論)を手法に使うことがあります。すべてに有効な考え方ではありませんし、必ずしも利益が貧困層にいきわたっているかどうかといえばその効果は様々ではありますが、まさにその効果を狙ったものと考えられます。
誤解を恐れずいうならば、私も以前から外国人医療を慈善事業としてのみ議論していては、前に進まないと感じています。AMDA国際医療情報センターの小林先生はずっと前から、外国人患者を受け入れることが病院経営の阻害要因にならないという立場で実践されています。もちろん、支援者がかかわる外国人は、低所得層や留学生など経済的に困難な人々が多いことは事実です。それは彼らの能力の問題ではなく、移民1世や留学生が抱える構造的な問題であること、そして言語サポートや制度面でのサポートが必要なのは、圧倒的に彼等であることは理解しています。その上で、「儲かる外国人医療」というものが展開されないだろうかと夢のようなことを考えています。
たぶん、医療経営の専門家の方々にとってみれば笑止に値する話だとは思いますが、「儲かる外国人医療」のモデルケースを実践されているケースがあれば、外国人医療受け入れのひとつのヒントになるのではないかと切に感じています。
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インフォームドコンセントはどう訳す

2006-10-18 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
う~ん。頭が回らない・・・。
簡単な単語がでてこない~ってことありませんか?
通訳者にとって体調管理は重要です。頭が回らない状態では、いい訳語はでてきません。「心電図」とか「尿酸」とか基本的な単語を「あ~っ、あれ」みたいになってしまうと最悪です。もちろん、そんな時でも、辞書で確認したり、ありったけの単語で連想ゲームのように言葉をつなげて説明するのですが、訳し終わった後はもう自己嫌悪の塊みたいになってしまいます。
でも、そういう苦労した単語はその思い出とともに意外とその後も忘れないものなんです。

頭が回らない状態ではありませんが、あまりにも当たり前すぎて訳すことすら考えなかった単語というものがあります。
先日、講座の中でスペイン語の通訳者と「インフォームドコンセント」ってどう訳すんだっけという話になりました。
そういえば、インフォームドコンセント自身をスペイン語に訳したことはありませんでした。「consentimiento informado」という訳語はあるのですが、いわゆる「説明」にもう少し意味を含ませた言葉で、その文化的背景を理解する人でなければこの単語は有効ではないと思います。つまり、直訳の言葉はあってもそれがすべての文化圏の人に意味とともに伝わるとは限らないのです。
判決で「執行猶予」という言葉が出てきます。執行猶予の制度のない国の人は、この言葉にとても戸惑います。表情を見ていると「ああ、わかってないなあ」と思います。いつも説明をつけ加えたい気持ちになるのですが、裁判所には直訳の言葉で訳して本人が理解できないといえば、もう少し平易な言葉でいい直しをするので、そのまま訳してくださいといわれます。
もしかしたら、インフォームドコンセントという言葉もその運用に近いものがあるかもしれません。
でも良く考えたら、インフォームドコンセントという言葉を正確に理解している日本人自身もそんなに多くはないのではないかと思います。もう少し平易な表現が普及すればなあと、勉強不足を棚にあげて思ってしまう今日この頃です。
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治療の選択肢

2006-10-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
先週日曜日に医療通訳者向けの基礎講座が大阪でありました。
MEDINT講座の詳細については こちら からご覧ください。
前半は「マンモグラフィー・乳がん」についての講義でした。
私が女性だからかもしれませんが、乳がんの患者の通訳はよくやります。ただ、マンモグラフィーの検査通訳だったり、針生検の同意書だったり、放射線治療であったり、セカンドオピニオンや転移であったりとその患者に応じた通訳なので、今回の授業で乳がんの検診から治療までのすべての流れがわかりました。意外と医療通訳者は部分的な通訳を請け負うことが多く、全体の流れを知る機会がないので、こうした講義は貴重です。
授業の中で、乳がんは早期発見・早期治療での生存率が非常に高いことと同時に、治療の選択肢の多さが指摘されました。
治療の選択肢が多いということは、同時に患者が受け取る情報量も多いということを示します。もちろんインターネットが発達した現在、ネットで本国の母語情報を取り寄せる患者もたくさんいます。基本的にはこうした情報も有効なのですが、日本で可能な治療、また実際の診察をしている医師からの情報が何よりも大切です。
レントゲンも見ていない母国の医師のアドバイスに従ってしまい、日本の主治医に不信感を抱いて治療が手遅れになったケースがありました。あくまでも本人の選択でしたが、今でもどうすることが正しかったのか・・・心にひっかかっています。
本人がどのような治療を選択するかは、正しい情報を得ることで初めて実現します。医療通訳者はその情報を正確に患者に伝える役割をします。
治療の選択肢が多いことは患者にとっては喜ばしいことです。その選択肢と権利を最大限活かす為に医療通訳者もがんばりたいと思います。
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パターナリズムの弊害

2006-10-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
外国人支援の活動をしていて、時々目にするのが、当該外国人を「子ども扱い」している支援者です。
「日本のことは自分のほうがよく知っている」「まかせておけばいい」「病院に意見したり、逆らうと診てもらえなくなる」と本人に情報を渡さず、支援者が患者に替わってすべての判断をしてしまいます。
外国人の中には、親切にすべてやってくれる支援者が一番楽でいいという人もいます。自分で考えなくてもいいし、とにかくまかせておけば全部ちゃんとやってくれるからです。
でも、すべての人がそうではありません。

「パターナリズム」という言葉があります。
強い立場にあるものが、弱い立場にあるものに対して、後者の利益になるとして、その後者の意志に反してでも、その行動に介入・干渉することをいいます。
通常、親と子の関係や、医師と患者などの専門家と素人の関係、大きくは国家と国民の関係にみられるといわれています。
これが、時々外国人支援の現場で目に付くのです。ただ、間違ってはいけないのは、外国人は日本語ができない、もしくは完全ではないというだけで、精神的にも肉体的にも弱者というわけではありません。もちろん、社会制度的にはまだ弱者の部類になるかもしれませんが、それでも自己決定する気力も能力も持っています。
支援者と外国人の間で「強い」「弱い」という関係や「保護」の関係が発生するのは、本来ならおかしなことです。

こうした外国人患者の自己決定にどれだけ有効な情報を提供できるかを使命とすることが理解できるかが、医療通訳に必要な資質です。これは支援者にも同じことが言えます。
「手術します」と勝手に支援者が決めてしまえば、手術のメリットや危険性や副作用などを患者に説明する機会を失うことにもなりかねません。本人が希望している場合は別として、そうしたインフォームドコンセントをきちんと提供するために医療通訳者という専門家が存在します。


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