MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

医師法19条と医療通訳

2016-08-28 21:40:10 | 通訳者のつぶやき
関西と関東の外国人医療支援をしているグループで
外国人の医療と福祉のハンドブックの改訂版の準備をしています。

医療と福祉関連の外国人支援にかかわる法律や通達など
支援者に知っておいて欲しいことを、
専門のNGOや支援者が書いています。

その医療通訳に関する項目を担当するにあたって、
医療通訳を受ける権利に関する法律って何があるだろうと。

たとえば時々、セミナーなどで聞く医師法19条「応召義務」について
皆さんはどう思いますか?

第一九条 「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、
正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」

これを根拠に外国人の医療を拒んではいけないというがもいます。

でも、私はそれは違うと思います。

医師にのみ、外国人医療の負担を押し付けるのはどうなのか。

今まで、いろんなところで医療通訳を断る時、
「あなたが通訳をやらないならば診ませんよ」
「患者を殺すんですか」
と、言われてきました。
その時は一種の脅迫だよなあと思いました。
通訳できる人が、そこにいるのに通訳しないのは
医療通訳者としてどうなのか。

それと同じことを医師にいうことになるような気がするのです。

誰かが悪いというのは簡単です。
患者の擁護をして医療機関と喧嘩をすることもありました。
でも、それは誰のためにもならないのだということも知っています。

誰かだけの負担や義務から発生する事態は
どこかでほころびが起きるものです。
医療機関だけに「義務」として外国人の診療を押し付けるのは
現実的ではありません。

司法通訳のように
「国語に通じない者に陳述させる場合には,通訳人に通訳をさせなければならない」(刑事訴訟法175条)
という法律があれば、予算もつけて
司法通訳人の人たちは、この法律を根拠に通訳環境についての議論ができます。

でも、医療通訳はそもそも根拠となる法律がないところで議論しています。
法律がなくても、せめて通達があればなあと思うのです。

医療通訳セミナーが終わりました。
こうしたセミナーをやるたびに
医療通訳者は声をあげ、強くなってきているような気がします。
とても頼もしく、まぶしく、うれしく思います。

セミナーの中で
ブログを読んでくれているという方に何人かお会いしました。
本当にありがたいです。

たまにしか更新しないブログに
辛抱強く付き合ってくださりありがとうございます。

もうすこし更新頻度を上げて情報発信できるようにしたいなといつも思うのですが、
これからもおつきあいくださいね。
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コミュニティ通訳の中の医療通訳

2016-08-18 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ここ15年ほど、ずっと「医療通訳」のことを考えてきました。

でも、私の出発点は外国人支援と
スペイン語でのソーシャルワークで、
その中でも一番大変で言語的な社会資源が少ないのが「医療」分野だったので
「医療通訳」からはじめたのです。

あくまでも心の中では
まず「医療通訳」をと考えてきました。

また、私が「医療通訳」から始めたのは、
日本の担当省庁が医療、司法、行政、教育とそれぞれ分かれているからです。
いわゆる「縦割り」というやつです。

「コミュニティ通訳」のくくりで制度がつくれるのは、
オーストラリアのように「移民を支援する省庁がある」こと、
アメリカのように「移民に関する法律が作れること」が最低条件です。

日本には現在、「移民のため」の省庁がありません。
入国管理局は移民のための省庁ではなく、
あくまでも移民を管理するための機関です。

あえて言えば地方自治体が住民サービスという立場から
「コミュニティ通訳」を考えることができると思いますが、
地方自治体によって地域格差が大きいです。

最近、医療通訳だけを議論していると
思考が引きちぎられるような気がします。

私の興味は、あくまでもその後ろにある「生活」だからです。

病気が治るだけでは、健康は取り戻せない。
元の生活は取り戻せないことが多すぎる。

だから、やっぱり「医療通訳」でなく、
「コミュニティ通訳」の中の「医療」という立ち位置でなければ
なんとなくしっくりきません。

ただ、現実を見ると
「コミュニティ通訳」の制度化を実現させるためには
ユーザー側のニーズや社会的合意、制度を作ることのできる場所が必要で
それに一番近い場所にいるのがあえて言えば医療通訳なのではないかと思います。

全部を一度に実現するのか
まずは実現しやすいものから実現していくのか。
これは戦略的な課題です。

ただ、ユーザーである外国人利用者はどう考えているのだろう。

たぶん、今議論が進んでいる方向と
違う声がでてくるのではないかあと思います。

先日、「手話を生きる」 斉藤道夫 みすず書房を読みました。
最初、やっと図書館で順番がまわってきたから読んだのですが、
付箋だらけになってしまったので、あわてて購入しました。

言語である日本の手話のことを本当に知らなかったんだなあとあらためて認識したし、
音声言語である外国語通訳を考える上でもすごく参考になりました。

ろう者が必要としている手話は本当はどれなのか。
ろう児が必要としている教育はどんなものなのか。

外国語の医療通訳が
本当に利用者である外国人当事者が必要としているものになっているのか。
それを目指すことができているのか。
病院や医師が使い勝手のよいだけのものになっていないか。
あらためて自問自答しています。

8月27日、28日の医療通訳者セミナー、是非いらしてくださいね!
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コミュニケーションの壁を乗り越えるために

2016-08-11 11:56:25 | 通訳者のつぶやき
今週は「やさしい日本語研修」で山梨県の笛吹市役所に行きました。

行きは神戸から名古屋、中央本線経由でいったのですが、
途中岐阜県から長野県に入るあたりの山の美しさは久しぶりに心が洗われる体験でした。

看護職の人や医療職の人たちにやさしい日本語で対応しでもらえれば、
通訳なくても大丈夫なケースも結構あることを伝えてきましたが、
行政の窓口でもそれは同じです。
特に、行政通訳をやっていると、本題以外の言葉が多く、
本当に伝えたいことがぼやけてしまう話し方をする人が少なくないと感じます。
いい意味では「丁寧」なのですが、悪い意味では「伝わらない」ということが起こってきます。
やさしい日本語の使い方のテクニックとともに、文化圏の違う人たちと一緒に暮らすということ、
災害があれば助け合ってともに生き伸びなければいけないことを理解してもらう必要があるのです。

言葉の壁は「気合でいける」ことも結構あると私は思います。
自分の通訳の仕事を減らすような行動ととらえられるかもしれませんが、
特に地方都市では、通訳は限りある資源であるということを知ってほしいと思うのです。
また、やさしい日本語は実は「通訳しやすい日本語」です。
日本では英語以外の通訳者は日本人ではない場合のほうが多くなっています。
通訳者にもわかりやすい日本語を話してもらえれば、通訳ミスを減らすことにもつながります。

地方都市へ行くと、外国人にとっての通訳などの社会資源が少ないかわりに
暖かいご近所や特別扱いしない同僚などがいて
意外と住みやすいなあと感じることもあります。

私は外国人の医療におけるコミュニケーションの問題を
通訳だけで解決しようとは思っていません。
できるだけ通訳を使わなくてもコミュニケーションのとれる手段が普及し、
外国人の状況を理解できるソーシャルワーカーが増え、
日本語の先生や学校の先生、民生委員さんや保護司さん、
いろんな人がそれなりにコミュニケーションを助けてくれれば
暮らしやすくなるのだと思っています。
足りないと言えばどこまでも足りない。
でも、足りない、ダメだと言っていては前へは進みません。
もちろん、必要なところには専門職である通訳者をつける。
でもコミュニケーションの壁はどこからでも理解ある場所から穴をあけていけばいい。
理解者を増やしていく。
その努力をしなければとおもいます。

来週は広島で手話通訳の方々の研修に参加します。
ヤクルト戦もあるので、1年ぶりにズムスタへも応援に行ってきます。
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医療通訳者集まれ~!

2016-08-03 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
先週末は静岡県で開催された相談員の研修会に行ってきました。
外国語の相談員ばかりではなく、
外国親や外国人患者にかかわる日本人ワーカーの人たちも来られていて、
関心の高さを感じました。

いつも思うのは、現場の人たちはみんななんとかしたいと思ってくれているのです。
だけど、なんとかする方法が見当たらない。
外国人相談には「言葉」だけでなく
「制度」や「文化」の違いへの配慮が必要となります。

適切な対応をするためには
同情はいりません。
また、「情熱」だけでなく「知識」が必要です。
ただ、「知識」を得るためには、そのための「情熱」が必要なんですけどね。

夜間にも関わらず多くの方が参加してくださり、
エネルギーをもらうという言葉は陳腐で好きじゃないですが、
ここにも仲間がいるという勇気をもらった気がします。


土曜日には神戸市のユニティ(神戸市の大学連携施設です)で
医療通訳の市民向け公開講座がありました。
神戸市外国語大学と神戸市看護大学の連携講座です。
今回はスペイン語と中国語の講座でしたが、
これからスペイン語をやってみたいという市民の方々が集まってくれました。
私たちにとっても外国人にとっても語学のできる支援者が増えることはありがたいことです。
こうした医療通訳に興味をもってくれる市民の方が増えるようにもがんばりたいと思います。

そこで、お知らせです。

8月27日(土)と28日(日)に東京医科大学にて、「第1回医療通訳者セミナー」を開催します。
これは、医療通訳者の皆さんに集まってもらえるように
医療通訳者目線でプログラムを作成したものです。
私も実行委員会の一人として参加させてもらっています。

とにかく、全国に散らばっている医療通訳者の皆さんが
2日間かけて、仲良くなれるようなセミナーになればいいなあと思っています。
是非、ご参加ください。

開催日:2016.8.27(土)午後と28(日)終日
会場:東京医科大学 新教育研究棟 3階(東京都新宿区西新宿6-7-1)
主催:「医療通訳者セミナー」実行委員会
会費: 5000円(当日払い)

ちらしは こちら

連絡先:tokyomedlab@gmail.com (森田直美)

たくさんの皆様のご参加をお待ちしています。
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