MEDINT(医療通訳研究会)便り

医療通訳の制度化を目指す医療通訳研究会(MEDINT)のコラム
~みんなで 医療通訳者を増やし、守り、育てよう!~

孤独は医療通訳では癒せない

2004-07-28 15:08:30 | 通訳者のつぶやき
南米の日系人の中には、独身もしくは家族と離れて単身来日している人たちがいます。その中には、両親もなくなり本国に身寄りがなく、日本に骨を埋めるつもりで来ている人も少なくありません。その多くは私たち日本人と同じ顔をした、でも日本語が話せない高齢の方々です。

もう数年前のことになります。結核の通訳を通して、ある日系2世の方と知り合いました。

結核の治療は順調でした。退院後も市役所のケースワーカーさんがとてもいい人で、いろいろとお世話してくれていました。

でも、彼は亡くなってしまいました。退院後、結核の薬の副作用で肝機能が弱っていた上にアルコール依存症だったというのは、後で聞いた話です。緩慢な自殺だったのかとも思います。病院にいったり、窓口に現れる時は、身なりもきちっとしていて明るい方だったので、彼の心の中にそんな闇が潜んでいたとは考えられませんでした。家族でも何でもない、ただの通訳としてつきあっただけでしたが、彼の死から立ち直るまで、今だから言えますが、実は私自身長い時間がかかりました。

私たち医療通訳の仕事には限界があります。医療通訳者がカウンセリングまでやれるというのは間違いです。しかし、その人と同じ言葉を話し、文化を知る媒介者として、周りも期待し、自分自身も勘違いすることがあり得るのです。第1回講座で小林先生がおっしゃっていた医療通訳のできること、できないことを自分自身で知っておくことが大切です。それがなければ、いつか「二度と医療通訳なんてしたくない自分」になってしまうだろうと思います。
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医療通訳者になりたい

2004-07-15 14:55:49 | 通訳者のつぶやき
通訳者や学生、医療従事者で外国語の出来る方から、「どうやったら医療通訳者になれますか」という質問を受けます。実はこの質問はとても大きな問題を抱えています。今回は少し事例を離れてこの質問に対する私なりの回答をしてみたいと思います。

医療通訳は人の命にかかわり、その責任は重大です。絶対に間違えられないし、難しい専門用語も出てきます。専門的な知識と高い語学力だけでなく、クライアントのプライバシーを守る倫理観を兼ね備えていなければできません。ですから、医療関係者の中には、医療通訳者も当然、公的な資格を持っていると考える方が多いようです。

しかし、「私が医療通訳です」といえば、医療通訳者というのが現実です。

公的な資格もなければ、弁護士や医師のように、資格がないのに仕事をすることで罰せられることはありません。日本における語学の資格は種類が非常に少なく、それだけで医療通訳者としての資質を示すことのできるものはありません。ですので、少数言語の場合、まだ初心者であっても、通訳ができるというだけで、深刻な病気の告知や手術や輸血の説明などの非常に難易度の高い通訳をせざるをえない場面に遭遇することがあります。誤解されないように付け加えるならば、通訳者は最初から万能ではなく、様々な経験をつみながら育っていきます。ですから、その能力も様々で、能力にあった通訳現場でなければ、クライアントに迷惑をかけてしまうことだってあります。

また、逆にベテランのプロの通訳なのに、ボランティアと思われたり、きちんと報酬を払ってもらえないということもおこります。また、そうした問題を話し合ったり、社会に対して問題提起する医療通訳者の団体や組合もありません。

英語以外の医療通訳者が圧倒的に不足している中で、活動している医療通訳者を振りわけてしまうと、ますます足りなくなると危惧する声も聞こえてきます。

私たちは、この問題とみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。
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病気になるのは私のせい?

2004-07-07 14:54:53 | 通訳者のつぶやき
ご本人の希望で婦人科を受診したときのことです。更年期の症状がでていたので、検査してもらい、ホルモンの薬を処方してもらいました。そこまでは、良かったのです。その後、彼女は足の痛みについても医師に相談しました。静脈瘤だったと思います。日系人ではあまり見たことがないのですが、南米で中年以降の女性の静脈瘤は、珍しい病気ではありません。その時、医師は彼女に「それは、あなたが体重を減らせば治ります。痩せなさい」といいました。私は医師の言葉をそのまま通訳しました。

帰り道、彼女は通訳である私に怒りをぶつけてきました。「体重を減らさなければいけないのは、医者に聞かなくてもわかる。痩せられないから困っているんだ。治療をするのが、医者の仕事じゃないのか」と。そのまま通訳した私にも、その責めは向けられました。「痩せろ痩せろと言われても、そんな簡単に痩せられない!」気持ちはとてもわかります。「痩せて治るなら病院へは行かない。痩せられない、でも痛い、何とかして欲しいから病院に行くのだ」と言われました。結局、医師の言葉は理解してもらえず、再受診することはありませんでした。この場合、私はどうすればよかったのでしょうか?通訳ですから、医師が言うことを伝える以外手段がありません。ご本人の気持ちとか痛みとかを、もう少し丁寧に医師に伝える必要があったのでしょうか。しかし、その時の医師の言葉は取り付く島もない感じでした。病気になるのは、患者が原因であるとよく言われることがあります。その言葉を、実際に痛がっている患者さんに伝えるのは通訳としてとてもつらいことです。その時の彼女の絶望的な顔が、今でも思い出されます。
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薬の文化

2004-07-02 14:53:51 | 通訳者のつぶやき
病院に行くと、2~3種類の薬をもらいます。主要な薬だけでなく、胃薬や睡眠薬、熱を下げる座薬や痛み止めなど様々な種類のものが混じっています。「赤い薬を毎食前2粒飲んで、粉薬は朝食後に飲んで下さい。痛みがあったら、このピンクの薬を飲んで、眠れないときはこのカプセルを飲んで下さい」これは極端な例ですが、窓口で丁寧な説明をうけても間違いそうになることがあります。また、通訳がそれぞれを説明しても、メモする習慣のない人の場合、どこまで理解できているのか心配になります。

最近では、薬と一緒にカラーコピーで印刷した薬の説明書を添付してくれる病院もあります。錠剤の形と色がはっきり写真でわかるので、その横に日本語で書いてある注意書きをスペイン語に訳して持っておいてもらえれば安心です。お年寄りや外国人にも優しい姿勢を感じる病院の対応だと思います。

薬は、身近な分だけ診察以上に文化的な違いを感じます。中南米のある国では、薬屋さんで注射を打ってもらえます。モーニングアフターピル(緊急避妊薬)の様な効き目のある注射を薬屋さんで打ってもらえる国もあります。日本でもないのかと何度か聞かれたことがあります。スーパーのレジ横でアスピリンを売っています。あめ玉を買うようにアスピリンをスーパーのかごにほうり込みます。何錠飲むかは自己責任です。また、民間療法が主流の国もまだまだあります。薬草屋でダイエットや胃薬から精力増強の薬まで調合してもらったりもします。「浣腸」を見たことのない若いお母さんもいました。

ある患者さんが、いつものように病院の紙を持って何の薬か説明して欲しいとやってきました。説明したところ、「日本の薬は、私の国の薬より弱いらしいね。だからなかなか治らないんだ。この薬(30錠)一度に飲んだら治るのかな。」と言われたときには驚きました。神経科の患者さんだったので、悩みは切実です。薬は、指示されたとおりに飲みましょうという常識も、通訳の中できちんと伝えなければいけないと思った出来事でした。
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