MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

きれいな日本語とつたわる日本語

2011-07-25 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
外国人の方も在住年数が長くなってくると、
自分の言葉より日本語のほうが話しやすくなります。
外国人相談窓口でも、母語でなく日本語でかけてくる方が増えました。
そういう方とお話しするときは、もちろんこちらも日本語です。

ある日のこと。電話に出ると突然
「Aさん ください」と言ってくる人がいました。
ご本人が「Aさん プリーズ」のつもりで言っているのだということはわかります(笑)

「プリーズ」は結構便利な言葉で
たぶん日本語の「お願いします」、「よろしく」、「どうか」、
もちろん「ください」も入りますね。
初めて聞くと少し驚きます。
意地悪して「あげないよ~」ということもありますが、、
最近は慣れてきて「お願いしますのほうがいいよ」と訂正します。

日本語教師の方とお話していた時のこと。
南米系特有のアクセントの付け方や
話し方を日本人が使うかどうかで議論になりました。
中南米の発音や彼ら独特の日本語の言い回しも存在します。
つまり「通じる日本語」で話すか、「正しい日本語」で話すかです。

日本語教師の方は、
将来正しい日本語を使うほうが本人のためになるので、
こちらは正しい日本人らしい日本語で受け答えしたほう
(日本人が正しい日本語を使っているとは限らないですが)が、
本人の勉強になるからいいよと言います。

相談員のほうは、
とにかく正しく情報を伝えることが大切だから、
少々日本語としてはいびつでも、
彼らが使っている発音や単語を使ったほうがいいと思います。

具体的にいうと
たとえば「神戸」のことを「コベ」というか「コーベ」というか、
「大阪」のことを「オサカ」というか「オーサカ」というか。
「工場長」のことを「コヨチョ」
「国民健康保険」のことを「コクミン」
エトセトラ・・・・・。

中南米のコミュニティには、
地域性もあるとは思いますが、
そこで育った独自の日本語があったりします。

パラグアイの日系社会にも独特の日本語があったことを思い出します。
ある日系人の若い人は「私たち」を「ジョら」、「あなたたち」を「ウステら」と言っていました。
慣れると違和感がなくなりますが、
言葉は生き物だなあと感じた瞬間でした。

通訳をしていても、
できるだけその人が使う単語を選んで使うようにしています。
一番正確に把握できる言葉は本人が使っている言葉だからです。
でも、周りで聴いているとけっして格調高い言葉とは言えません。
それが悩みです。

言葉を選ぶって本当に大変ですね。
コメント (2)
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五感で聴く

2011-07-18 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳をしていて、
「聴く」という行動が最も重要だということは理解していますが、
意外と耳に入ってくる言葉以外の情報が
大切だということは理解されていないと感じることがあります。

通常、コミュニケーションは言語のみで行われているわけではありません。
五感といわれる視覚、聴覚、嗅覚、触覚なども使っています。

相談員として話をしているときには、
その人の服装(おしゃれかどうかでなく乱れなど)を観察したり、
顔色や元気の様子、目線や癖や症状などを観察したりしています。
向き合っていると、その人のにおいも伝わります。
生活が荒れてくるとそのにおいが変わってくることもあります。
それも話をする時の情報の一部として加えられています。
触れるという意味ではあいさつで握手するときにも多くの情報を得ます。

人とのコミュニケーションには
無意識のうちに五感を使っているなと感じます。

電話通訳ではこれがありません。
こうした情報にすべてふたをしたうえで通訳をしているので、
面談や同行通訳よりかなり難易度が上がります。

見えないものは想像力を働かせて向き合いますが、
間違いがあっては困るので、
確認をしながらすすめていきます。
せめてスカイプなら、視覚は確保できるのですが・・・。

面談通訳の場合は、
私も含めて通訳者は「眼」をよく使います。
通訳者の言外の言葉は「眼」で伝えることが多いのです。
不本意な言葉を医療者が伝えたとき、
私は同意しない!という抵抗は眼でします。
通訳はきちんと訳さなければならないので、
言葉の中で抵抗できないのですが、
眼で「私はそうは思わないぞ!」と訴えるのです。
(たいていの話者はそれを感じ取ってくれますけど)
電話の場合はこの眼の表情というものも使えない。
電話通訳には制約が多いのです。

でも、外国人患者さんがいるのは
都会の通訳のいける病院ばかりではありません。
私の活動している兵庫県も南北に広いため、
電話での通訳を使うことが多いのです。
インフルエンザやSARSの時も電話通訳に切り替えましたし、
医療通訳において電話通訳を併用しなければいけないのは、
今後の医療通訳者育成を考えるときに忘れてはならない視点だと思います。
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長崎にて~医療通訳士協議会第4回総会~

2011-07-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
7月9日(土)第4回医療通訳士協議会(JAMI)総会が
長崎県長崎市で開催されました。
2009年2月に大阪で発足して、東京、名古屋に続き、
九州でのはじめての開催になります。
会場は長崎駅前で130名の定員はほぼ満席。
すごい熱気で驚きました。
また、テーマがメディカルツーリズムだったので、
長崎県内だけでなく、九州及び全国から参加者が集まりました。

今回は「医療通訳士倫理規程」が発表されました。
医療通訳を専門職として発展させるためには
まず倫理規程をきちんと整備して行動規範を作らなければなりません。
今回は、前文と条文部分のみの発表になりましたが、
近いうちに解説文や事例なども公表の予定です。

医療通訳士とはどんな仕事なのか・・・。
この倫理規程が、
私たち医療通訳者の必携になる日がくることを願っています。
ちなみに「医療通訳士」は医療通訳士協議会(JAMI)の登録商標です。
また、この名称での認定・検定は一切行っていません。
これからの課題となっています。



しかし、残念ながら日常の外国人医療は
相変わらず受診以前の段階のものが多くて、
「医療通訳」すら贅沢かもと思うこともあるのです。
「死ぬな!」「まずは病院へ」「119」と叫ぶことも少なくないです。
特に貧困と隣り合わせだったり、精神的にまいっている人が増えている気がする。
外国人医療の質の向上を求めている医療通訳者としては
歯がゆいことが多い毎日です。
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バウムテスト

2011-07-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳なので疾患の勉強をすればいいと思っていたのですが、
先日、精神科受診の通訳で
心理テストの通訳を経験しました。
これが、思った以上に大変。
語彙が違うので、はっきりいって完敗でした(涙)

バウムテストってご存知ですか?
バウムはバウムクーヘンのバウム(木)です。
実のなる木を一本書いて、その人の深層心理を
理解するというものだそうです。
私も知りませんでしたが、
精神科では時々使うテストのようです。

実際にやってみたい方はこちら
http://mental.heart-warm.net/check/tree/hyouka.html

「実のなる木を一本書いてください」と伝えて、
その後、結果を解説します。
その内容が難しい!

たとえば

「自分を外界に合わせるのではなく、外界が自分に従うべきであると考える人が多い傾向になります。」
「情緒的ないしは器質的な原因により性格の統合性を失っており、現実検討能力が妨げられ、
自己と外界の状態を客観的に認識できずに区別できていない可能性があります。」
「真面目に描かなかったのでなければ、知能低下や脳器質障害であったり、現実吟味能力が低下している可能性があります。」

って、ただでさえ生きづらさを感じている患者さんに
これを伝えてもいいのか・・とも思いながら、
なかなか言葉の出てこない自分がいます。

精神科の通訳でこんな通訳もあるのだなあと勉強になりました。
疾患名だけではなく、こうした表現も学んでおかないといけないんだなあと。
(これからはマニュアルだけでなく時には文学作品も読もう。)

ちなみに私自身やってみたのですが、
結果には結構落ち込みました。

また、医療通訳でなく、相談を受けていた時、
突然「そけいヘルニアってどんな病気?」と聞かれました。
もちろん、「そけいヘルニア」を訳すことはできます。
男の子のケースも通訳したことがあるのですが、
女の子のケースは・・・そういわれればどんなものか知りません。
またしてもネットと家庭の医学を駆使して調べます。

何年通訳をしてても毎日新しいことばかり。
ベテランになる日はまだまだ遠いです。
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