MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

通訳者の気働き

2007-07-25 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
先日、医療通訳研究会(MEDINT)で通訳技法の講義がありました。通訳の技術的な力を向上させる努力は常に必要ですし、独学であっても日々研鑽を積む必要があります。水野先生には、常に「通訳脳」を持って日常生活を送る方法を伝授していただきました。

ただ、医療通訳者は「通訳技術」だけではないと常日頃から思っています。それが何なのか、漠然としすぎていて皆さんに説明しづらいのが歯がゆいのですが、あえて言うなら、「医療通訳の使命感」と「通訳者の気働き」だと思います。
「医療通訳の使命感」については、人の命を左右する大切な通訳であることを認識すると同時に、日本社会にはまだ根付いてはいないけれども、これから絶対必要な仕事だと自負することです。
もうひとつの「通訳者の気働き」については少し説明が必要ですね。医療通訳者の仕事は、もちろん「通訳」ですが、同時に患者に寄り添い、その治療に貢献するように振舞うことだと思っています。通訳者の質によって「病室の空気」がよくなったり、悪くなったりすることもあるからです。もちろん、治療をするのは医療者です。通訳者が、治療に口を挟んだり、参加したりするのは倫理違反です。そうではなくて、そばに寄り添うことや、患者の不安に耳を傾けること、医師や医療従事者の方々とのコミュニケーションを円滑にする「空気」を作り出すことなど、間接的な医療への参加なのです。患者は文化や制度、言葉の違う日本での治療に不安を持っています。その不安は家族だけでは取り除けないこともあるし、間接的なサポートが必要となることもあります。決しておせっかいではなく、クライアントを思いやる気持ちが大切なのではないでしょうか。
一般の通訳業務の中には、こうした気働きが必要のないもの、逆に気働きをしてはいけないものが多くあります。通訳をするときに、それらと分けて考えないと、医療通訳者に求められる資質が混乱してしまうのではないかと少し心配しています。

PS:先週末2日間にわたって日本渡航医学会が東京の慈恵医科大で開催されました。日本からでていくアウトバウンドの人々と日本にやってくるインバウンドの人々の医療と健康についての様々な研究について発表がありました。来週は、この学会についての報告をします。暑い折、皆様お体ご自愛くださいね。


浄財をいただくということ

2007-07-18 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
「コリナさんの帰国を支援する会」から、医療通訳研究会にご寄付をいただきました。病床にあったルーマニア人コリナさんの帰国を支援するための活動でしたが、コリナさんはなくなられ、その帰国はかないませんでした。とても残念です。しかし支援者の方々は、活動を通して日本の外国人医療支援で何が不足しているかを考え、その結果、基金の一部を医療通訳研究会に託してくださることになりました。お話をいただいたときには、大切な浄財をいただくことの重さをひしひしと感じ、本当に私たちがいただいてもいいのだろうかと一晩悩みましたが、想いにきちんと答えていくことが私たちの務めでもあると思い、あえていただくことにしました。
シンポジウムや調査研究でいただく行政からの助成金も、とてもありがたく大切なものですが、今回のような市民一人ひとりの思いの詰まった寄付金は、活動の背中を押してもらったような思いがします。
医療通訳研究会は事務所ももたず、事務員も置かず、私もスタッフも本業の仕事の傍らで活動しています。いただいた会費のほとんどは、会場費と講師謝金に消えます。活動を本当に大きくするためには、もっと違ったお金の使い方があるのかもしれません。でも、会員からいただく年会費5000円は、私にとっても大金です。少し考えて出すお金です。ならば、きちんとその思いに答えていけるように使いたいと思っています。
また中には、この活動がいつまで続くかわからないのに、3年分前払いしてくださっている方がいます。「3年は石にかじりついてでもがんばれ」というメッセージが伝わってきます。
この活動をはじめるのには、清水の舞台から飛び降りるくらいの決意がいりました。仕事柄、多くのNGOが立ち上がっては消えていくのを見てきました。なかには一生懸命応援したけれどもだめだった団体もあるし、活動が設立当初と著しく変わってしまいがっかりしたこともあります。団体を作って活動をするということは、やる気や正義だけでは出来ないということを痛感しました。
自分自身、本当はこうした組織をまとめるのは不向きだと思っていますが、無理せず、出来る範囲で、期待してくださる方々を裏切らないように継続していこうと思っています。
「コリナさんの帰国を支援する会」の皆様ありがとうございました。

医療通訳者に知識はいりますか?

2007-07-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
7月7日、大津市でびわ湖国際医療フォーラムが開催されました。医療フォーラムなので、医療関係の専門学会と思われているかもしれませんが、医療人類学や外国人支援、言葉と医療など様々な研究発表がなされている学際的なフォーラムです。今回も様々なテーマで発表と議論がなされました。なかでも、みのお英語医療通訳研究会の新垣さんの発表は非常に興味深く拝聴しました。「外国人医療における通訳時の誤解発生のリスク-あるコロンビア人患者の事例を通して-」をテーマに、医療通訳者が通訳現場で犯すリスクについて具体的な例をあげてお話されました。新垣さんはスペイン語通訳者ですが、看護師でもあります。お話を伺いながら、リスクの場面が、私たち医療専門ではない通訳者と違うなあと感じました。看護師など医療従事者は医療に関する基礎的な知識があります。例えば、医師が間違った説明をしたり、いい足りないことは問い直したり、言い足したりすることができます。本来、通訳者は言葉を100%正確に訳すことが仕事ですが、たとえばその間違いが患者の命にかかわることであったり、今後医療者との関係を悪くする恐れがあるような場合は介入することもあるでしょう。逆に、医療知識のない通訳者は、そういう予見・偏見のない通訳ができます。
では、医療通訳者は医療のことをしらなくてもいいのでしょうか?私は、医療通訳者であっても、医療に関する最低限の知識は習得すべきなのではないかと思っています。誤解を招きそうなのできちんとご説明すると、この最低限の知識は、診断を下したりアドバイスをするための知識ではありません。知識があればこそ、自分の意見がはいるとまずいことに気づくことが出来るのです。
このケースでは、おなかを切る位置を医師がジェスチャーで説明して、医療知識のある通訳者が「へその下」と言語で通訳したのですが、医療の専門でないものにとってはそれが「へその下」という言語で表現していいものなのかどうかもわかりません。だから、医師と同じようにジェスチャーで表現すると思います。医療従事者である通訳者は、知識があるゆえに医師の言葉でない言葉を言い足してしまうことがあります。ただ、知識があるゆえにその危険性にも気づくことが出来るのです。
医療通訳研究会(MEDINT)で医療の基礎知識の講座をやっているのは、医療通訳者が何も医師のように診断やアドバイスをするためではありません。また、正しい言葉を選ぶためだけではなく、こうした医療通訳することの難しさ、やってはいけないことを知るためにも学習しているのです。

通訳者はどこにいますか?

2007-07-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
無料でいつでも駆けつけてくれる通訳者はどこにいますか?
医師に今日の午後といわれてすぐに来てくれる通訳者はどこにいますか?
それも日常会話レベルではだめなんです。
医療用語とかもきちんと間違いなく訳してくれる人でないと。
だって人の命がかかっているんですよ。
通訳者がぐずぐず辞書をめくっているようじゃだめなんです。
病院の診察時間は短いですから。
だから電話で通訳なんてだめですよ。
どんな人が通訳しているか、その人が信用できるかどうか見ないとわからないじゃないですか。
交通費?ないですよ。
人が苦しんでいるんです。
助けてあげるのが人間というものでしょう。

いつも、どこからか、こういう電話がかかってくる。
行ってあげたいけれど。どうしたらいいのかわからない。
まず、私でいいんだろうか?
医療通訳はこうしたジレンマに陥っている。
医療通訳を公的制度化する以外に問題を解決する方法はない。