MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

医療通訳者のミッション

2010-07-30 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
「医療通訳者」と「会議通訳者」や「通訳ガイド」の違いは
と聞かれるとあなたはどう答えますか?

昨今のメディカルツーリズムの影響で
いわゆる会議通訳や通訳ガイドの人たちが
医療通訳に興味をもってくださるようになりました。

広く医療通訳に関心がもたれるということは歓迎すべきことです。

でも私は「ミッション」つまり「目的が違う」と思います。

言葉を的確に訳すことは医療通訳者にとっては
最低限やらなければいけないことであり、
それは手段でしかありません。

医療通訳者の本当の目的は
患者の治療を支援すること、
患者の回復を支援することです。

もちろん会議通訳者や通訳ガイドの方々にも
その仕事の使命・目的があると思います。

医療通訳者は患者を見てこその仕事です。
付け焼刃的な研修だけではなかなか患者の姿を見ることは難しいと思います。

医療通訳士協議会名古屋大会

2010-07-23 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
17日土曜日に医療通訳士協議会の第3回総会が
名古屋のJICA中部で開催されました。

総会の後のシンポジウムや分科会には
160名という予想を上回る参加者に
東海地方の医療通訳熱の高さを実感しました。

また、医療通訳者が多数参加されていて、
具体的な事例や実践についてのコメントが多く聞かれ、
実りのある集まりであったと思います。

テーマは「医療通訳のパイオニアたち」

日系ブラジル人の集住地区のひとつである
静岡、愛知、岐阜、三重、滋賀の通訳や医療関係者、
教育機関が集まって
これから医療通訳の現状とこれからの展望について話し合いました。

参加された皆さん、お疲れ様でした。

また、この総会で、
医療通訳士協議会の倫理ワーキンググループの公募の発表がありました。
日本における医療通訳を次のステージに進めるために
医療通訳者による医療通訳者のための
倫理コードを作っていこうというものです。
http://blog.goo.ne.jp/jami_ethics

皆様のご応募をお待ちしています。

困ったときに

2010-07-16 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳をやっていると
時々判断が難しいことがあります。

たとえば、医師が通訳者にだけ耳打ちしたことを通訳するか?

患者が医師に隠している病気に関する重大な事実について
知っている通訳者は黙っておくのか?

医師と患者の間に文化の違いによるコミュニケーションの齟齬がおきたら?

医療通訳者同士で集まると必ずケーススタディになります。
海外の事例はあっても日本の医療現場には日本独自の医療文化があり
私たち医療通訳者自信が、ケースごとに自分たちで
正解を見つけていかなければなりません。

そんな時基準にしているふたつのことがあります。

ひとつめ。

「この人が日本語のわかる人ならどうするか」

ふたつめ。

「病気や怪我を治すという医療の目的に忠実であるか」

たとえば、医師が通訳だけにわかるように
患者の悪口を日本語でいうという場面があります。
これを訳すのかどうか、いつも悩むところです。

私は、患者には医師や病院を選ぶ権利があり、
患者の前で言葉がわからないとはいえ、
医師が患者の悪口を言っているという情報を
患者は得るべき権利があると思っています。
もし患者が日本語に通じていれば
聞いて得ることができた情報だからです。

そういう医師や病院を変えるのか、我慢するのかは患者が決めることです。

反面、医師や病院を選べないケースもあります。
たとえば市町村にたったひとつしかない助産制度を受けられる病院であったり、
都道府県唯一のHIV・AIDS治療の拠点病院であったり、
隣の病院まで遠くて患者が通うことのできる唯一の病院だったり。

その場合は、もしかしたら
悪口を訳さずに何も知らない患者に気持ちよく医療を
受けてもらうほうがいいのかもしれません。

医療通訳のマニュアルといわれることがありますが、
医療現場の通訳場面でおきることは、
いつもその場での適切な判断が必要です。

A場面では正解でもB場面では不正解になることもある。
だから私たちには研修が必要なのです。

医療通訳の当事者

2010-07-09 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
昨年に引き続いて大阪大学GLOCOLの大学院プログラム
「グローバルコラボレーションの理論と実践」で
医療通訳の話をさせてもらいました。

大学院のプログラムなので学際的で
医療関係の学生も参加しており、
こちらも非常に貴重な意見を聞くことができました。

そのひとつが、ある看護士の資格をもつ学生の話でした。
「外国人患者が来たとき医療通訳がいなくてとても大変だった。
医療通訳の制度があれば是非利用したい。」

私が医療通訳の制度化に向けての話をしたので、
共感をしてくれたのだと思います。
ただ私は強い違和感を感じました。

ちょっといじわるを言いますね。

「医療通訳を制度化するのは一番困っているあなたたちではないのか?」
という疑問です。

よく考えてみると
医療通訳が制度化されなくても医療通訳者はぜんぜん困りません。
医療通訳の報酬はしっかりと確立されているわけでもなく、
失いたくない仕事のうちには入らないからです。

私たちが医療通訳をしているのは、
患者が困っているからです。

でも同じように医療者も困っているはずです。
というか、医療通訳の当事者は患者と医療者なのです。

医療者の中から
「医療通訳を制度化しよう。」
「病院スタッフとして受け入れよう」
という声が上がってきたことはとてもうれしいです。

是非、多くの医療者の中から、
きちんとした治療をするために医療通訳が不可欠という
共通認識がでてくることを期待したいと思います。

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先日、ある医療者の方に聞かれました。
「通訳者の人たちは収入どうしているの?
ご飯食べてる?」

実は、こういう質問を医療者からされたのは初めてでした。
とてもうれしかったです。
「医療通訳者」と簡単に言いますが、
通訳者にも生活があります。

医療通訳をしている人は、
私も含めて多くが不安定雇用の中にいて、
ここ数年、収入が激減しています。

もうボランティアどころではなく、
生活のために仕事を掛け持ちしています。
その中で医療通訳の活動をしているのです。
勉強会は参加するけど、懇親会はやめておくとか、
本は図書館とか・・工夫はしているんですけど。

最近は身体が持つかなあとも思いはじめました。

だから簡単にボランティアでといわないで欲しい。
生活の安定している医療者の皆さん、もっとがんばってください。

かわいそうな人

2010-07-02 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
外国人支援の話をすると、
いろんなところで言われる言葉があります。

「あの人たちは私たちよりいい車に乗っている」
「外国人は共働きでいいお給料をもらっている」
「家を買ったらしい」

そして

「私たち日本人よりいい生活をしている」

この言葉に何を感じるでしょうか?
次にくる言葉はこんな言葉です。

「なんであの人たちの支援をしなければいけないのか」

夜勤もいとわず働けばよいお給料をもらえます。
狭い場所での溶接や冷凍庫での作業は
身体に悪いですが、確かによい時給がもらえる。
それは頑張って仕事をしているからです。
これはいけないことでしょうか?

外国人支援の理由に、
「かわいそうな人を助けたい」という人がいます。
そういう人は彼らがよい車に乗ったり家を買ったり、
美味しいものを食べていると嫌な気持ちになるでしょう。

外国人支援の現場には
かわいそう!とかいいながら
かき回すだけかき回していなくなる人たちがいます。

でもかわいそうだから支援するのであれば
かわいそうでなくなれば、こうした支援は必要なくなるのでしょうか?
日本人よりいい生活ができたら支援の必要はなくなるのでしょうか?
日本人より経済的に貧しいから支援をするのでしょうか?

少し視点がぼやけているのではないかと思います。

医療通訳の活動をはじめるきっかけとなったのは、
「fairness」と言う概念です。
同じように医療を受ける権利を持つ人々が
言葉の問題で同じ医療を受けられないのはフェア(公正)ではないと感じます。
その人がお金持ちでも、その人が貧しくても
同じ医療を受けられないのはフェアではない。
だから医療通訳が必要だと思うのです。

もう日本において外国人はお客さんではありません。
一緒に生きていくなかで考えていくことがたくさんあります。