MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

異種格闘技の楽しみ

2008-11-26 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
この秋は、人前で話をさせてもらう機会が少なくありません。
ほとんどは外国語相談員としての話なのですが、
中には医療通訳研修や一般の方に医療通訳を知ってもらう講座などもあり、
毎回、新しいことを考えながら原稿を作ります。
その作業自体は、医療通訳を考える上で大切な作業なのですが、
本来の私の仕事は、話をすることではありません。
なので、人前で話すという慣れないことをすると、どっと疲れます。
また、半端でないストレスが溜まります。
苦手意識はありますが、
でも、できる限りの協力はさせていただこうと思いながらやっています。

それから、講演にいくと「新しい課題」をもらえることがあります。
だから、「医療通訳って大切ですよね」という人たちより、
「そんなものいらない」とおもっている人たちのところのほうが
面白いし、とても勉強になるというのが本音です。
個人的には、医師や看護師、看護学生といった視点の違う方の集まりや
研究者の人たちの集まりで議論に混ぜていただくのはとても楽しい体験です。

11月15日~16日にかけて大阪大学コミュニケーションデザインセンター(CSCD)で、
コミュニティに基づく参加型研究(CBPR)の可能性」というプログラムに参加しました。

私自身、CBPRという考え方はここで初めて聞いたのですが、
研究者が、コミュニティのメンバーやリーダーと平等な立場で
問題解決に向けて研究の段階から参加して、
その学問的知識を積極的に活用していく
「参加協力型の調査方法」といえばいいでしょうか。
(すみません。すべて消化はされていません。)
とにかく、研究室にこもって論文を書いていた学者が
地域社会というものに目を向けて関心を持つというのは、
私たちからすれば歓迎すべきもののように思えます。
今回は人類学の先生方が多かったのですが、
NGO的視点とは違った思い切った提言をいただき、
それは目からうろこものでした。

ある参加者が、ぽつりと
「近代以前に医療通訳はあったのか?」といったのですが、
そういえばあったのかな、考えたことなかった..と気づきました。
ある参加者は、
「子どもに医療通訳をさせるのを法律で禁止すれば、
自然に病院は医療通訳を置かざるをえなくなる」といいました。
私たちは、いやそんなことしたら現場はまわらなくなる・・とか、
通訳費用をどうするとか先に考えてしまうのですが、
確かに、そこから議論を派生させてみるのは悪いことではありません。

同じような人同士で集まると、
同じような発想ばかりで、
自分の意見の確認しかできません。

やはり議論は多くの発見ができる「異種格闘技」がいいですね。

何のための制度化か?

2008-11-12 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
国際協力の話をするときの寓話があります。

とある南の島。
ハンモックに揺られて眠っている男性に
先進国から来たボランティアが話しかけます。

「もっと生活を豊かにしなければいけない。
もっと働いて、お金をもうけて、豊かな国を作らなければ」
「働いて豊かな国になったらどうなるのか?」
「お金をたくさん儲けることができる」
「お金を儲けたらどうするのか?」
「ゆっくり南の島でバカンスをして暮らせる」
「それならもうやっているじゃないか(笑)」

実は私が医療通訳における目標は、
この話と近いところがあります。

なぜ、医療通訳を制度化するのかについては、
人それぞれ思いが違うとおもいますが、
私の場合は、
「ストレスのない状態で医療通訳をしたい」
ということに尽きます。

医療通訳をしたいという思いだけなら、
何も制度化しなくても、個人でできます。
それで私はハッピーなのかもしれません。
でも、それでは、目の前の人しか助けられない。
それはそれでとても大切なことかもしれませんが、
自分自身多くのストレスを抱え、生活を犠牲にして、
活動を続けることにいつか限界を感じることでしょう。
実際に優秀な医療通訳者が経済的理由や精神的理由で
辞めざるを得なくなってきています。

南の島の昼寝と医療通訳を一緒に語ることはできないけれど、
普通に医療通訳できる体制を確保するために、
今、MEDINTの活動をしているのです。

なかなか理解してもらいにくいので、
一応ブログに書いておきます。


今週は大阪府の医療通訳研修に参加しました。
これは大阪府国際交流財団が企画したもので、
週1回、5週間にわたって
医師からのレクチャー、通訳研修、語学別研修、ワークショップを
行うとても贅沢な講座です。
参加者の方々は朝早くから熱心に研修に参加されています。
少し意地悪な質問や課題を出しても、
経験のある方が多かったのか、きちんと答えてくれました。
がんばれ!大阪府のボランティアの皆さん。

いつかきちんと皆さんの活動が報われる社会を目指したいと思います。

わかってないなあ・・・・

2008-11-05 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
また更新をさぼってしまいました。

先週は岐阜県の行政相談員研修に参加してきました。
行政窓口といえども、
直接、悩みや相談を聞く相談員の方々です。
皆さん、何とかしてあげたいという気持ちがとても強いのです。
相談員にとって「情報」そのものが武器になり道具になるので、
学ぶ姿勢も真剣そのものです。
寝ている人なんで一人もいません。
その熱気に圧倒されました。

こうした人々が
外国人と地域の小さな誤解やトラブルの
緩衝になっていると実感しました。




先週受けた医療通訳の中から、
エピソードをふたつほど紹介します。

1:「通訳さん説明してください」
最近ニュースなどで産婦人科で医療訴訟が多いというのは
よく報道されていますが、
小さな医療者への不満や苦情は整形外科関係のものが
多いように感じています。
今日も、肩が痛くて治療をしたら背中も痛くなったという患者さんの
通訳をすることになりました。
患者さんは肩の治療が悪くて、背中も痛くなったと主張します。
医師は肩の治療してもしなくても背中は痛くなっていただろうと言います。
通訳者にとっては、どちらの主張も一応中立で説明します。
ただ、途中で医師が言った言葉に凍りつきました。

「僕はスペイン語できないんだから、
あなた(通訳)が説得しないで誰が説得するんだ!」

「????」

えっと、この場合、医療通訳者は医師の通訳でも病院の通訳でもありません。
患者から要請があって通訳しています。
で、なぜ医師側の代弁者にならなければいけないの?

「先生、私は通訳ですから、説得はできません。
通訳しますので、先生の言葉で説得してください」

と伝えても、医師はよくわからない様子です。
でもよくあるんですよね。
通訳に説明や説得、患者の納得をさせようとする医師。
そうは問屋がおろしません。
医師が説得する言葉を発してこその通訳です。

2:「こなくていいよ」

最近、外国人だからといって診療拒否されることは少なくなりましたが、
なくなったとはいえません。先日も、

「外国人はややこしいし、言葉が通じないからこなくていい」

と言われました。
ほとんどの医師は、忙しい中でも様々なコミュニケーションツールを使って
なんとか治療をしようとがんばってくれています。
その期待にこたえるべく私たち医療通訳者も技術を高めていかなければなりません。

この医師を批判したところで何も生まれてきません。
こうした言葉も医師の本音ではあると思います。
こうした言葉がでないようにするために、
外国人医療が医師や病院にとってのストレスにならないための
仕組み自身を考えていかなければならないのです。