MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

seguro blanco 白い保険(証)

2020-03-26 01:30:33 | 通訳者のつぶやき
医療通訳者泣かせの言葉に
「日本にいるコミュニティの人だけが使う表現」があります。

日本にしかない制度や風習などに、あてはまる言葉がないと
共通の認識を形成するためにいくつかの言葉が作られて、
使いやすい言葉や影響力のある言葉が残ります。
たとえば「介護保険」のような日本独特の意味を伝えないとわかりにくい言葉や
「熱中症」のように日本でよく使われ病名というより症状を伝える言葉などがそうした悩ましい言葉です。
これは正式な言葉ではないので、Wiki先生にも載っていません。
もちろん、医療通訳者はそこまで彼らの言葉に合わせる必要はなく
共通認識として意味が伝わればいいと思います。
ただ、知っていればぐっとお互いの距離が縮まる気がします。

こうした言葉を拾うために、私たちは母語コミュニティの情報をチェックします。
日本に住む外国人が目にする雑誌やHPはどのコミュニティにもいくつかあります。
こうした雑誌やHPが使う言葉は日本にいるコミュニティに影響を与えます。
スペイン語の場合は、Mercado LatinoLatin-a、KYODAIなどでしょうか。
もちろん、個人のSNSなども無視できませんが、
そこまで追いかけるのは大変なので、とりあえず活字になったり多くの人がチェックしているものでいいと思います。

先日、ポルトガル語の雑誌が「Seguro Blanco」(白い保険)という特集をしました。
白い保険って、なんだと思いますか?
ヒントなしで答えられる人は、かなりの通ですね。
じゃあ、白い保険証ではどうでしょうか。
国民健康保険は市町村によって色が違うし、
社会保険の健康保険証も健康保険組合によっても形状や色がちがったりします。
読み進んでいってはじめて、
「限度額認定証」のことを「白い保険証」と表現していることがわかります。

確かに、少なくとも多くの人がもっている協会けんぽの限度額認定証は白いです。
(画像検索すると、国民健康保険や後期高齢者医療には色つきもあるみたいですがよくわかりません)
カードというよりは紙といった形状です。
入院する人や高額の医療費がかかりそうな人、長期にわたる治療が必要な患者さんなどは
治療や入院が始まる前や遅くとも支払いが始まるまでに、
必ずこの限度額認定証を取得しておくように伝えます。
会社に頼まなくても自分で直接請求できます。
詳細はもっともっと複雑なんですが、ざっくりいうと

日本では収入によって、また状況によって一か月の医療費の上限が決まっています。
その上限をあらかじめ証明しておくのが、この限度額認定証で
これを提出すれば、窓口で上限額を支払うだけで済むというものです。
この限度額認定証を取っておかないと、一度医療費を全額払ってから
数か月たってからの払い戻しを受けるという手間がかかります。
貯金のない人や給料支払い前の人に
この立替はけっこうきついので知り合いから借金したり、
給料の前借をしなければいけないことが起こります。
だから、長期や高額な医療を受ける人たちには
この認定証はとても大切なものです。

この長い表現を「白い保険証」でまとめてしまう
センスが無茶だ・・と思いつつすごいなあと思います。
名前ができれば、概念が広がっていくというのは
「医療通訳」という言葉ができて広がっていく過程で実感しています。
「限度額認定証」がこうした誰にでもわかる身近な言葉になって
ひろがっていけば困る人も少なくなります。
もちろん、白くない限度額認定証があることも頭に入れておかないといけません。
だから実態を表していないというのはそのとおりなのですが、
少なくとも協会けんぽの人には通じるので
硬いことを言わずに、こうした言葉の広がりを楽しむ場面があってもいいかなと思います。
また、コミュニティ通訳者はこうした辞書に書かれていない言葉にも
アンテナを張っておく必要があるのだと痛感します。
言葉を集めるという点では、私たちの先生は患者や利用者だったりします。

大学の前期開講日が延期になりました。
コロナ禍の影響はじわじわと社会全体にでてきています。
外国人住民にとっても例外ではありません。
出入国管理についても、様々な通達がでていますので、
あきらめず確認をしてみてください。



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パーソナルスペース

2020-03-17 04:00:48 | 通訳者のつぶやき
私の本業はスペイン語の相談員です。

コロナウィルスが流行り始めた頃、
一番困ったのはクライエントとの距離の取り方でした。

「こころの距離」であるバウンダリーは
プロの通訳者、相談員として仕事を続けるためにも
意識的に確保していますが、
「身体的な接触・距離」は、文化によって違います。

私の通訳言語はスペイン語で
中南米の方を対象に仕事をしています。
握手やハグは一般的な挨拶です。
挨拶をしないと、ぎこちない空気になるし
ラポール(信頼関係)を得るのに時間がかかることもあります。

今では、あのスキンシップ大国(!)イタリアでも
握手やハグやキスはやめるように言われていますが
まだ日本で市中感染が確認されていなかった頃には、
握手やハグを断るのはなかなか大変でした。

とりあえず、握手して、もうしわけないけど
すぐにアルコール除菌したり
そのままどこも触らずに手を洗いに行くという形をとりました。

マスクをする文化のない方々の前でマスクをするのも
相手にとっては嫌だろうなと思いながらも
ごめんねと言いながらマスクをして対応していました。
(今では、相談者のほうがマスクをしてきます)

15年程前に、医療通訳者の立ち位置の議論をしたときに
言語によってパーソナルスペースが違うことがはっきりしました。
教科書に書かれたような対応だと
言語によっては患者や家族とのラポールが築けないことも感じていました。
外国人を対象とする通訳者には異文化対応の視点が常に求められます。
医療通訳者には医療行為はできません。
でも、私は横にいるだけで血圧が下がるような医療通訳者が理想だと思っています。

感染症は一時的ではあるけれど
人と人とのパーソナルスペースをかえるなあと少しさびしく思います。

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感染症の医療通訳

2020-03-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ある感染症の先生とお話をしていたときのことです。

私「感染症の患者さんの医療通訳が難しいのです」
先生「そりゃ、個人の自由を制限したり、束縛したりしなければならないことがあるから
感染症の通訳は難しいよ」

あ~なるほどなあ。
実は私が縁あって参加させてもらっている学会は
「日本渡航医学会」と「多文化間精神医学会」です。
(家族のことがあってからここ5年程参加できていませんが)
どちらも学会に参加されている医師やコメディカルの人たちに
誘ってもらって参加しているのですが、
確かに、感染症と精神科はどちらも「個人の患者」としてだけでなく
「社会の患者」である側面があるため、措置入院や治療などの
強制力が働くケースがあり、それを理解してもらうのが大変です。
だから、より医療通訳が必要なのだと思います。

私が医療通訳を制度化したいと思った理由のひとつに
結核患者さんの通訳の時の経験があります。
すでに排菌していた患者さんだったのですが、
入院を拒んでおり、その説得には本国家族の生活や
社会保障制度の理解、文化的背景も絡んできました。
結核を周囲に蔓延させることはできません。
説得の通訳が続きました。
もちろん、通訳者は自分の言葉を付け加えることはできません。
ただし、通訳をする中で医療通訳者が感じ取る感染症に関する考え方の違いや
医療制度の違い、社会とのかかわり方の違いについては介入の必要な場面もありました。

そうした中で、医療通訳はどの立ち位置であるべきかを
とても悩んだことがきっかけです。

だから、「感染症」と「精神科」の通訳は
より高度な知識と通訳技術とともに文化の仲介ができる能力や制度理解が
必要になってくると考えています。

今回のコロナウィルスによる感染については
10年前の新型インフルエンザの時と同様
同席することで通訳者の感染リスクが上がるのであれば
電話通訳などに切り替えていくことを推奨しています。
医師や看護師はそこにいないと治療ができませんが
医療通訳者はそこにいなくても音声や手話の場合はskypeなどの映像で通訳できます。
そこに通訳が「いる」か「いないか」の2択ではなく
合理的な方法を導き出し、それを比較勘案してみることが大切です。

コロナウィルスがこれ以上広まらず、
一日も早く終息に向かうことを祈って
市民のひとりとして何ができるかを考えたいと思います。





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