MEDINT(医療通訳研究会)便り

医療通訳の制度化を目指す医療通訳研究会(MEDINT)のコラム
~みんなで 医療通訳者を増やし、守り、育てよう!~

外国人支援と医療通訳

2008-01-30 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
外国人の母語での相談を受けていると、医療通訳につながることが非常に多いと感じます。

たとえば・・
勾留されている被疑者がHIV患者だった場合。
DV加害者が薬物中毒で治療が必要な場合。
交通事故の示談交渉の通訳をしていて、後遺症認定の通訳をする場合。
糖尿の治療が必要で働けないので生活保護を申請する場合。
労災事故で、治療がうまくいかなくて医師と話し合いが必要な場合。
学校でこどもがけんかして歯を折ってしまった場合。
臓器移植のために家族を呼び寄せるビザを申請する場合。

日本で生活している以上は、病気や怪我で病院の世話になる機会が少なくありません。家族に高齢者や小さい子供がいればなおさらです。

また病気に起因する生活上の問題もあれば、生活や仕事上のトラブルから病気になるケースもあります。
そこには明確な線引きはなく、今までは外国人支援の一環として私たちは医療通訳に携わってきました。
もちろん、言葉の問題のあるところに、医療通訳がいなかったわけではありませんが、今でもこうして明らかな線引きをしない形でたくさんの方が活動しています。

支援通訳の一環として医療通訳が成立しているのだから、このままでいいではないか、特に取り立てて医療通訳を議論する必要はないのではないかという意見もあるかもしれません。
ただ、支援通訳では福祉や法律、学校や日常生活、余暇や就労についてまで本当にたくさんのことを扱います。それこそ、年金制度から学校行事、溶接の試験からサッカーの試合、恋の悩みまで何でも通訳しています。

その上に高度な医療の専門用語や日本の医療制度を通訳自身が理解するのは、とても大変なことなのです。
でも、医療通訳との間に明確な線引きのない現状では、生活相談の通訳から告知や高度医療の通訳に知らないうちにテーマがうつっていて、そのまま高度な医療通訳に突入していることも少なくないのです。
「ここからは私に荷が重過ぎるので通訳できません」とはいえないのが現場です。
通訳を使い慣れていない人には、その辺の違いがなかなかわかってもらえません。
私も何度か通訳現場を逃げ出したくなったことがありました。

「医療通訳」という言葉をわざわざ使っているのは、医療通訳の特殊性と専門性をわかってもらいたいからです。

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情報の伝え方

2008-01-23 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
手術説明やインフォームドコンセントの中で「死」という言葉を訳さなければいけない機会は少なくありません。
医療従事者にとっては、「死」は日常の中にあるかもしれません。
しかし、患者にとってはもちろん非日常であり、その言葉だけで体調を崩したり、気持ちが落ち込んだりということも少なくありません。
医療通訳者にとっても、とても難しい通訳になります。

先日、この「死ぬ」という言葉をどう訳すかで議論になりました。
「他の言葉で言い換えをする」という人と「きちんと訳す」という人にわかれました。
たぶん、医療通訳者なら、患者が成人で判断能力のある大人である場合はきちんと訳すべきですが、その言葉が患者本人に大きな影響を与えるといった場合は本当に迷います。

ただ、その「死」という言葉を使う場面で、患者は医師の態度や表情を見ています。コミュニケーションは言葉が基本ですが、それ以外の雰囲気でかなりのことは患者に伝わると思います。

10年以上前の話ですが、帰国強要を感じる形で「死」という言葉を使った医師がいました。その時は、そのまま本人に伝えました。本人は病院を変えて、今でも生きています。もしそのまま訳していなければ、病院を変えるという選択にはつながらなかったかもしれません。

逆に、本当に親身になって本人の病気について告知している場合は、通訳していても患者の心に届いていると感じます。

また、手術前説明で、やたらと出てくる「死亡の可能性・・・%」という言葉に手術を怖がってしまった患者もいました。でも考えてみれば日本人であっても同じ説明を受けているのです。怖がらせるのではなく、きちんとした情報として本人に伝えておくことが大切なのではないでしょうか。

正しい意味が伝わっていないというのは問題ですが、言葉を言い換えることによって正しい判断を阻害してしまうことは避けなければいけません。
患者に特別な擁護が必要な場合を除いて、医療通訳者にとっては、日本語話者が診察室で得ることの出来る情報と同じクオリティのものを患者に提供することがまず大切だと思っています。

この議論に正解はありません。それぞれの通訳者がその場その場の判断で積み重ねていくしかないと思います。
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明日で13年

2008-01-16 16:39:15 | 通訳者のつぶやき
しつこいようですが、今年も神戸在住の被災者の一人として、特別の思いで1月17日を迎えます。

もう13年経つのですね。
震災を経験したものの間では、「震災前」と「震災後」という時間軸があります。
三宮の町や慣れ親しんだ建物などが前と後で違うので、記憶の中で「BC(紀元前)」と「AC(紀元後)」のように区切られています。
私が未だに外国人支援の仕事を続けているのは、この震災の時にできなかったことへの悔しさが原動力になっています。

医療通訳が想定しなければいけない問題として、様々な緊急事態があります。
地震、津波、洪水など大規模災害はもちろんのこと、最近ではJR福知山線脱線事故のような大規模事故、不特定多数を対象としたテロ、鳥インフルエンザやSARSなどの感染症の問題など、外国人だからと特別扱いできるものではなく、災害現場での支援に差はありません。
情報弱者といわれる人々をどのように援助できるのか。言葉の問題は医療の基本です。
いざというときに、通訳者と現場がどうネットワークを結ぶことができるか。誰がコーディネートするのか。本気で議論をしておかなければと思います。






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答えていく力

2008-01-09 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
以前といってもそんな遠い昔ではない数年前。
「医療通訳は患者の人権」という概念は定着していませんでした。

日本に定住していない外国人は病気になったら帰国するものという考え方が一般的でした。また「郷に入れば郷に従え」で、もし日本語が出来なければ自分で通訳をつれてくるのが常識とも言われました。
同行する通訳は友人や親戚なので、交通費も自己負担でまるで家族のように患者のケアもしてきました。精神疾患の患者も感染症の患者も医療に関する知識もないのにお手伝いしてきました。今考えるとぞっとします。



最近になって、医療機関の中で、「医療通訳は専門的な知識の必要な通訳であること」と「そのための費用負担が必要である」ということが少しずつ浸透しつつあります。
通訳の出来る人間に対するボランティアの押し付けも減ってきました。
その代わりに、それではきちんと通訳してくれる医療通訳者はどこにいるのかという問い合わせが去年あたりから増えてきています。

医療通訳の専門性の社会的認知と費用負担に関するコンセンサスが取れた段階で、やっと制度化に向けた整備へ進んでいくことになります。
今度は私たちが医療機関にもとめるばかりではなく、医療機関の求める医療通訳者像を一緒に作っていく必要がでてきました。
たとえば通訳者のレベルをチェックするための検定、倫理コードに従うための研修や通訳者団体の設立、そして専門職としての報酬の確立とその仕組みつくりです。
どれから手をつけていいのかと思いますが、私は通訳者なので通訳のことしかわかりません。医療機関に求められる医療通訳者の育成と派遣の形を模索し、要求に答えていくことが今年の目標です。
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2008年もよろしくお願いします

2008-01-02 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
阪神大震災後、すっかり年賀の挨拶を辞めてしまいました。
このブログを読んでくださっている皆様のご健康とご活躍を祈念しています。
今年もよろしくお願いします。

さて、2008年の最初にちょっとおもしろいサイトをご紹介したいと思います。
文部科学省が作っている「未来技術年表」です。

http://jvsc.jst.go.jp/shiryo/yosoku/

これは、文部科学省科学技術政策研究所が5年ごとに実施している「技術予測調査」において、科学技術の専門家たちが予測した2035年までの世界を紹介しているもので、私たち通訳者にとって関係深い技術も含まれています。これからの医療通訳を考えるときに少し頭に入れておいたほうがいいかもしれませんね。

例えば
2018年 「社会技術 海外とのコミュニケーションを円滑に行うための携帯型音声自動通訳装置 」の実用化

2018年といえばあと10年。今でも簡単な旅行会話は携帯電話に搭載されていますが、これがコミュニケーションを円滑に行うものまで発展するということですね。
通訳者にとっては大きな脅威です。

そしてそれからたった3年後・・・・

2021年 「社会技術 単に言語を通訳するにとどまらず、発言の背景にある文化、慣習や社会規範などの情報を表示して国際コミュニケーション、相互理解を促進する技術 」の実用化

13年なんてあっという間です。
その間に科学技術の力で外国人医療の言葉の問題が解決すれば、それは画期的なことでしょう。

これが本当に実現すれば、私たち通訳者は失業しますが、たとえば自分の現在話せる言語以外の言語で通訳を介さずに世界の人たちと直接会話できるというのは夢のような話ですね!
通訳者も生き残りをかけて、様々な技術を身に付けていかなければいけない時代になりそうです。


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