MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

「30万円」と「300千円」

2006-09-27 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
通訳者がメモを取るのは鉄則です。通訳者も人間ですから、間違うこともあります。しかし、間違いを最低限に抑える努力をするのがプロです。
だから、通訳者にとってメモ取りは非常に重要な技術の一つです。
時々、メモなんかとらなくても全部頭に入っているからという「つわもの」に出会います。とても真似できないと感心しつつ、本当かなあと疑ってしまうこともあります。
特に、メモが必要な言葉が「固有名詞」と「数字」です。
医療通訳の中では、まあ100万くらいの単位がすっと変換できれば、ほとんど大丈夫だとは思いますが、油断をすると大変な目にあいます。
ある人が出産のための入院手続きに行きました。通訳した人が「出産費用は3万円」というので夫は安心していたら、退院時に30万円請求されて驚いたといいます。日本では出産には公的保険がきかないので、通常分娩の場合30万円~の費用がかかります。ただ、国民健康保険や社会保険に加入していると、出産後、出産育児一時金がかえってくるので、それでカバーできる仕組みになっています。収入の低い世帯では助産制度を利用しますが、それでも3万円というのは聞いたことがありません。
あきらかに通訳した人か聞いた本人のどちらかが「3万円」と「30万円」を聞き間違えたことになります。実はこれが日本語の少し難しいところで、日本の「万円」という単位はたとえばスペイン語に訳す時には注意が必要です。たぶん英語も同じだと思うのですが、数字は千の単位で区切ります。だから「30万円」を訳すと「300千円」という訳語になります。ややこしいので、私はいつも自分の頭の中で作業するときは、日本円であっても千の単位で考える習慣をつけています。
これがメモをとって、数字にするとすっと頭に入ってきて間違いにくくなるのです。電卓や領収書にも千の単位でコンマがはいっていますし。
固有名詞も同じで、なんかわからなくてメモしておいて後で推理(?)することもありますし、聞き返すときも最低限の質問ですみます。辞書で調べるときも、知らない単語は一度メモしておいたほうが、調べているうちに忘れるということもありません。
通訳者は完璧に訳せてはじめてゼロの仕事です。そこから少しでも誤訳して減点され、利用者の不利益にならないようにという闘いの連続なのです。

追伸:いよいよファイターズはマジック1になりました。今から飛行機で札幌ドームの最終戦応援に行きます。私はレフトスタンド(札幌ドームのホームは3塁側です)で応援しているので、皆さんもテレビ(放送あるかな?)で応援よろしく!
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栄養指導の通訳

2006-09-20 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
内容は簡単なのに、意外と難しいのが栄養指導の通訳です。
糖尿病や高血圧などの成人病患者には、診察のほかに栄養士による栄養指導や食事指導があります。その際に通訳同行するんですが、これが難しい。
私は南米にいるとき野菜を使った食生活改善の仕事をしていました。その中で、人間にとって食はもっとも「保守的」な本能なのだとしみじみ感じました。食べることは生きる喜びです。育ってきた環境や文化を背景としたものを食べて私達は成長します。そこには育ててくれた人々や社会の嗜好が色濃く反映されます。
私は南米の家庭料理、アロス・コン・レチェというご飯を牛乳で甘く煮たものがどうしても食べられない(というか許せない!ご飯に牛乳なんて・・)のですが、ブラジルの人は豆を甘く煮たおはぎは嫌いだといいます。ところ変われば、人の嗜好は様々です。
一般的な日本食を食べている人の場合、お肉を大豆に代用したり、魚に代用するのは、よほどの肉好きでない限り、そんなに苦ではありません。でも、肉を主食として生活してきた人たちには、私達の白いご飯がなくなるに等しい感覚であったりします。軽く「肉はやめましょう」という言葉の中に死刑宣告にも近い響きを感じることもあるのです。
ただ、難しいのはそこではなくて、食事内容の聞き取りです。今朝何を食べましたか?昨日夜何を食べましたか?という質問に「野菜スープ」とか「りんご」とか答えるのですが、いかにも「正解」を答えているようで、「本当?」と聞き返したくなる時があります。通訳者は予見をさしはさんではいけないんですが、野菜スープとりんごではその身体にはならないだろう・・とか思ってしまうんですね。
それを、糖尿病の講義をしてくださったK先生に話すと、それは文化の問題ではなく、日本人も同じですよといわれました。通訳者はいかにも・・・な嘘をついているみたいで、なんとなく後ろめたい思いをするんですが、世界共通の患者像(?)だったのですね。K先生を通して成人病の栄養指導の難しさを垣間見た気がしました。

追伸:ご存知の通り、日本ハムファイターズが大変なことになっています。ということで、突然ですが来週27日は札幌ドームに行ってきます。更新が少し遅れるかもしれません。その時はごめんなさい。
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言霊(ことだま)

2006-09-13 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
突然ですが、MEDINT便りに兄弟ブログができました。「医療通訳研究会(MEDINT)活動報告」です。MEDINTは「通訳派遣もしていないし、事務局もないし、いったい何している団体?」という疑問にお答えして、MEDINTの日々の活動を報告します。関西中心ですが、医療通訳の制度化にむけて、ぼちぼちと結構いろんなことやってるんですよ。このブログにお越しのついでに是非お立ち寄りくださいね。

さて、今日は通訳者の「言霊(ことだま)」について話します。
ウィキペディア(Wikipedia)によると、言霊とは「一般的には日本において言葉に宿ると信じられた霊的な力のこと。声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与えると信じられ、良い言葉を発するとよいことが起こり、不吉な言葉を発すると凶事がおこるとされた。」だそうです。
この21世紀になんと非科学的なことを・・・といわれそうですが、これは結構医療通訳の中で感じることなのです。MEDINTでは「医療通訳者の代理受傷・二次受傷」についての研究をすすめていますが、通訳者から「汚い」「つらい」言葉を訳すときのしんどさを聞くことがあります。
精神疾患の通訳の時に多いのですが、先日は「癌(かもしれない)」という言葉でも、本人のショックを考えるとつらかったという話を聞きました。医療通訳者は医療従事者よりも精神的に患者に近いと考えられます。患者がショックを受けたり、顔色が変わったりといった変化も身近に感じます。機械ではないので、その言葉が心に突き刺さったり、重くのしかかったりします。プロならばそういうことはないといわれますが、プロは患者との個人的なかかわりやシンパシーを持たないし、言葉を忘れていく訓練もできているからそうなのであって、はじめから何も感じなかったわけではないでしょう。
慣れない通訳者やかかわりの深い人の通訳では、こうした言葉が魂も持って通訳者に影響を及ぼす可能性があります。通訳派遣や制度化を考えるとき、そのことを想定して、コーディネーターやスーパーバイザーの配置が絶対必要です。
言葉に魂が宿るという概念は、国籍や育ってきた環境やその人の感受性などにもよるかもしれません。ただ、言葉のやり取りは非常に繊細な作業であることを少しでも知っていただければと思います。

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今回は宣伝させてください(笑)

2006-09-06 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
今回は少し宣伝をさせてください。
南山堂「治療」9月号で「プライマリ・ケアのためのよりよい外国人診療」が特集されています。
医療通訳だけでなく、制度・専門別・国籍別の治療についての投稿もされていて、幅広く外国人医療を網羅しています。
MEDINT村松も「医療通訳の諸問題」について書かせてもらっています。
通常は医師向けの雑誌ですが、外国人医療にかかわる皆さんにも役に立つと思います。

ここでは目次をご紹介します。

今月の視点 (小林米幸)

■総 論
外国人医療 (小林米幸)

■言葉の問題をいかに乗り越えるか
医療通訳の諸問題 (村松紀子)
医療通訳派遣システムについて (鶴田光子)
電話通訳 (鈴木亮子)
通訳を雇用することは経営にどのような影響を与えるのか? (小林米幸)
英文診断書,領収書などの雛形 (木戸友幸)

■医療費をどうするか
外国人にも使える医療・福祉制度 (大豆生田美智江)
医療機関が行政に請求できる制度―未収医療費補填制度― (片岡優子)
医療費の未収を生まない努力 (中西 泉)
民間保険の仕組み (小林米幸)

■国別にみる疾患・風俗・習慣の違いと食事指導の問題
中国人患者を診る (早川浩市)
韓国人患者を診る (金 光宇 他)
タイ人患者を診る (羽生 仁)
ブラジル人,ペルー人患者を診る (井田 健)
欧米人患者を診る (栃倉慶子)
ベトナム人患者を診る (和田南美)
フィリピン人患者を診る (石間フロルデリサ)
イスラム圏の患者を診る (レシャード・カレッド)

■疾患の違いをどのように乗り越えるか
外国人診療における感染症 (濱田篤郎)
在日外国人とHIV (池田和子)
成田空港での外国人医療 (牧野俊郎 他)

■母子保健の違い
外国人母子保健医療の特徴 (中村安秀)
予防接種制度の国際比較 (高梨さやか 他)

■外国人を受け入れてどんな問題があるのか ―医療先達の取り組みに学ぶこと― ~総合医療機関として~
国際外来新設 -新たなる取り組み- (南谷かおり)
聖母病院 (市瀬裕一)
神戸海星病院における外国人医療-プライマリ・ケア医に望まれる知識- (山本厚太)

■外国人を受け入れてどんな問題があるのか ―医療先達の取り組みに学ぶこと― ~各診療科の医療機関として~
産科からみたよりよい外国人診療 (中山摂子)
婦人科からみたよりよい外国人診療 (田宮 親)
小児科からみたよりよい外国人診療 (諏訪美智子)
消化器科からみたよりよい外国人診療 (小林米幸)
心療内科クリニックを受診する外国人 (阿部 裕)

■海外の医療機関における「外国人医療」の対応と問題点
バンコク病院における外国人医療サービス(とくに日本人向け医療) (ソムアッツ・ウォンコムトォン 他)

■困ったときの相談先
全国一覧表 (庵原典子)


いかがですか?
なかなか面白い内容でしょ。
よかったら手にとって見てくださいね。
http://www.nanzando.com/journal-chiryo/c0609.php
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