MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

「医療通訳」と「保健通訳」

2005-02-12 12:13:22 | 通訳者のつぶやき
この分類の仕方が正しいかどうかはわかりませんが、「医療の現場」と「保健の現場」の通訳では、期待される役割も必要とされる技術も明らかに違いがあります。ただし、医療通訳をしている人が両方を兼ねているケースが多いため、今まで特に違うものとは考えず、「医療通訳」として扱ってきました。

では、どちらの通訳ケースが多いかというと言語によって個人差もあるでしょうが、私の場合、「医療現場の通訳」と「保健現場の通訳」はほぼ半々くらいの割合です。保健関係の通訳の場合、「予防接種や検診の問診」、「HIVや結核などの感染症相談」「子供の発達や発育に関する相談」「会社の健康診断の結果に関する相談」などの通訳が主なものといえるでしょう。

需要が多く、また楽しいのは子供の検診通訳です。「話しかけると視線があう」「積み木を二つ三つ重ねる」「階段をはってあがる」「意味のある言葉を言う」など子供の発育に関する質問がたくさん相談票にかかれていて、事前にそれをひとつづつ埋めていかなければいけないのですが、子供の成長振りが質問の間から垣間見えてなんともほほえましいです。  

しかし、外国人の子供は検診受診率が低いという指摘があります。この問診表の質問の複雑さと量をみれば回答が億劫になって、特に異常や気になるところがなければ検診にいかなくてもいいかなと思ってしまう気持ちはなんとなくわかります。愛知県のある市では保健所にポルトガル語の通訳をおいて検診受診率を日本人並みにした保健所があるそうです。

また、予防接種の問診票に関してはAMDA国際医療情報センターが出版している「8ヶ国語の母子保健テキスト 妊娠から出産まで」のなかに、とてもいい翻訳がありますので、相談の中では通常これを使っています。ただし、質問の内容は同じなのですが、各市町村によって、質問の順番が微妙に違えてあって、他の問診表との併用はだめですといわれる場合は、翻訳の方とその市町の問診票を番号でつないでつかうようなこともあります。全国統一の問診票があればいいのにといつも思います。

地域に根ざした保健ということで市町村や都道府県を単位に活動するのはそれなりに意義のあることだと思いますが、外国人の場合絶対数が日本人に比べて少ないので、全国レベルでの施策を展開して欲しいと思います。そうすれば、ひとつの翻訳で日本全国の外国人が利用できるからです。予算のない、または外国人人口の少ない地域でも翻訳をコピーさえすれば「問診票」や「検診に関する質問・お知らせ」などの活用が可能になります。そうすれば通訳がいなくても、保健所内である程度の意思疎通は図れます。

少数言語では医療通訳の人数は限られます。こうした翻訳資源を活用して通訳をつかわなくても意思疎通できる場面では通訳をつかわなくてもいいようにしてもらえれば助かります。そのかわり、医療通訳は研鑽を積んで大切な場面できちんと役割を果たせる専門家となることを望んでいます。