MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

どこで死にたいか

2015-04-13 00:00:00 | 通訳者のつぶやき

80年代、90年代に出稼ぎで来た人たちは
在留が20年超になっています。
若かった労働者も、いろいろとガタがくる中高年に。
かくいう私も一緒に年を取りました。

最近は医療通訳の後に老後の話をすることが増えました。
話は死に場所に及ぶこともあります。

いつかは国に帰りたいのか
子どもや友人のいる日本で死にたいのかでは
老後の準備や覚悟がずいぶん違ってきます。

先日、全身にがんの転移をしている高齢の女性と話していました。
彼女は日本国籍をもっているけれど、日本語は話せません。
日本に家族はいるけれど友達はいません。

日本ならこれまで通り治療を受けることができます。
母国ではお金がないと治療は保障されていません。
治療のことを考えると日本に残るほうがいいのではないかと思います。
もちろん、みんなで日本に残るように説得しました。
でも「日本では死にたくない」という言葉に
ノックアウト、諦めてしまいました。

「日本で死にたくない」
たとえ、お金がなくて治療が受けられなくても
自分の国に帰りたい。
もしかしたら母国には彼女をケアする人は誰もいないかもしれない。
それでも帰りたいと言われたらどうすることもできません。
子どもではなく、長く生きた人生の先輩。
その人が帰るというなら止めることはできない。

ただ、やっぱり日本に戻ってきたときに
「なんで戻ってきたんだ」という言葉は言わないようにと思います。

ある人は長い日本での無理な仕事がたたって
ヘルニアになってしまい、歩くのも困難になっています。
これ以上仕事をつづけたら本当に歩けなくなってしまうかもしれません。
何のために本国に送金し、家族をささえてきたのかわからなくなります。
歩けるうちに、自分で仕事をやめて本国で第2の人生を探すほうがいいのか、
それとももう少し頑張ってできるところまでお金を貯めるか。
歩けなくなってから帰国するのはある意味、決めやすいです。
また余力のあるうちに仕事を辞めたり、帰国する決意をするのが本当に難しい。

かくいう自分だって、
老後のことはきちんと考えなくてはならないとおもいます。

ある国に赴任していた人は
病気になった時、這ってでも日本に帰りたいと思ったと言っていました。
その国でも高度な医療を受けられる機会があるにもかかわらずです。

日本で治療したいという人の願いはもちろん叶えたい。
それと同時に、帰りたい人の気持ちも理解できる通訳者でありたいと思います。

コメント
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