MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

医療訴訟と医療文化

2008-08-27 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
外国人医療で何が不安かということを
医療従事者の方々にうかがうと
「言葉」、「お金」と並んで
「医療訴訟」という言葉がでてきます。

実際にずっと外国人の相談を受けていて、
医療訴訟に発展するケースは非常に稀ですが、
医療文化の違いや日本の医療に対する理解不足が原因で
外国人患者の方が医療者に不満を持つケースは少なくありません。

ただし、
そうした不満の多くは患者が診察を始める前もしくは病院を選択する前に、
ある程度の日本の医療文化に関する知識をもっておくことで防止できたり、
逆に病院側に患者の出身国の医療文化を事前に理解してもらうことで、
特別な配慮をもって診察に臨んでもらえることで回避できるものもあると感じます。

医療通訳者が文化の問題を語るということは、
「できるのか」「してよいのか」どうかも含めて議論されなければいけない問題ですが、
実際に医療通訳者は様々な場面で医療文化の翻訳者になっています。

ある国際交流協会が医療通訳者を登録するに当たり重視するのは
その当該国での生活体験だと言っていました。

患者の立場に立って、
日本の医療との架け橋になるためには、
その国での生活体験が大切になってきます。
医療現場での治療体験や公衆衛生における生活体験は
医療通訳者としてとても大切なことです。
もし、そうした経験がないならば、
言葉とともにこうした現地の医療事情を勉強しておく必要があるでしょう。
また、日本の医療や制度に精通していることも通訳する上で必須です。

もちろん、外国人患者の治療件数が増えれば、
一定数の医療過誤事件が起こるのは仕方のないことです。

これについては医療通訳者は誤訳による医療過誤をおこさないように
最善の努力をするということくらいしかできません。
ただ、「医療過誤以前の誤解」によるトラブルはできる限りなくせるように
医療通訳者にできることを模索していければと思っています。

インドネシア人介護士について

2008-08-20 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
<看護・介護>インドネシアから受け入れの205人が来日
8月7日19時50分配信 毎日新聞

 日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づいて受け入れるインドネシア人看護師・介護福祉士候補者のうち日本語研修を免除された3人を除き、7日に来日した205人は、国内7カ所の日本語研修センターに入所した。

 東京都足立区の海外技術者研修協会(AOTS)東京研修センターには同日午後1時、看護師候補の男女23人が到着。8時間を超えるフライトに疲労の色をにじませながらも、職員らの出迎えに「コンニチハ」と笑顔で答えた。栃木県内の病院で働く予定の男性看護師、ダセップ・サエプル・アンワルさん(27)は「3年で試験に受かるため一生懸命がんばりたい。いい仕事をして、できれば長く日本で働きたい」と抱負を語った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080807-00000102-mai-soci

医療通訳の制度化より先に、
医療現場の国際化が進むことは悪いことではないと思います。

ただ、「人が足りないから」という理由だけで
外国人労働者を受け入れるのでは18年前の入管法改正となんら変わりません。

外国人労働者を守る法整備が必要です。
現在の研修員制度の二の舞を起こしてはなりません。

福祉、子どもの教育やコミュニケーションにかかるコストなどは、
施設や企業ではなく、結局すべて地方自治体や地域社会にかかってきます。
労働者が病気になってしまったり、
本国から家族が来日したらどうするのかも考えなければなりません。

人は少しでもいい生活がしたいと考えます。
だから外国人労働者だからといって、
いつまでも低賃金で不安定な立場での仕事に甘んじているわけではありません。
日本における介護士の職場環境が改善しない限り、
いつまでも日本の介護士でいてくれるとは限りません。、
技術をもった人材はより条件のよい国へと移っていってしまうことでしょう。

現場で起こる文化の問題や言葉の問題はどのように解決していくのでしょう。

インドネシア人介護士の受け入れは終わりではなく始まりだと思います。


今週限定でご意見を募集します!

2008-08-13 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
MEDINT便りでは、2004年3月からとぎれとぎれですが、
医療通訳について感じることをいろいろと書いてきました。
必ずしも頻繁な更新ではなく、途切れがちでもあるこのブログを
辛抱強く読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。

このブログをはじめた頃は、どこでも医療通訳=ボランティアといわれました。
もちろん医療通訳に「ボランティア精神」は必要なのですが、
私たちは専門職としての責任感と誇りをもって仕事に当たっています。
この命に関わる通訳を軽い気持ちで行ったことはありませんし、
いつも誤訳やトラブルが起こらないようにどきどきしながら仕事をしています。
なのでボランティアといわれ悔しい思いをしたことは一度や二度ではありません。

最近は、医療通訳に専門性が必要であること、経費がかかること、
そして何よりも医療通訳を使うことは人権であることを多くの方々が
理解してくださるようになりました。
神奈川県や京都市などの先進地域ではすばらしいシステムも進んでいます。
多くの通訳者の方々が医療通訳に目をむけ、
医療従事者の方々もその重要性を認識してくれつつあります。
大学などでも取り組みもはじまりました。
私は特に何もしていませんが、すごい進歩だとおもいます。

そこで、突然ですが今週(8月13日から19日)だけ、
医療通訳について皆さんのコメントを受け付けたいと思います。

コメントをいただいてもきちんと返せなければ申し訳ないので、
いつもはコメントをいただかないようにしているのです。
でもちょうどお盆休みで講座や活動も休んでいる時期なので、
一度、どんな方がこのブログを読んでくださっているか、
知りたいと思いました。

お名前はハンドルネームで結構ですので、
是非ご意見、ご感想をお寄せください。
できるだけお返事を返せるようにがんばります。
8月19日まで限定です。
お待ちしています。

PS:ちなみに、悪意の書き込みや趣旨に合わないものは、
こちらの判断で削除させていただきますのでご了承ください。

コメントは締め切りました。
ありがとうございました。

ネイティブ通訳の重要性

2008-08-06 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
皆さんの母語は何語ですか?

「母語」という表現が正しいかどうかわからないので、
もっとも自然に使える言語とでもいいましょうか。

もしかしたら、ひとつもない人もいるかもしれないし、
複数持つ人(うらやましい!)もいるかもしれませんね。

私の場合は日本語です。
夢も日本語で見るし、
仕事以外でものを考えるときは日本語です。
「恋の歌」だけはスペイン語の方が心に響くのですが、
本を読んだり、日記を書いたりするのも日本語です。

医療通訳者には日本語ネイティブと外国語ネイティブの人がいます。
もちろん、完全にバイリンガルの人もたまにいますが、
どちらかの言葉を基本としている人が通訳であることがほとんどです。

日本語ネイティブ医療通訳者が過半数を超える言語は、
たぶん英語とスペイン語くらいではないかと思います。
そのほかの言語の医療通訳はほとんどが外国語ネイティブ通訳者が担っていると考えられます。

ここでは便宜上、外国語ネイティブのことをネイティブ通訳者と呼びます。

今年、MEDINTでは、大同生命の研究助成を受けて
「医療通訳におけるネイティブ通訳者の重要性」についての研究をしています。
日本各地で活躍されているネイティブ通訳者の方々の生の声を聞いて、
今後の研修や制度化の際の配慮などについての意見をまとめていきます。

「同じ国の人だからわかりあえることがある」といわれると
残念ながら、私は何も言えません。
私は所詮、ネイティブ通訳者ほど患者により添えないだろうと思うからです。
そしてネイティブ通訳者の方々は、本当にいつも一生懸命で、
時には自分を犠牲にしても尽くすことがあります。

だから、同胞のために医療通訳をすることへの思いの強さに、
どの方とお話させていただいても心を打たれます。

医療通訳研究会は医療通訳者の当事者団体です。

もし、将来的に認定制度や検定制度ができて、
これだけ一生懸命医療現場をささえているネイティブ通訳の人たちが、
現場から阻害されたり、不利益をこうむるような制度化があってはなりません。

そのために、多くの声と意見をまとめていければと思っています。
そのときは是非ご協力をお願いしますね。