暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

畠山記念館(2) 「煙寺晩鐘図」と「一休墨蹟」 

2011年11月15日 | 美術館・博物館
畠山記念館・平成23秋季展(12月18日まで)は
畠山即翁生誕130年没後40年記念 「茶人 畠山即翁の美の世界」となっていて、
柿の蔕茶碗「毘沙門堂」(16世紀朝鮮時代)など見ごたえのある作品揃いです。

畳に座って拝見した「煙寺晩鐘図」と「一休宗純墨蹟」が印象に残りました。

              

朝もやなのか、夕がすみなのか・・・
天、地、事物が混沌と一体になった、煙るような水墨画の世界。
刻々と変化する気色の中、一条の光が横切る瞬間、
遠くに樹木に覆われた寺院の屋根らしきものが見て取れます。

中国南宋時代(13世紀)の禅僧、牧けい筆と伝える「煙寺晩鐘図」(国宝)、
画中に吸い込まれていくと、幽かに晩鐘が聞こえてくる・・・
そんな味わいのある名作です。
足利義満所持の「瀟湘八景図」の巻物が、義満時代に切断され、掛軸となって
今日まで伝わったもので、四点の内の一つだそうです。

どこかで似たような水墨画との出会いが・・・と、
昭和美術館の「周茂叔 愛蓮図」(狩野探幽筆)を思い出しました。

                

久しぶりに一休宗純の墨蹟に出会い、二行に書かれた禅語を見て驚きました。
   応無処住 
   而生吾心 

   応(まさ)に住する処を無くし 
   而(しか)もその心を生ずべし

10月16日の蓮華院茶会で掛けたのと、同じ禅語でした。
枯れた墨の色と独特の書体が一休禅師の書の世界へ心地よく誘います。
気迫あふれる書は、禅語の意味するところを鋭く、シンプルに、
吾心へ突き刺してきて、なかなかその場を離れられませんでした。

                

展示室内に設けられた茶室「省庵(せいあん)」で、
床の竹花入にいけられた磯菊と筧の水音を愛でながら、
薄茶一服を頂戴しました。

大満足な午後のひと時でした。


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畠山記念館(1) 「からたち」

2011年11月14日 | 美術館・博物館
11月5日、「炉開きと口切の会」を終えた安堵感もあって、
畠山記念館へ向かいました。
「茶人 畠山即翁の美の世界」展が10月8日(土)~12月18日(日)まで開催中です。
お目当ては、伊賀花入「からたち」と「煙寺晩鐘図」(伝 牧谿筆)です。

一人なので、白金台駅から初めて歩くことにしました。
駅員さんに教えられた道を行くと、すぐにわからなくなり、きょろきょろ。
通りすがりの女の方が懇切丁寧に教えてくださって、
欅の巨木が聳える道を行き、階段を下り、稲荷社の前を突っ切って左へ曲がると
道案内を見つけ、畠山記念館へ辿りつきました。
徒歩10分位でしょうか。

                  
                  

2階の展示室へ階段を上っていくと、水音がしました。
しばし立ち止まり、清らかな音を愉しみながらゆっくり上りました。
茶室「省庵」(せいあん)の蹲の筧から流れる水音です。
土曜日の午後にもかかわらず、見学者が少なくラッキーでした。

一番に伊賀花入「からたち」を拝見しました。
大きく欠けた口を持ちながらも堂々とした立ち形、
そっけないような四方片耳とそのバランス。
へらで豪快に六角形に削りとられた、胴からの下部の膨らみと線。

上から下まで釉薬の変化が生み出す色彩の妙、
焼け焦げた肌にはイボのようなひっつきがいっぱいあって、
からたちの棘(とげ)を連想して銘がつけられたとか。
歴戦の古武士の面影がありました。

花を入れるとしたら・・・
「うーん、難しい! 
 上臈ホトトギス一枝、なんてどうかしら?」

即翁は昭和9年に光悦会で初めて席を持った際、
その下見に催した茶事で「からたち」を用い、
花と実をつけた綿一枝を入れたそうです・・・。

                

作品解説(エピソード)を読んだとたん、涙があふれてきました。

「からたち」は、16世紀桃山時代の作ですが、加賀金沢に伝わりました。
金沢は裏千家四代仙叟が前田家茶堂として活躍したところで、昔から茶の湯が盛んでした。
昭和9年、即翁が金沢の道具商梶乙を通じて「からたち」を入手した時、
加賀に伝来された「からたち」を県外へ出すことについて抵抗もあり、
問題になったそうです。
即翁が能登畠山氏の末裔ということで了解を得たとか。

「からたち」が東京へ運ばれる日、別れを惜しむ人たちが大勢金沢駅に集まり、
見送ったそうです。
その知らせを聞いた即翁は、人を集め、全員紋付き袴の正装で上野駅に集まり、
心を尽くして「からたち」を出迎えました。

美術品や茶道具を見て、解説を読んで泣くなんて、自分でもびっくりです・・・。


      (2)へつづく                



汲古庵・名残の茶事 (2)

2011年11月11日 | 思い出の茶事
懐石のあと、いよいよ初炭です。

五行棚に黒の紅鉢がお似合いですが、
火床が狭いので初炭まで火種を持たせるのは難しく、
ご亭主の腕の見せ所でもあります。

鵜篭の炭斗に炭が小さく切られ、かわいい枝炭も入っています。
炭が置かれ、香が焚かれました。
香合は妙喜庵古材で作られた銀縁四方でした。
香が薫るころに「パチパチ」という音が幽かに聞こえ、客一同も安堵しました。

微かな薫りと筧の水音に清寂と安らぎを覚えます。
初炭が終わるころ、露地に水を撒く音が聞こえてきました。
銀杏の練切(亀屋万年堂製)を頂き、中立です。

               

銅鑼の合図でにじり口を入ると
床には白い花がぼんやり浮き立って見えました。
近づくと、秋丁子、フジバカマ、白の岩シャジンが籠に生けられていました。
炭火の赤さが黒い紅鉢に映えて美しく、濃茶への期待が高まります。

濃茶点前が始まりました。
まもなく、墨蹟窓の簾が巻き上げられ、
この瞬間、花にもう一度命が吹きこまれたように、別の表情を見せました。
他の簾も巻き上げられ、陰から陽への見事な転換です。

細長い茶入より緑の濃茶が回し出され、湯が汲まれ、濃茶が煉られました。
さらさらと流れるような点前を皆、静かに吸い込まれるように拝見しています。
緊張感と充実感のみなぎるひと時・・・・。
「無心」という銘の黒楽で濃茶がだされ、客四名で頂戴しました。
「室閑茶味清」

濃茶は一保堂の雲門の昔でした。
細長く優しい形の茶入は肩衝長茶入、飯能焼の細井陶遊造です。
作者が志戸呂焼が好きで、土は志戸呂とのことでした。
仕覆は鹿羊文金襴。
茶杓は、えーと・・・・銘「時雨」でした。
 
                 

茶事を通じて思うことが二つありました。

名残の茶事にふさわしい道具のいくつかはご亭主の先生から、
さらには先生の先生から先生へ譲られたお品でした。
道を継ぐ人と場所(汲古庵)を得て、先生方も道具もきっと大喜びでしょう。

水撒き、簾あげなど縁の下の力持ち役の半東はKさん社中のHさんでした。
Hさんとは茶事入門教室以来のご縁ですが、
ご亭主の茶事の半東をこなされ、目を見張るばかりの上達ぶりです。
そして、いつも一生懸命の様子が好ましく、今後の活躍を楽しみにしています。

話しは尽きませんが、ご亭主さま、相伴させて頂いたお客さまと和やかに楽しく
汲古庵でのひと時を過ごすことができ、いろいろなご縁に感謝いたします。

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汲古庵・名残りの茶事(1)

2011年11月09日 | 思い出の茶事
10月30日、名残の茶事にお招き頂きました。

9月末に茶友のKさんからお手紙が届きました。
藤の咲く頃に続いて汲古庵での二度目の茶事へ嬉しいお招きです。
このたびは詰の役を仰せつかりました。

正客のHさん、次客のSさん、三客のMさんと駅で待ち合わせ、
汲古庵へ向かいました。
手入れの行き届いた庭には茶花がいっぱい。
ススキ、桔梗、ホトトギス、野紺菊、ツワブキ、白玉椿が咲き乱れ、
穏やかな秋の日差しが射しこんでいました。
関守石が玄関への案内役です。

                

待合には「秋行帰雁」の画賛。
煙草盆は欅、火入の灰が美しく調えられています。
火入は膳所焼の阿古陀、詫びた風情ながら存在感がありました。

板木を打ちました。
この日は、最初に「トトトトト」と早打し、
それから「トーン トーン トーン トーン 」 四回打ちました。
歌舞伎のきのねのように、ここから茶事が始まります。

                

露地を歩み、蹲をつかい、にじり口から入ると、
席中は明かりがほしいと思うほどの暗さです。
目をこらして床の掛物を見ると、二行の書と菊らしき画が書かれていました。
あとでご亭主から伺うのを楽しみに、点前座へ移動しました。
名残にふさわしく五行棚に黒の紅鉢、小振りな棗釜がぴったりです。

「ご亭主のようにかわいらしいお釜・・」と眺めていると、
早や襖が開きました。
「早かったようで失礼いたしました・・・。
 せっかちな者ですから、いつも早すぎる!と師よりお叱りを受けております」
でも、堂々と茶道口で待っておられました。

挨拶ののち、正客のHさんが軸についてお尋ねしました。

   荷尽己無雨蓋
   菊残猶有傲霜枝

   荷(はす)は尽きて己(すで)に雨を(ささ)ぐるの蓋(かさ)無く
   菊は残りて猶(なお)霜に傲(おご)るの枝有り

蓮の葉は枯れて雨をさえぎる傘のような姿はもう見られないけれど 
菊は残っていて霜にもめげない枝をなお保っている・・・という意味で、
「色即是空 空即是色」の禅の境地を表わしているそうです。

「名残りにぴったり・・・」と伺いながら、
つい2週間前に行った三溪園・蓮華院の茶会盛夏の蓮華、
今は枯れ果てた蓮池の様子が脳裏を横切って行きました。

                 

           (2)へつづく        
  

辛卯の「炉開きと口切の会」 (2)

2011年11月07日 | 稽古忘備録
  (つづき)
先生、社中の先輩方の前で初めての口切でした。

壷の正面の封印を改めてから、小刀をとり、
茶壺と蓋の合口に小刀を突き立てるように入れ、
左手でゆっくり壷を回しながら切っていきました。

蓋を取り、口覆の前に置いて尋ねました。
「いずれのお茶をさしあげましょうか?」
正客は連客と相談の上、所望の茶を決めておきます。
「どうぞ、ご亭主様におまかせいたします」

壷をしっかり持ち、傾けて上合に詰茶を出します。
茶壺から「千代の寿」の袋を選び、右の挽家へ入れ、蓋をしました。
上合を回して、あけた詰茶を「詰」と書かれた左の挽家へ入れ、
残りを壷へ戻します。
この時、「トントントン・・・」と軽く叩いて茶を動かします。
この音も口切のご馳走でしょうか?

壷に蓋をして、封紙をとり、左手で紙を引きながら糊ベラで糊をつけ、
合口に封をし、捺印をしました。
諸道具を元に戻し、口覆をかぶせます。
葉茶上合を水屋へ戻しました。

               
               
かぎ畳へ斜めに座り、左手で網袋と口緒をとり、口緒を懐に入れ、
右手に網を持たし、壷正面へ向きます。
壷を網に入れて、水屋へ下がります。
御茶入日記を下げて、茶道口で挨拶をしました。
「初炭はIさんと交代いたします」

先生と諸先輩から
「とても良かったです。流れるような口切の所作でした」
とねぎらいのお言葉があり、安堵しました。
前日のリハーサルのおかげ・・・と先生に感謝です。

               
              
初炭が終わると、Y先輩とI先輩が前日から腕まくりで作ってくださった
点心、煮物椀(蟹真蒸)、八寸(カラスミと豆腐味噌漬)で一献を頂戴しました。
写真がないのが残念なくらい、盛付が美しく、美味しい点心でした。
それからIさん手づくりの粟ぜんざいもしっかり食べました。

中立のあと、Uさんの台天目で濃茶(千代の寿、上林詰)、
Kさんの点前で薄茶を頂戴しました。
台天目では三つの天目茶碗と台が並び、眼福です。

先生のお心づくしのお道具も素晴らしかったのですが、
適材適所で皆さまの奮闘ぶりが一番心に残りました・・・。

こうして、辛卯の「炉開きと口切の会」が終わってしまいました・・・。
 

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