暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

東京国立博物館「茶の湯」展へ

2017年05月18日 | 美術館・博物館
                

5月16日(火)、重い腰を上げて東京国立博物館「茶の湯」展へ行ってまいりました。

行く予定ではいたのですが、混雑ぶりを想像すると、なかなか足が向きません。
5月10日、東京教室の稽古中にS先生から「茶の湯」展のお話を伺いました。
「えっ!・・・」と驚くようなS先生独特の視点のお話はどれも興味深く、自分の目でそれらを確かめてみたくなりました。

それに37年ぶりという「茶の湯」大展覧会の目的は、茶の湯の全体像を今一度通観してみようと、展示作品数は259点に上るらしい。
ならば茶の湯に携わる者として、茶の湯にかかわる様々な分野の名品を1つでも多く見ておきたい、その中で心に残る作品と魂が触れ合うことができれば望外の喜び・・・というものです。

行く直前に東博のホームページから展示品一覧表を打ち出し、現在展示中のものをチェックしました。
中には展示終了やこれから展示予定もあり、今後の機会があると良いのですが・・・。
○ 重文 油滴天目 京都・龍光院・・・よく真のお稽古で使わせて頂いているので拝見したかったのですが、残念。
○ 国宝 印可状 虎丘紹隆宛(流れ圓悟) 圓悟克勤筆
○ 国宝 偈頌 照禅者宛(破れ虚堂) 虚堂智愚筆
○ 蓮華(東大寺三月堂 不空羂索観音持物)・・・かつて原三渓翁が所持し、昭和8年蓮華院の茶会で飾ったもの。

                


「茶の湯」展で特に心に残ったものをいくつか記念に記しておきます。

○ No.2 油滴天目  中国建窯  南宋・12~13世紀 
(伝来)豊臣秀次・・・西本願寺・・・京都三井家・・・若狭酒井家・・・大阪市立東洋陶磁美術館

今回「茶の湯」展一番のお目当てです。
大阪市立東洋陶磁美術館へなかなか行けませんで、やっと念願の対面が叶いました。
空いていたので展示ケースを廻りながらいろいろな角度で油滴の織り成す小宇宙を楽しみました。
耀変天目のような鮮やかな青色はありませんが、光の加減でしょうか、金色銀色の油滴が蒼黒くうごめいていて、宇宙を旅しているような神秘的な世界へいざなわれます。
背伸びすると、茶だまりが小粒のダイヤモンドのように清らかに光っていて、この部分だけ別世界のようでした。
この天目茶碗でお茶を喫すると、茶の翠が一段と美しく映え、光の加減で周りの油滴とコラボしてキラキラ耀くことだろう・・・と想像しています。

                

○ No.9 遠浦帰帆図(えんぽきはんず)  牧谿筆
(伝来) 足利義満・・・珠光・・・織田信長・・・荒木村重・・・徳川家康・・・松平正綱・・・徳川家光・・・戸田家・・・田沼意次・・・松平不昧・・・吉川家・・・京都国立博物館

この「遠浦帰帆図」は足利義満によって切断され掛軸に改装された、「御物御画目録」に記載されている牧谿筆「瀟湘八景図」断簡の一つです。
「遠浦帰帆図」は天正元年(1573)の織田信長の茶会や天正11年の豊臣秀吉の道具較べで掛けられた大名物とか。
牧谿筆「煙寺晩鐘図」(畠山美術館)に魅せられて以来、このシリーズは見逃すことができません。

洞庭湖の湖面を渡ってくる風が湖畔の木々の枝を揺さぶり、吹き荒れています。
湿り気を帯びた風の強さを画面から体感していると、洞庭湖に浮かぶ帰帆の影らしきものが2つ、ぼんやり見えてきました。
大きな画の広がりが帰帆する舟の心細さや、自然の猛威のすさまじさが観る者に迫ってきます。
静謐と激しさと、いつまでもこのまま見入っていたい・・・そんな「遠浦帰帆図」でした。

                

○ No.134 赤楽茶碗 銘「白鷺}
長次郎の楽茶碗の名碗が5つ並んで展示され、圧巻でした。
赤楽・銘「白鷺」(裏千家今日庵)、赤楽・銘「一文字」、重文の黒楽・銘「ムキ栗」(文化庁)、黒楽・銘「万代屋(もずや)黒」(楽美術館)、重文の黒楽・銘「俊寛」(三井記念美術館)です。

長次郎作という楽茶碗がいくつ現存するのか知りませんが、今回の展示品は東博の学芸員によって選び抜かれた逸品ばかりなので、見ごたえがありました。
中でも裏千家今日庵蔵の赤楽茶碗・銘「白鷺」を初めて拝見しました。
ほっそりとした素朴の味わいのある筒茶碗で、柔らかな赤肌色の胎土を感じさせる色調が印象に残っています。

解説(図録)によると、長次郎の最も初期の作と思われ、高台(見えませんでしたが・・・)も他の赤楽茶碗に比べると素朴なんだそうです。
展示されていませんでしたが、裏千家4代仙叟宗室が箱書きをしていて、内箱蓋表に「白鷺 長次郎焼」、
蓋裏には「面白やうつすかりなも身につめは 鳥の羽音も立つにつけても 宗室(花押)」とあるそうです。
長次郎の名碗には仙叟の書付が多いと言われているのも嬉しいですね(仙叟ファンなので・・・)。
この茶碗は伊予久松家に伝わって5代不休斎常叟の消息が2通添っているそうです。
S先生から今日庵からの出品はこの茶碗だけ・・・と伺っていましたが、長次郎の「白鷺」に逢えて感激しています。