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アサギマダラが舞っている。アゲハよりはやや小型ながら、モンシロよりずっと大きい姿で、浅葱色の翅を優雅に泳がせている。ここは群馬県中之条町が営む花の駅・花楽の里。草津から帰る湯治客が、肌を休めようと立ち寄った沢渡温泉に通じる暮坂峠道にあって、標高1000mほどに広がる花の園だ。その一角にフジバカマの群落を育てたところ、アサギマダラがやって来るようになったという。どこから来て、どこへ行くのだろう。
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不思議な蝶なのだ。南北に長い日本列島の春から初夏、南から北へ旅をして、夏の終わりにその逆を辿っているらしい。この小さな体で、1日に200キロも移動することや、日本で捕獲された個体が、2000キロ以上離れた台湾や香港まで飛んで行ったことも確認されている。なぜそれほど長距離移動をするのか、どこで繁殖しているのか、その生態はまだ謎に満ちている。ただフジバカマなど、一部の植物に寄って来ることは知られている。
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生態の解明は、捕獲した場所と日時を翅に記し、再び放って移動先での捕獲を記録して行く、マーキング調査によって少しずつ進んでいる。都合がいいことに、翅の浅葱色の部分がマーキングに適している。今ではインターネットによるネットワークが整備され、データが日々更新されているらしい。そんなことも知らない私は、大きな網で捕獲している人たちを見かけ、危うく声を荒げるところだった。「君たち! 蝶を放ってやりなさい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/76/a78eabd80c5821c1653976f11ddeaf74.jpg)
群馬北西部のこの地は、中之条町と合併するまでは六合(くに)村といった。明治33年に草津村から分離した6地域が新たに村を興す際、記紀から引用して定めた村の名である。アサギマダラがやって来るあたりは、入山地区に含まれるか赤岩地区になるのか、私にはわからないけれど、蝶にとって大事なのはフジバカマが咲いていることだ。蜜を吸いながら、その花に含まれる毒を取り込んで、オスは繁殖のためのフェロモンを生み出す。
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だから彼らがやって来るのは、フジバカマが咲くのを待ってである。尾花が穂を膨らませ、コスモスが彩りを増す、高原に秋風がそよぎ始めるころである。ひとしきり翅を休めた蝶たちは、花の盛時が過ぎるとともに飛び去っていく。時期からして、南を目指しているのだろう。六合でマーキングされたアサギマダラが、ひょっとすると南西諸島や台湾で確認されるかもしれない。しかし大海原を渡り切るには、あまりに可憐な姿である。
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花の里の高みに登り、ベンチに座って彼らの旅を想う。どうやって花を見つけるのか、なぜ数千キロも飛び続けるのか、どこに卵を産み付け、嵐の日はどうやって風雨に耐えているのだろう。なんと勇敢で、なんと健気な蝶であろうか。動物の世界では、地球規模で移動する習性は珍しくはないかもしれない。しかしこの薄い翅の羽ばたきだけを頼りに、移動しながら子孫を残して行く逞しさ。それにひきかえ安逸一途の我が身ときたら‥‥。
私は60歳で仕事を辞め、すべての時間を我がものとした。しかし組織や仕事から切り離された生活にどうにも馴染めず、困惑した。「こんな気分で残りの人生を過ごすのはたまらないな」と考えた私は、当時流行っていた「断捨離」なるものを実践することにした。長年の社会人生活で堆積した「付き合い」を、すべて断ち切ったのだ。多くの不義理を重ねることになったのは心苦しいけれど、アサギマダラ的自由を手に入れた。(2016.9.11)
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不思議な蝶なのだ。南北に長い日本列島の春から初夏、南から北へ旅をして、夏の終わりにその逆を辿っているらしい。この小さな体で、1日に200キロも移動することや、日本で捕獲された個体が、2000キロ以上離れた台湾や香港まで飛んで行ったことも確認されている。なぜそれほど長距離移動をするのか、どこで繁殖しているのか、その生態はまだ謎に満ちている。ただフジバカマなど、一部の植物に寄って来ることは知られている。
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生態の解明は、捕獲した場所と日時を翅に記し、再び放って移動先での捕獲を記録して行く、マーキング調査によって少しずつ進んでいる。都合がいいことに、翅の浅葱色の部分がマーキングに適している。今ではインターネットによるネットワークが整備され、データが日々更新されているらしい。そんなことも知らない私は、大きな網で捕獲している人たちを見かけ、危うく声を荒げるところだった。「君たち! 蝶を放ってやりなさい」
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群馬北西部のこの地は、中之条町と合併するまでは六合(くに)村といった。明治33年に草津村から分離した6地域が新たに村を興す際、記紀から引用して定めた村の名である。アサギマダラがやって来るあたりは、入山地区に含まれるか赤岩地区になるのか、私にはわからないけれど、蝶にとって大事なのはフジバカマが咲いていることだ。蜜を吸いながら、その花に含まれる毒を取り込んで、オスは繁殖のためのフェロモンを生み出す。
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だから彼らがやって来るのは、フジバカマが咲くのを待ってである。尾花が穂を膨らませ、コスモスが彩りを増す、高原に秋風がそよぎ始めるころである。ひとしきり翅を休めた蝶たちは、花の盛時が過ぎるとともに飛び去っていく。時期からして、南を目指しているのだろう。六合でマーキングされたアサギマダラが、ひょっとすると南西諸島や台湾で確認されるかもしれない。しかし大海原を渡り切るには、あまりに可憐な姿である。
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花の里の高みに登り、ベンチに座って彼らの旅を想う。どうやって花を見つけるのか、なぜ数千キロも飛び続けるのか、どこに卵を産み付け、嵐の日はどうやって風雨に耐えているのだろう。なんと勇敢で、なんと健気な蝶であろうか。動物の世界では、地球規模で移動する習性は珍しくはないかもしれない。しかしこの薄い翅の羽ばたきだけを頼りに、移動しながら子孫を残して行く逞しさ。それにひきかえ安逸一途の我が身ときたら‥‥。
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私は60歳で仕事を辞め、すべての時間を我がものとした。しかし組織や仕事から切り離された生活にどうにも馴染めず、困惑した。「こんな気分で残りの人生を過ごすのはたまらないな」と考えた私は、当時流行っていた「断捨離」なるものを実践することにした。長年の社会人生活で堆積した「付き合い」を、すべて断ち切ったのだ。多くの不義理を重ねることになったのは心苦しいけれど、アサギマダラ的自由を手に入れた。(2016.9.11)
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