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信州中野の「いきいき館」は、山積みされたぶどうケースのすき間を買い物客が埋め、身動きもままならない。会場前の広場では、入場待ちの人々が長蛇の列を延ばし、さらに道路には、上り下り車線とも駐車場の空き待つ車が数珠つなぎだ。北信濃の、いつもは静かなのであろう街で、いったい何が起きているのか。年に一度、1日だけの「ぶどう祭り」当日なのである。私のような遠来の者まで参入して、果たしてナガノパープルの行方は?
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長野県の、須坂・小布施・中野と続く北東部一帯は、りんごとぶどうの一大産地である。なかでも巨峰は日本一の産地であり、その巨峰を品種改良した大粒の種無しブドウはナガノパープルと名付けられた特産品で、中野が本場なのだ。前週末は須坂・小布施のぶどう祭りが開催され、この日はいよいよ本家中野の登場である。ネットで調べると、主催者は「10トン大放出」と煽っている。私もこの日を手ぐすね引いて待っていた一人である。
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客のほとんどは、地元住民のように見受けられる。産地だといっても、普段気軽に食べるにはやはり高価過ぎるのだろう、この日ばかりは特上品も手に入りやすいようで、皆さん顔を上気させ、大きな房を選んでいる。濃紺のナガノパープルは甘さがブドウのイメージを超え、皮ごと食べ切れる。またグリーンの色も爽やかなシャインマスカットは、これがブドウかと驚かされるほど粒が大きい。品種改良はどこまで進むのだろうか。
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志賀高原からの道路は、急なカーブを50も繰り返して高山を下っていく。いくつもの温泉場を過ぎ、ようやく視界が開けてくると、中野である。海から遠く、広大な平坦部が広がっているわけではなく、豊かな水の流れがあるわけでもないこの土地に、かくも豊穣な実りが産まれるのはなぜか。明媚な風光があるわけでもない平凡な小さな地方の街並みを眺めながら、私はそのことに感銘を覚える。真摯で勤勉な営農の賜物なのだろうと。
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2年前、初めて訪ねた中野の街をぶらぶら散歩していると、「いきいき館でぶどう祭りをやっていますよ」と教えてくれる人がいた。年に一度の祭りに、偶然、来合わせたのだ。愚息たちに送ってやると、男どもはさほど反応しなかったけれど、二人の嫁にはすこぶる喜ばれた。そのとき次男の嫁のお腹は臨月を迎えていた。今年は長男の嫁が同じ状況にある。だからまた安産であるようにと、信濃のブドウを送ってやろうと考えたのだ。
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群馬山中の工房からとはいえ、草津白根山を越えるルートは標高差が1000メートル以上ある。しかも噴火警戒レベルが2に引き上げられたままなので、火口周辺は駐停車禁止が続いている警戒路である。それでも行こうと私を駆り立てるのは、嫁を喜ばせたい、そしてそのお腹の孫をも喜ばせたい一心である。2年前に胎内でブドウを味わった初孫は、すくすくと2歳を迎えている。自分がここまでジジ馬鹿になるとは、感慨一入である。
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草津温泉辺りは雨模様だった。標高2172メートルの渋峠は濃いモヤの中にあって、視界はゼロである。それが峠を越え、長野県に入ると、雲は切れて青空が広がり始めた。西から東へ変化する列島の空模様を、私は東から西へ移動しながら体感している。人為的に線引きされた県境が、分水嶺によってセパレートされ、空までも様子を異にしているのを確認して、なるほど理にかなった境界である、と納得している自分がいる。(2016.9.24)
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長野県の、須坂・小布施・中野と続く北東部一帯は、りんごとぶどうの一大産地である。なかでも巨峰は日本一の産地であり、その巨峰を品種改良した大粒の種無しブドウはナガノパープルと名付けられた特産品で、中野が本場なのだ。前週末は須坂・小布施のぶどう祭りが開催され、この日はいよいよ本家中野の登場である。ネットで調べると、主催者は「10トン大放出」と煽っている。私もこの日を手ぐすね引いて待っていた一人である。
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客のほとんどは、地元住民のように見受けられる。産地だといっても、普段気軽に食べるにはやはり高価過ぎるのだろう、この日ばかりは特上品も手に入りやすいようで、皆さん顔を上気させ、大きな房を選んでいる。濃紺のナガノパープルは甘さがブドウのイメージを超え、皮ごと食べ切れる。またグリーンの色も爽やかなシャインマスカットは、これがブドウかと驚かされるほど粒が大きい。品種改良はどこまで進むのだろうか。
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志賀高原からの道路は、急なカーブを50も繰り返して高山を下っていく。いくつもの温泉場を過ぎ、ようやく視界が開けてくると、中野である。海から遠く、広大な平坦部が広がっているわけではなく、豊かな水の流れがあるわけでもないこの土地に、かくも豊穣な実りが産まれるのはなぜか。明媚な風光があるわけでもない平凡な小さな地方の街並みを眺めながら、私はそのことに感銘を覚える。真摯で勤勉な営農の賜物なのだろうと。
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2年前、初めて訪ねた中野の街をぶらぶら散歩していると、「いきいき館でぶどう祭りをやっていますよ」と教えてくれる人がいた。年に一度の祭りに、偶然、来合わせたのだ。愚息たちに送ってやると、男どもはさほど反応しなかったけれど、二人の嫁にはすこぶる喜ばれた。そのとき次男の嫁のお腹は臨月を迎えていた。今年は長男の嫁が同じ状況にある。だからまた安産であるようにと、信濃のブドウを送ってやろうと考えたのだ。
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群馬山中の工房からとはいえ、草津白根山を越えるルートは標高差が1000メートル以上ある。しかも噴火警戒レベルが2に引き上げられたままなので、火口周辺は駐停車禁止が続いている警戒路である。それでも行こうと私を駆り立てるのは、嫁を喜ばせたい、そしてそのお腹の孫をも喜ばせたい一心である。2年前に胎内でブドウを味わった初孫は、すくすくと2歳を迎えている。自分がここまでジジ馬鹿になるとは、感慨一入である。
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草津温泉辺りは雨模様だった。標高2172メートルの渋峠は濃いモヤの中にあって、視界はゼロである。それが峠を越え、長野県に入ると、雲は切れて青空が広がり始めた。西から東へ変化する列島の空模様を、私は東から西へ移動しながら体感している。人為的に線引きされた県境が、分水嶺によってセパレートされ、空までも様子を異にしているのを確認して、なるほど理にかなった境界である、と納得している自分がいる。(2016.9.24)
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